はち
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――『もう一回、俺と付き合う気、ないか?』
櫻井は動けずに古賀を見つめる。古賀も櫻井から目を逸らさずに言った。
「俺はあの時のこと後悔してる」
エンジンをかけていない車内。蒸し暑さがじっとりと肌に絡み付くようだった。夕暮れ時でまだ緩和されているが、早鐘を打つ心臓が血液を送り出して身体を熱くさせる。首筋に汗が滲んだ。
櫻井の頬にある古賀の手が感触を確かめるように僅かに動く。櫻井の指先が小さく跳ねた。
「……あれから、彼女できたりもした。けど誰とどこに行くにも、何か話すのにも、櫻井とのほうが断然楽しかったんだ。お前とホントに気が合ったんだなって、大学卒業してからますます、気になって」
――『男が好きとか』
数年前の古賀の言葉が脳内で響く。櫻井は古賀の手に触れ、ゆっくりと下におろした。一緒に視線も下げてしまう。
「……俺は」
言葉が続かない。
黙ってしまった櫻井に、古賀は「悪い」と短く言った。
「いきなり言われても、困るよな。今日は帰る」
古賀が鞄を持ってドアを開けた。止めることもせず、櫻井はただそのまま古賀を見ていた。車から降り、古賀が言う。あの頃、まるで大学帰りの別れ際のように。
「来てくれてありがとう。またな」
静かな音をたてて閉められたドアを、しばらく放心したように見つめていた。身体が熱い。どこか意識に靄がかかったようで、櫻井はしばらくしてからようやくエンジンをかけた。
*
「戻りました」
営業所に戻ると、何人かの社員がオフィスにいた。事務員の一人、須藤が櫻井を見て「あら」と声を上げる。
「櫻井さん、直帰じゃなかったの?」
「その予定だったんですけど、……先方に急な用事が入ったもので」
「そうなの。お疲れ様」
「お疲れ様です」
重い足取りで自分のデスクにつくと、今度はオフィスに朝比奈が入ってきた。手にはファイルを抱えている。資料室にでも行っていたのだろう。朝比奈は櫻井を見つけると「あ」と柔らかい笑みを浮かべた。
「櫻井さんお帰りなさい、お疲れ様です」
「ああ、ただいま。朝比奈も、内勤お疲れ様」
朝比奈が柔らかく笑う。少しだけ心が癒されるような気がした。
しかし、ふと朝比奈が眉をひそめる。
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