じゅうよん
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真っ白な空間にいた。
朝比奈が遠くでしゃがんでいるのが見えて、何をしているのかと歩み寄る。
『朝比奈?』
櫻井が朝比奈を呼ぶと、しゃがんでいた朝比奈はすぐに振り向いた。にこ、と櫻井に笑いかけ、またせっせと何かを始める。
『何してるんだ、さっきから』
朝比奈は振り向くが答えず、代わりににこにこと笑って、また何かを始める。手元を覗くと、そこにはきらきらとした何かの欠片が散らばっていた。
ガラスだろうか。
『危ないぞ』
声を掛けても、朝比奈は気にせずせっせと欠片を集めている。
気がつくと、朝比奈の手元には継ぎ接ぎされたガラスのうさぎが出来上がりつつあった。元の形がそうだったのか、可愛いものが好きな朝比奈が作っただけなのかわからない。もう少しで完成しそうだが、朝比奈は集めた残りのガラスを見つめて止まっている。
『どうしたんだ』
『櫻井さんも』
『ん?』
『櫻井さんも、一緒に作りましょう』
『危ないぞ』
『大丈夫ですよ』
そう言って手招きする朝比奈に、櫻井もしゃがんでガラスを眺める。
近くで見るとますますきらきらとして綺麗だった。
『どうぞ』
渡されたガラスの欠片は何故か温かい。
欠片をうさぎの足りないところにくっつけると、不思議なほどぴたりとはまった。
『これでいいのか?』
『とってもお上手です』
『馬鹿にしてるだろ……』
『してないですよ。俺本当に不器用なので……でもこれは、櫻井さんの大切なものなので、俺も頑張ります』
そう言って、一生懸命ガラスを継ぎ接ぎする朝比奈の姿に、どうしようもなく胸が温かくなった。
やがて、朝比奈から最後の欠片を渡される。
『ありがとう』
そう告げると、朝比奈はいつもと変わらない笑顔で、『どういたしまして』と櫻井の手を包んでくれた。
* *
アラームは鳴らなかった。
それよりも先に目が覚めたからだと気がつくのには少し時間が掛かった。
ーー夢、
「……なんだっけ……」
夢を見ていたことは覚えているが、はっきりとしないうちに忘れていってしまう。朝比奈がいたような気はした。
このところ夢見が悪かったが、今日はやけに寝覚めが良かった。ひどく穏やかな夢だったことは覚えている。
日に日に大きくなる朝比奈の存在が、櫻井の心を埋めていることは間違いなかった。
全てを話してから、朝比奈とは何度か食事をした。少し寄り道をして、映画を観たりすることもあった。
休日の今日は、朝比奈と出掛ける約束もしている。
(一時間も早い……)
役目を果たさなかったアラームのスイッチを切り、ベッドから起き上がってシャワーの支度をする。
テレビをつけると、女性アナウンサーが晴れマークを指していた。
『夜はさらに気温が低くなります。しっかりと防寒対策をしてお出掛けください』
すっかり日中も冷え込むようになり、季節の移り変わりを感じずにはいられない。
全てを打ち明けたあの日から、一ヶ月が経っていた。
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