カレット
なな
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約束までの一週間は短いようで長く、長いようで短かった。
気が付くとやって来たその日に、櫻井は朝礼とスケジュール確認を終えると小さく息をついて鞄を持った。
今日の三時。

「櫻井さん、気を付けて行ってきてくださいね」
「ん? ああ、朝比奈は内勤か」
「はい」

柔らかい笑顔で答える朝比奈にいくらか心が落ち着く。
きっと大丈夫だ。今の櫻井ならば、古賀とも上手く仕事ができる。あの頃とは違うのだ、二人とも大人になった。
大丈夫、そう自分に言い聞かせて、櫻井は朝比奈に笑顔を向けた。

「行ってきます」
「行ってらっしゃい」

営業所を出て車に乗る。古賀との予定は今日の最後だった。
今一度大丈夫だと自分に言い聞かせ、櫻井は車を出した。

* * *

「――ということで、職人の手配はこちらでさせていただきますので」
「わかりました、助かります。お願いしますね、くれぐれも予定期間内に」
「かしこまりました」

二件目の得意先、宝石店の改装をしたいという青年・志倉との話を済ませた櫻井は、平静のまま資料を仕舞ってさりげなく時計を確認した。二時。

「ところで櫻井さん、これからご予定は?」
「はい、新店の立ち上げにあたって、責任者の方とお話を」
「そうですか。それでは、今度お時間のある時にお食事でも」
「ありがとうございます、ぜひ。それでは、失礼いたします」

志倉に笑顔で一礼し、部屋を出た。
いよいよだ。
まず顔を合わせたら、なんと言えばいいのだろうか。何事もなかったかのように営業の人間として挨拶をする、いや、それとも久しぶりにあった友人として笑顔を向けるか。

上手く笑えるだろうか。

(しっかりしろ)

ネクタイを締め直し、櫻井は古賀の元へと向かったのだった。

* * *

車を走らせ辿り着いた場所は、小さな喫茶店だった。洒落ているがどこかひっそりとしていて、話をするにはちょうどよさそうである。
ふと、学生の頃似たような店によく二人で課題を持ち込んだりしたのを思い出し、すぐに忘れようとした。
これは仕事だ。気を抜いてはならない。
店の扉を開けると、店員に声を掛けられたので待ち合わせだと伝える。すると、店員が笑顔で答えた。

「既にお待ちでいらっしゃいます。ご案内いたしますね」



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