ハッと目が覚め辺りを見渡すと、先程までの景色と違い、ネオンの看板が至る所で輝いていた。先程自分は階段を落ちていったはずだが、体は無傷だし、そもそも全然違う場所にいる。

階段から落ちたけど、実は生きてて夢を見ているとか。しかし試しに抓ってみた手の甲はジンジンと痛く、この状況が現実ということを実感した。


昔、階段など高いところから飛び降りてタイムリープするというアニメを見たことがある。それと同じく階段から落ちた時に、タイムリープしたのではないか。そう思うのにはもう1つ理由があり、周りを行き交う人が着物を着ていたり髪型がちょんまげだったりするからだ。現代でこんな格好してる人見たことない。恐らく、江戸時代とかそのあたりかな。
それにしては、ギラついたネオンの看板とかあるのが気になるけど。


色々頭の中で考えていると、通り過ぎる人達が自分を見てコソコソ話していることに気づいた。そうか、この格好だと浮いてしまってるのか。このまま目立ちすぎると変に人を呼ばれてしまうかもしれない。そう思い、人目につかない路地裏に逃げる。


「はぁーー」

それにしても、これからどうしよう。路地裏の壁によりかかり、空を見上げた。
頼れる人なんてもちろんいるわけないし、まず住む場所もない。このままいけばホームレスになって、餓死する未来が見える。現実から逃げ出したいと思ったのに、いざ非現実を目にすると、真面目人間の私は心配しか頭に浮かばない。

もっと楽観的になれれば楽なのにな。



「おねーちゃん、こんな所で1人寂しく誰か待ってんのかァ?」

1人で項垂れているところに、明らかに酔っ払っているおじさんが近づいてきた。これは絶対に面倒なやつだな、逃げよう。咄嗟に判断し、元いた表通りに出ようと後ずさりしたが、


「おっと、逃がさねぇよ」

後ろに既にもう1人の仲間が立っていて、後ろから羽交い締めにされる。恐怖で体が固まり、ヒッと小さな悲鳴が出る。しかも下手に動いたら、この時代だし斬られたりするかもしれない。
かなりマズイ状態であることに気づいたが、体は拘束されており、声も思うように出ない。そうしている間にも前にいるおじさんが迫ってくる。

もう無理だと思って目を瞑ったその瞬間。




「おいおい、こんなところで寄ってたかって。発情期ですかコノヤロー」



気怠げな、どこかで聞いたことのある声が、前方から聞こえてきた。



「ぎ、銀さん……」


そう、前方に立っていたのは、昔読んだ漫画の主人公、坂田銀時だった。ふわふわ天パの銀髪、死んだ魚のような目、ガタイのいい体。学生時代に見てた姿と何ら変わらない。


先程まで恐怖でガチガチだったのが、銀さんの登場で一気に銀さんに意識を持っていかれる。


「あぁん?テメェに関係ねーだろ」

「関係ありますぅー。俺の前でスケベなことされちゃあたまったもんじゃねェ。俺だって最近何もねぇのによぉー…」

「知るかよ!!」


よく分からない理屈を言いながら、こちらへと近寄ってくる銀さん。その足はふらふらしていて、そう言えば顔もほんのり赤い。もしかして銀さんも酔っ払ってる?酔っ払った状態で、大人2人相手にするのはまずいんじゃ…。
銀さんの状況に気づいた時にはもう遅く、おじさんの1人が銀さんへと殴り掛かった。


「銀さん…!」


「……うぉっ」

「急に殴りかかっちゃ……、危ないでしょーがァ!」


銀さんは殴りかかってきたおじさんをするりとかわすと、その腕を掴むと地面へと叩きつけた。結構強く叩きつけられたのか、地面に寝転んだまま動かない。さすが最強の坂田銀時。酔っていてもその強さは変わらない。
この状況に希望が見え安心したのも束の間、自分の首にヒヤリと冷たいものが当てられた。目線を下に下ろすと、後ろにいたおじさんが首に小刀を当てている。


