じゅうろく
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幸せな夢を見ていた気がする。
「……」
微睡みの中、誰かの腕の中にいると気が付いてゆっくりと目を開ける。
「……あ。おはようございます」
夢ではなかった。
「おはよう……」
「ふふ」
まだぼんやりとしながら顔を上げ、今朝比奈が笑顔で見つめているのが寝起きの己だということを急速に自覚した。
「っ……せ、洗面所借りていいか」
「はい、あっタオル用意しますね。シャワーもよかったら」
先に起き上がった朝比奈がリビングへ出ていく。櫻井も上半身を起こし、見慣れない朝の景色に何となく浮き足立つ心地でベッドから降りた。
朝比奈に呼ばれて洗面所に行くと、タオルの他にも朝比奈のものらしい部屋着とまた新しい下着が用意されており、出たらお礼を言おうと苦笑する。
何でも好きに使っていいと言われているので、シャワーを済ませてから朝のルーティンに従って諸々を拝借すると、休日仕様の身だしなみを整えてからリビングに戻った。
「いろいろ借りた、ありがとう。服も」
「いえ。新鮮ですね、パーカーっぽいの着てる七生さん」
「確かに持ってないかも」
言われて朝比奈を見ると、パジャマではないことに今さら気が付く。
「もう着替えたんだな」
「実は結構早く起きちゃって、先にシャワー浴びてました。こっちどうぞ」
言いながらダイニングテーブルに朝食を並べてくれる朝比奈に、つまり櫻井が慌てる以前から寝姿は見られていたわけだと静かに赤くなる。
「何から何まで……ん、」
すれ違い様に触れた唇が控えめな音をたてて離れる。
「したがりなので。目玉焼き、何掛けますか?」
「……醤油で……」
「あ、同じですね」
普段と違う朝にどことなくぎこちなさを滲ませてしまう櫻井は、変わらず爽やかな朝比奈に救われる気がした。
そして完全に甘やかされている。
「ベッド、やっぱりちょっと狭かったですよね。身体痛かったりしないですか」
「大丈夫。むしろ俺、蹴ったりしなかったか」
「してないですよ。ずっと俺にくっついててくれて可愛かったです」
「そこまで聞いてない……」
「あ、照れてる……ふふ、ご飯食べたら一緒に映画観ませんか? この前いくつか借りてきたんです」
「ん、いいな」
「ポップコーンもありますよ」
「はは、すごい」
一緒に洗濯物を干し、有名なファンタジー映画とドラマ映画を続けて観た。途中でピザも取って、ソファーで寛ぎながら笑ったり、感慨に浸ったり、終わると感想を言い合ったりして過ごすのんびりとした昼下がり。
友人といるようでそうではない、不思議で幸せな感覚。
「はあ……面白かった」
「続編出てほしいです」
「出たら映画館で観たいな」
「行きましょう。他にもいろんなところ」
これからたくさん、と肩を寄せる朝比奈に微笑する。
「ん。海外旅行もしたい」
「すごい行きたいです。いつ行きますか?」
「気が早いな。休みが取れる時」
「あはは、そうですね」
ずっとこうしていたい程に心地好い。
朝比奈と時間を重ねる度、自分に呆れて、恥じて、少しずつ変わって、こんな自分も悪くないと思えてくる。
朝比奈が好きだと言ってくれる自分を好きになっていく。
「隼人、」
「はい」
「……えーと」
「? ふふ、どうしたんですか」
珍しそうに覗き込む朝比奈に、上手く言葉が出ないまま口づけた。
「、七生さん」
「……好きになってくれてありがとう……」
目を見て言えた。
どうしても渦巻く感謝の気持ちを伝えたくて、唐突になってしまったそれにも、朝比奈は心から嬉しそうに笑ってくれる。
「こちらこそ。です」
朝比奈が運んでくれる幸せが、ずっと温かくて恐ろしかった。
『普通』じゃないことが『普通』に思えることが怖かった。
終わってしまう時のことばかり考えていた。
結局自分のことばかり。
(変われるかな)
一度砕けたガラスの欠片を、朝比奈は時間を掛けて、一つずつ集めてきてくれた。
もうすべての欠片は手元に揃っている。あとは元に戻すだけ。
そのためにはどうしても、もう一度向き合わなければならないことがある。
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