カレット
じゅうろく
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朝比奈の寝室に入るのは、一年も前になる介抱以来二度目のことである。

「ベッド、セミダブルなのでちょっと狭いかもしれませんけど……くっつけば大丈夫ですよね」
「そうだな……」

緊張でほとんど空返事の櫻井を気にせず、もう少し大きいの買おうかな、と部屋の照明を落とした朝比奈が、代わりにベッドサイドランプを点ける。
そのままベッドに腰かける櫻井の隣に座ると、朝比奈は頬に口づけて言った。

「……俺、自分なりに男同士でできること勉強したんですけど」
「え、」
「だって、変なことして七生さんに嫌な思いさせたくないですし……」

それを告白してくるところが真面目で素直な朝比奈らしい。

「ありがとう……」
「そんな。それで、ちゃんと確かめておきたいなって……七生さんがしたいこととか、したくないこととか」

大事なことだから、と仄かに照らされる朝比奈の表情は優しく真剣で、どちらが年下だったかとわからなくなる。それももうどうでもいいことなのだろう。
朝比奈が櫻井という人間とどれだけ誠実に向き合おうとしてくれているのかは、これまで一緒に過ごした時間で痛いほどに伝わっていた。

「……俺は、」

行為のいろはを知らないわけではない。同級生と同じ頃に興味を抱いて、違うことを知っていった。
誰かに話したこともない。したいこと、されたいこと。
行為の相手だけなら見つけられることも知っていたが、身体から始まる関係には抵抗があった。コミュニティに飛び込む自分を認める勇気もなかった。
誰かに望まれる『普通』を、いつの間にか誰より求めていたのは櫻井自身だった。
無視できない欲を一人で慰め、その度どうしようもなく虚しくなって、やがてそれさえ避けるようになった日々。
好きになって、今に至るまで、朝比奈との夜を想像しなかったはずがない。

「……隼人に抱かれたい……」
「……嬉しいです」

やっと声に出して、いよいよ身の置き所がなくなった櫻井を優しく抱き寄せ、朝比奈が呟いた。

「七生さんがしたいこと教えてくれたのが嬉しい」
「でも無理しなくていい、」
「正直に言ったら、俺は七生さんを抱くほうで考えてました」

考えられていたことだけでどきりとしてしまう。
後だしでカッコ悪いですね、と笑う朝比奈の声は穏やかなもの。

「もし逆でも、……例えセックスはしたくなかったとしても、全部七生さんとなら大丈夫だなって思ってましたけど……本音が聞けて良かったです」

耳元で紡がれる温かい言葉に、どこまで考えてくれていたのだろうと胸が熱くなる。
「ありがとう」と呟けば首筋に唇が触れた。

「……準備、今からしますか?」
「ほんとに調べてくれたんだな……」
「もしかしたら知らなくていいことまで知ってるかもしれません……ちょっとマニアックな感じのとか……」
「ふ、ふふ」

やけに神妙に話す朝比奈に思わず笑うと、「なんですか」と朝比奈も笑った。

「もう。……七生さんがしたいこと、なんだって全部、叶えたかったんです」
「うん。ありがとう」
「ふふ。そういうわけで、七生さんは今日どうしたいですか?」
「……今日は……触るだけがいい」

こんなにたくさん、素直に我が儘を口にしたことはない。

「隼人に触りたいし、触られたい……」
「大賛成です」

こんなに叶えてもらったことも。

ベッドに横たわると、壁と反対側に朝比奈が並んだ。セミダブルでは男二人、ギリギリである。とても寝返りは打てまい。

「そっち、落っこちないか?」
「七生さんが落ちなければ大丈夫ですよ」
「大丈夫じゃないだろ……」
「じゃあ、ぎゅってしててください」

楽しげな朝比奈に甘え上手を見せつけられ、言われるがまま抱き寄せる。
朝比奈が胸元まで布団を引き上げると、どちらともなく口づけた。

「ん……」

たっぷりと時間を掛けて唇が濡れていく。
視線を交える度に啄んでは体温が上がり、舌を絡めて、うるさくて仕方がない心音に息が乱れた。もう暑いのに、それが心地好くて布団を剥ぐ気にもならない。
胸元までのボタンが外され、鎖骨に触れる舌先にひくりと喉が鳴る。優しく腰元を弄る手が前へと這わされ、朝比奈を抱き寄せる腕に力が入る。