「これ以上暴れると、この女の首かっきるぜ」

「……っ」

「おいおい、女1人に対してどんだけおっかねーんだよ」


やれやれと面倒くさそうに頭を掻きながら、銀さんは近寄ってくる。私はと言うと、どうする事も出来ないので、藁にもすがる思いで銀さんを見つめる。


銀さんが近づくにつれてさらに私の首元に刀を押し付けるおじさん。心臓がバクバクとなり冷や汗が一筋頬を伝ったと同時に銀さんが駆け出し、刀を持っていたおじさんの腕を掴むと私からすぐに引き離した。そして、先程と同様に地面へとおじさんを叩きつけると、私の腕を掴んで「逃げるぞ」と声をかけた。
全てが一瞬の出来事で、今銀さんに腕を掴まれ走っていることも本当に現実なのか未だに信じられない。タイムトリップならまだ有り得るかもしれないけど、漫画の世界にトリップなんて。昔読んだ携帯の小説であったな。その時は銀さんが大好きだったので、主人公に自分を重ねて読んでたっけ。あの頃の自分だったら、きっと大興奮だったろうな。そんなことを前を走る銀さんの背中を見ながら思った。



しばらく走って飲み屋街を抜け、橋の上まで来たところで銀さんが立ち止まった。私は久しぶりに走ったことで息が上がってしまい、呼吸を整えようとしていると、おもむろに銀さんが橋のヘリに向かい、上半身を乗り出した。

そして、大量のゲロを川に向かって吐いた。


「うげぇぇえええ」


耳を塞ぎたくなるような汚い音と汚い絵面に目も耳も逸らしたくなるが、借りにも命の恩人だ。このまま放っておくのも申し訳なく思い、銀さんの背中をさする。先程までとてもたくましかった背中が今は丸く縮こまっている。

気持ち悪くなくなるまで吐ききったところで、ようやく銀さんがこちらを見た。急に見つめられドキッとするが、次の一言で全てを持っていかれた。


「お姉さん、誰だっけ?」

「嘘でしょ?」


先程の酔っ払いおじさん達との絡みからここまで走ってきたこと、全て酔ってて覚えてないとの事。あれだけ派手に暴れたのに、ゲロと共に全て流れ去ったという事なのだろうか。銀さんの悪酔いはタチが悪い。


「銀さん!ここに座ったらダメです!」

「いやもう無理、銀さん限界だよおぉ」


子供みたいに駄々をこねて地べたに座り込む銀さん。何とかして家まで連れて帰らないと。初対面で酔っ払いの介抱するという不思議な経験だが、こっちが一方的に知っている人ではあったからそこまで不快感はなかった。


銀さんの腕を自分の肩に回しなんとか立たせると、銀さんの住処の万事屋へと進み出した。酔っていながらもきちんと次どちらに進めばいいかは教えてくれて、20分ほど歩いて万事屋までたどり着いた。
大人の男の人を支えながらの20分だからかなり体力を消耗した。後は階段を登るだけ、そこまで来たところで銀さんの足の力がふっと抜けてしゃがみ込む。あと少しで家なのに、そのもう少しが頑張れず、最終的には座り込んで寝てしまった。

どうしようこの状況……。スヤスヤと眠る銀さんを見てどうにかすることもできず、仕方なく隣に座る。
この世界に来たのついさっきの事のはずなのに、あまりに色んなことが起こりすぎた。銀魂の世界に飛んで、命の危機に面して、銀さんが助けてくれて。夢みたいな話だけど、体を突き刺す寒さが現実だと教えてくれる。


とりあえずこの寒さを耐えしのごうと、小さく体を抱え込んだ。それでもこの寒い時期に長袖のワンピース1枚では厳しく、人間カイロみたいに暖かい隣の人物にくっつくしかなかった。お酒と微かなゲロの臭いでいい匂いとは言えなかったが、どことなく安心感があり、しばらくするとウトウトしてきてそのまま眠りについた。




さよなら日常



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