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「萩原くんに近付くのやめてもらえる?」
「幼馴染だかなんだか知らないけどいつもいつも馴れ馴れしいんだよアンタ」
「て言うか邪魔」

そう私を取り囲んで捲し立てる女子生徒たちに、またかーーと場違いにも思いつつ、間違ってもそれを口に出さぬようお口チャックする。
男子と、それも女子に人気のイケメンと仲良くしていようものなら小中高関係なく呼び出されるのが常だ。

「なんとか言ったどうなの」
「萩原くんにちょっと優しくされたからって調子に乗るなよ」
「萩原くんはみんなに優しいんだから勘違いしてんな」

三人とも鼻息荒く怖い顔で凄んで来るが…どうしようまったく怖くない。怖くはないのだが、さてどう対処しようか。前世の経験を引っ張り出して酔っ払い相手の対処法を試してみる?
なんて考えていると、バタンと屋上の扉が開かれ購買の袋を抱えた萩原が「おーっす」と明るく登場した。

「あれー?みんなお揃いでなにやってんのー?」
「は、萩原くん…!」
「なっなんでも…!ちょっとだべってただけだよ!」
「ふーんなまえちゃん囲んで?」
「質問してたの!ねっ?ねっ?」
「え?あ、うん」

萩原が現れた途端、女子生徒たちは声のトーンをいくつか上げ、わかりやす過ぎるくらい一気に態度を豹変させた。さらには私に同意を求めてくるものだから困ったものだ。面倒くさいから頷いてあげたけれども。
そもそもそれで誤魔化せると思うなんて、彼女たちは萩原を舐めすぎた。温和な彼はそれを言わないだろうけど。

「ね、ねぇ萩原くん!今度うちらと遊び行かない?」
「おっいいねーじゃあどこ行きたいか三人で考えてといて〜」
「う、うん!」
「じゃあまた今度!」

萩原の返しに頬を染めた三人はパタパタと慌ただしく屋上を後にする。
やっと訪れた平穏に溜息を吐けば、萩原は申し訳なさそうに「ごめんねなまえちゃん」と頬をかいた。

「気にしないで良いよハギ。───おーい陣平〜終わったよー」

少し落ち込んだ様子の萩原の肩をポンと叩いて慰めた後、屋上扉の上へ目掛けて声を投げれば、ひょこっと顔を出した松田がうぇー…と嫌そうな顔で猫のように降りてきた。
最初からそこにいて、姿を現す間もなく始まった女子生徒と私のやり取りに松田はドン引きした様子だ。

「陣平ちゃん!いたならなまえちゃん助けてよ〜」
「ハギ。俺は恐ろしいもの見たぜ。女子ってこえーな」
「ねー」
「ねーって、お前も一応女子だろうが」
「一応ってなんだ。正真正銘女子ですが」
「そもそも囲まれても全然ビビってなかったじゃねーか」
「実際怖くないし?」
「まあまあ」

とりあえずメシにしよ?と場を収めるべく、萩原は抱えていた袋から紙パックジュースを取り出し私と松田に手渡す。

「お詫びになまえちゃんにプリンあげる」
「わーリンチされた甲斐あった」
「リンチって」

苦笑を浮かべながら手を差し出す萩原からありがたくプリンを受け取り、それと同時に「ん」と松田から差し出された弁当袋も受け取る。
教室で女子生徒たちから呼び出しを受けた際、こっそり松田に私の弁当袋を託しておいたのだ。

「ほい陣平ちゃん。焼きそばパン」
「おう悪いなハギ」

どかっと屋上の床に座り、いそいそと自分の弁当袋を開封しつつ萩原から購買のパンを受け取った松田は早速その封を切って大きな口で頬張る。


「そういやさぁ、二人は進路の紙提出した?」
「出した」
「なまえちゃん早っ。陣平ちゃんは?」
「あ?…忘れた」

つか進路の紙なくした、とぼやいた松田は残り少ないパンを口に放り込む。

「えー陣平ちゃんちゃんと書かないと怒られるよ。なまえちゃんはなんて書いたの?やっぱり警察官?」
「うん」
「そっかー昔からそこは変わらないんだね」

すごいなぁと感慨深そうにする萩原に、「そうでもないよ」と苦笑する。
警察官になると二人に打ち明けたのは小学生の時だったか。すごく驚かれたのは記憶に新しい。

「つか前から思ってたけど何でポリ公なんだよ」
「ポリ公言うな。…やりたいことがあるんだよ」
「それは警察じゃなくちゃダメなの?」
「うん。守りたい人達と、捕まえたい奴がいるの」
「…ふーーん」

自分から聞いたのに興味なさげに鼻を鳴らした松田はズズとジュースを啜る。

「明確な夢があってすげーなぁなまえちゃんは」
「ありがとう。とは言っても、まあまずは大学だけどね。それよりハギと陣平はどうするの」

答えは聞かずとも知っているが、一応聞いてみる。

「俺は機械いじり好きだから親父の跡継ぎたかったけどダメになっちゃったからなぁ」
「…俺はもう決めてるぜ」
「えっなになに陣平ちゃん」
「ポリ公」
「…マジ?」
「おう」
「"親父さんの件"で警察嫌いって言ってたのに…陣平ちゃんたらどんだけなまえちゃんのこと好きなのよ」
「はあ?!ちげーよ!!なまえは関係ねーから!」

萩原のからかうような言葉に松田は顔を赤くして食ってかかる。
それに笑いつつ「じゃあなに?なんで警察?」と続けて尋ねる萩原に、松田は不貞腐れたように「教えねぇ」とそっぽを向いた。

「二人とも警察か〜。まあうちの姉貴も警察なるみたいだし、俺も考えようかなー」
「三人とも警察とかちょっとウケるね」
「一緒に入校出来たら楽しそうだね〜」
「楽しいわけあるか。警察学校とか刑務所って言われてるらしいぜ」
「…あながち間違いじゃないんだよなぁ」
「「?」」

前世を思い出しながらの私のぼやきに二人は訝しげに首を傾げつつ進路についての話を続け、そのうち警察の機動隊、爆弾処理班、遂には爆弾についての話をし始めるのだった。