「っ……ふ、……ッ」

ズボンの中で下着の上から確かめるように擦る指。とっくに固くなったペニスはそれだけで簡単に先走りを溢し、朝比奈が湿った布に触るのが申し訳なくて恥ずかしい。
重たくなりかけた手で恐る恐る朝比奈の下腹部に触れると、固い感触があった。理解すると同時に込み上げた喜びと興奮で視界が滲む。たまらなくなって視線を上げると、嬉しそうな顔の朝比奈と目が合って唇を重ねた。

「ん、七生さん……下着おろしますね」
「っは、あ……」

朝比奈の指が下着に掛かり、とうとう露になったペニスに直に触る。
当然人に触られるのも初めてのことで、輪を作った指に優しく扱かれただけで腰が跳ねてしまった。

「んは、ぁ……っん、ぅ」

思わず唇を噛むと、朝比奈にキスでほどかれる。声を抑える度にそうされて、櫻井も口づけに応えながら何とか朝比奈の下着に手を潜らせ、ペニスに指を絡ませた。
熱く固い感触は自分のものとそう変わらないはずが、朝比奈のものだと思うだけで愛しい。扱き続けていると朝比奈の唇が耳に触れた。

「はあ……、七生さん……」
「っん、ひ……」

朝比奈の声が鼓膜に深く響き、耳たぶを食まれて息が漏れる。
誰と触れ合っているのか思い知らされる。

「隼、人っ……」
「ん、七生さ……ん、ん」

自然と唇が重なり、口内で舌を合わせる。火照る頭で櫻井が本能のまま舌を動かせば、朝比奈も応えるように絡めてくれた。お互いペニスを扱く手は止めず、深い口づけに夢中になる。

「んぅ……ン、ふっ、んん………」

時折感じる朝比奈の視線は熱く優しい。
性別の葛藤も年上の矜持もどこかへ投げ出されてしまった。
なんの立場もなしに、ただ一人の人間として、朝比奈のことが好きだった。

「ぁ、っ……好き、隼人……」

口づけの合間に溢れたように告げると、朝比奈は少しだけ驚いた顔をして、それから柔らかく笑った。

「嬉しい……好きです、七生さん」
「ん、」

再び唇を重ねると、朝比奈の手の動きが速くなる。櫻井も先ほどより張りつめた朝比奈のペニスを扱き、どんどん絶頂が近づいてくるのを感じる。

「ん、はぁ、も……っ、隼人、」
「はい、っ俺も、もう……ッ」
「あ、んァ……ッう、ふ……!」

達する瞬間に唇を塞がれ、絶頂が深くなる。同時に朝比奈のペニスを包む櫻井の手のひらも熱い液体で満たされ、交わった唾液を飲み込んだ。
ゆっくりと離れる舌先を銀糸が繋ぐ。

「ッん……はっ……はあっ……」
「は……、大丈夫ですか、七生さん」

朝比奈がすぐに櫻井の手をティッシュで拭ってくれたが、拭われる前に見えた白濁に、寸前までの行為を思い知らされてじわじわと顔が熱くなった。準備のいい朝比奈がいろいろと取り出して、隣で寝そべりながら元通りにしてくれる。

「すみません、思いっきり手に……」
「こ……こちらこそ……」
「……ふふ」

少し照れたように笑う朝比奈に、何もかもが満たされた気がしてしまった。

「……気持ちよかった……」

素直に溢れた言葉はそのままに、ありがとう、と抱きしめると、朝比奈が強く抱きしめ返してくれる。

「……俺も、気持ちよかったです。すごく」

優しい声音に心臓の鼓動が落ち着いていく。

ーー隼人に触ってもらえた。触っても大丈夫だった。

だんだんと嬉しい気持ちでいっぱいになり、朝比奈の肩に顔をすり寄せる。勝手に涙が滲んで朝比奈の服を濡らしてしまった。
それから何も問わず、何も言わず、身体を撫でる朝比奈の温かい手があまりにも心地好くて、いつの間にか。


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