ブルースター
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*
「ただいま」
「おかえりなさ〜い」
たた、と玄関に迎えに出た間宮をきょとんとして見つめる莉一に、間宮はにっこりと笑いかけた。
「お邪魔してます!」
「珍し、久しぶりじゃん。元気そう」
「おかげさまで。ホントは今日昼に帰るつもりだったんスけど〜、ちょっと莉一さんと話したくて居座っちゃいました」
「俺と? 何話すの。俺のこと気にしねえでいいから、柾貴といなよ……邪魔しねえからさ」
ニ、と薄く笑う莉一は、優男らしい見た目に反して相変わらずオーラが黒い。しかし怯まず見つめていると、やがて莉一が玄関横の自室の扉を開けて荷物を放った。
「……柾貴がなんか言ったんだ? ベランダでいいなら話しようか」
「どーも」
夕飯も済ませ片付いたリビングに入ると、ソファーに座っていた伊集が「おかえり」と莉一に目を向ける。
「飯は?」
「食ってきた。あ、洗剤買っといたからな」
「ん、ありがとう」
「……」
「くっく、嫉妬されてら」
「ベランダ! 莉一さんベランダ!」
「ハイハイ」
間宮に続き、にやにやとしてベランダに出る莉一をむっとして見る。
莉一は気にした様子もなく、まったりと煙草を取り出して燻らせた。
夜の暗がりでリビングの明かりを背に煙を吐き出すその姿が、まるでドラマか映画のワンシーンのようで思わずそのまま見つめてしまう。
「……で、なんて?」
「あっ。……や、莉一さんが、伊集さんに……俺をあんまり好きになるな、みたいなことを言ったらしいと聞いたもんで」
「あー、言った言った」
「言ったんかい」
「だって、お前ゲイだろ」
煙が緩やかな夜風に揺れる。
「……そースけど」
「柾貴はそうじゃねえの」
「知ってます」
「責任とれんの?」
今度は莉一が間宮を見つめた。伊集も莉一も人目を惹く男前だが、微妙に種類が違う。
いっそう夜が似合うとしたら莉一だろう。
「あいつだいぶ好きだよ、間宮くんのことね」
「……ふへ」
「お前が柾貴に振られるぶんには構わねえんだけど、柾貴振るのは勘弁してほしいわけ。あれたぶんもう女に戻れねえから」
「それは……」
「無理だろうなぁ。前、彼女いた時も知ってるけど、全然ちげえから。かといって他の男に行けるかっつったら、それも無理だろうし。だからまァ、俺が今さら忠告しても遅いんだろうけど」
そう吐き出し、携帯灰皿にトン、と煙草の先をつける。
「慰めで柾貴抱いてやるのなんか御免だからな」
「絶っっっ対そんな機会はねーので安心して放浪してくださいッ」
「本当かねえ」
「本当です。……てか、莉一さんこそ……」
「あ?」
「ホントは伊集さんのこと……、ぶへっゲホッ」
煙を顔に吹き掛けられ咳き込む間宮に莉一がくつくつと笑う。
「バカ、ならお前なんかに持ってかれてるかよ」
「げほ、つよがり……」
「結構喧嘩売ってくんな。一回抱いてやろうか? あ、でもそれだと間宮くんが俺から離れられなくなっちまうか」
「ひえ〜、結構です……初めて抱かれるなら伊集さんがいい……」
「んな面してバリタチなんだ?」
「そスよ」
「ふーん。ま、いいか……なんの話だっけ? そうそ、柾貴を大事にしてやってって話」
「言われなくてもっスけど。大事にします! おとーさん!」
「誰が」
薄く笑い、完全に煙草を潰した莉一が手すりから離れる。
「俺はただのオトモダチですから。……今日も泊まってくなら、どっかで遊んでくるけど?」
「……や、大丈夫っス。昨日ちょっとやりすぎたんで……今日もちょっと朝……」
「くっく、あーそ」
窓を開け、リビングに戻る莉一の背に続いて中に入ると、伊集が莉一をじっとりと見た。
「間宮に変なこと言ってないだろうな……」
「まさか。ちょっといじめられてきただけ」
「は〜!? 莉一さんがいじめてきたんじゃないスかっ、煙草の煙ふっかけたくせにっ」
「すぐ言いつけるなよ、ちっちゃい子か?」
「……莉一、間宮のこと気に入ったのか?」
二人を見てきょと、とした伊集が呟く。
「えっ」と間宮が莉一を見ると、間宮を見つめ返した莉一が的確に乳首をつねった。
「ひゃんッ!?」
「こらッ莉一!」
「ちょっと面白いな」
「やらんからな」
「いらねえよ」
「お、俺の乳首……っ」
けら、と笑って莉一がリビングの扉を開ける。
「やっぱ、ちょっと出てくるわ……あ、間宮くん、俺の部屋。ベッド横の一番下に入ってる玩具、新品ばっかだから、好きに使っていいよ」
「はぇ?」
「り、莉一……っ」
「んじゃ」
またね、と出ていく莉一をぽかんと見送る間宮、呆れた様子でソファーに沈む伊集。その隣に座り、間宮は伊集に少し凭れた。
「……行っちゃいましたね」
「珍しくはない。……間宮、本当に変なこと言われたりされたりしなかったか?」
「だ、大丈夫っスよ……ちょっと、伊集さんの話してただけで」
「俺の?」
「はい。絶対浮気とかあり得ませんってこととか、伊集さんは俺のですっていうこととかをハッキリ伝えておきましたっ」
「……ふ、」
柔らかく笑った伊集が間宮の頬に口づける。
「ありがとう」
「へへ……莉一さん、結構いい人そうスね」
「まあな」
「ちょっと恐ぇけど……いろんな意味で……」
「まあな……」
顔を見合わせ、それから唇を重ねる。やがて口づけが深くなると、伊集の背がずり落ち、ソファーに押し倒される形になった。
「ん……ふ、」
「……リビングでしたら、さすがに莉一さん怒りますよね」
「前にあいつがしてた時、許してやったから、おあいこになるだけだ……」
「してたんスか……ならいいか……、伊集さんが身体平気なら、このまま……」
「は、んっ……平気だ……したい、間宮……」
「玩具使う?」
「いらない……間宮のがいい、あ、っ」
する、すると服の下に入り込む手に伊集の息が震える。首筋に口づけ、間宮は伊集の唇に触れてその瞳を見つめた。
「莉一さんと約束してますし、そんなもんなくても、もう絶対離してあげられないんで……覚悟してください」
「ん……好きだ、間宮」
「あー、すっげくる……嬉しい〜、俺も大好きっス伊集さんっ」
「ん、間宮……っ」
いとおしさでいっぱいになったところで、口づけながら身体を溶かしていく。
代わりなんてとっくに想像がつかなかった。
二度と不安にさせないよう、これからもたっぷりと愛を伝えていかねばなるまい。
「忘れ……オイ早くねえか」
「キャーーッ出てってっ!出てって莉一さんッエッチっ!」
「ぶっくっく」
(引っ越すか……)
*END*
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