銀魂の世界にやって来て1ヶ月が経った。


あれから万事屋の一員として、炊事、掃除、洗濯を当番で任せてもらっている。現代と違うから色々困るかと思ったけど、そこは銀魂の世界。洗濯機やキッチン、掃除機と現代と何ら変わらなかった。家事は元いた世界の時にもやっていたから、慣れたものだった。
一番困ったのは、人と一緒に生活することだった。知り合って間もない人と暮らすというのは、人目を気にする自分にとってはなかなか大変なもので。朝は誰よりも早く起きて身なりを整え、迷惑にならないようなるべく大人しく家事をこなし、スッピンを見られないように一番最後にお風呂に入って寝る。謂わばずっと緊張状態だった。


気を遣いすぎてる理由の1つは、自分が無職で居候の身だったから。いくら家事をやるとは言え1人分の食費は増えているので、生活が苦しくなるのは言うまでもない。そんな状況がしんどかったので、2週間前からバイトを2つ始めた。
1つ目は、銀魂の漫画にも出てきたことのある定食屋。銀さんが宇治銀時丼、土方さんが土方スペシャルを食べに来るお店だ。私が銀さんに働き先を紹介して欲しいとお願いしたところ、女将さんに頼んでくれた。こちらは主に昼のバイトで入っている。
2つ目はコンビニのバイト。ふと立ち寄ったコンビニでバイト募集中だったので応募して働き始めた。コンビニバイトは、定食屋のバイトがない時か、夕方〜夜に入っている。神楽ちゃん達から無理しなくていいネと言われたが、元々働いてないとソワソワする人間だったから、バイトもしつつ家事も当番でやっている今の方が、気が紛れた。


気を遣いすぎてる理由のもう1つは、新八くんたちが私に言ってくれた言葉。



「名前さんが元の世界に戻れるよう、僕たちも協力します」

「名前のこと皆心配して待ってるはずネ」


きっと2人は善意で言ってくれたんだと思う。元いた世界に戻りたいと願うのは普通だから。

でも自分は違った。毎日に疲れてて、挙句どん底に突き落とされるような出来事があって、逃げ出したいと思った矢先、別の世界に飛んだのだ。こっちの世界に来た時、戸惑ったけど向き合いたくない現実から逃げることができて正直嬉しかった。


だから、元の世界に戻る話が出た時は、ショックだった。戻りたくないからというのと、万事屋の皆が少なからず迷惑していて早く戻そうとしてるんじゃないかと変に考えてしまったから。違う、そんなつもりで言っているわけじゃない、と思っても1度考えてしまうと中々消えない。

そんなわけで、一緒に住んではいたものの、どこか一線を引いて接していた。




「ただいま戻りました」


とある日、バイトを終えて万事屋に戻ると、新八くんと神楽ちゃん、定春くんはおらず、銀さんが1人ジャンプを読んでいた。初日以降、銀さんと2人きりになる事は少なく、ちょっと緊張するなと思いながら夕飯の準備の為、台所へ向かおうとした。



「名前、最近どうよ」

「えっ、最近ですか」


変わらずジャンプを手に持ちながら、銀さんが聞いてきた。(銀さんに敬語なのは、自分の年齢を26歳と嘘を伝えて年下設定にしてしまったから)


「楽しいですよ、みんな優しいですし」


そう言って、銀さんに笑顔を見せた。なんの意図があっての質問か分からず、変に心配させたくなかったので、当たり障りのない返答を選んだ。



「……困ってることがあったら、言えよ」


表情を変えず、視線もジャンプに向けたまま言った。

困っている素振りを見せたことはなかった。それでも銀さんの目には、私が何か困っているように映ったのだろうか。銀さんの性格は漫画を読んでたから知ってる。無頓着そうに見えて人のことをよく見てて、ぶっきらぼうだけど情に厚い。きっと私の何かが、銀さんにそう言わせるキッカケになってしまったのだろう。


困っては、いない。気を遣って中々打ち解けれないのは自分の問題で、自分1人で片付けなきゃいけない事だから。
薄っぺらい笑顔を貼り付け、「何も困ってないですよ」とハッキリ答えた。


「そうか」

「……それじゃあご飯の準備してきますね」


何となく気まずくなり逃げるように台所へと向かう。銀さんはそれ以上何も言ってこなかった。

結局言いたいことも言えなかった元の世界にいた時と何も変わっていないな。いい歳してウジウジ気にして、つくづく自分が嫌になった。





そんな毎日を過ごし、ある程度お金が貯まったので住む家を探し始めた。元からずっと居候するつもりはなく、まとまったお金ができたら出ていこうと決めていた。銀さんたちには家探しの事を言わなかった。言ったらまた変に気遣いさせてしまいそうだから。幸い万事屋にある荷物はほとんど無いので、家が決まって出ていく当日に伝えようと考えていた。

結局住む家が見つかったのは、こちらに来て5ヶ月半が過ぎた頃の事だった。不動産やそのツテを巡って、敷金礼金なし、2年は必ず住むことを条件にした部屋を格安で借りることができた。狭いけどトイレとお風呂も付いてるので不便は無かった。難点と言えば、万事屋から離れていること。住み始めたら暫くはバイトを頑張らないといけないので、中々寄れなくなるだろうな。


そうして、引越しの当日。自分の少ない荷物をまとめた上で、今に集まっていた皆に今日出ていくことを伝えた。


「なんでアルカ!!そんなの聞いてないネ……」

「急でごめんなさい。最近急に家が見つかって言うタイミングがなくて」

「別に無理して出てかなくてもいいのに……」

「元々勝手に押しかけてきただけの身だったから、いずれは1人で住もうと思ってて。ずっと迷惑もかけられないから」

「迷惑だなんて思ってないネ!!」


捨て犬みたいに悲しそうな顔をする神楽ちゃんと新八くん。私が思っていたより、2人は私のことを慕ってくれていたんだ、と今になって後悔した。でも、決めてしまった事なので今更なかったことにはできない。


「ごめんね神楽ちゃん。また遊びには来るから」

「1人で出ていくって決めて、遊びに来るなんて都合いいもんだぜ」



厳しい言い方をしたのは銀さん。ただ、言ってること自体は正論だ。
せめてこれまでお世話になった分ということで、封筒に入ったお金を渡そうとした。しかし。


「そんなクソほどの金いらねぇよ」


封筒は手であしらわれ、パサっと床に落ちた。お金すら受け取ってもらえず、この場に居るのもいたたまれなくなり、荷物を持ち上げ万事屋を出た。



「名前!!」

「名前さん!」


神楽ちゃんと新八くんが私を呼び止めるが、私はそれを無視して万事屋を去った。これで誰にも迷惑をかけることがなくなるので、少しホッとした。
お登勢さんたちにも先に簡単に挨拶を済ませておいたから、もうこれで歌舞伎町に寄る理由はない。ばいばい、歌舞伎町。ばいばい、万事屋。


自分からしんどくなって、逃げ出した私に弱音を吐くことは許されなかった。




さよなら日常



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