「おいなまえー!」
早く来いよ、と投げられた幼馴染の声に「今行くよ」と返し小走りで駆け寄る。
「見ろよこれ!今度はこれ解体しようぜ」
「原付じゃん…勝手に解体しちゃって良いの?ってかどこから持ってきた??」
「ちゃんと元に戻せば大丈夫だって。調子悪そうだし、ついでに直してやるか」
そう言っていたずらっ子特有の悪い笑顔を浮かべ、校舎裏で早速解体作業に入る幼馴染、松田 陣平に呆れ混じりの溜め息を吐き出し、しかし興味深そうにその手元を覗き込む。
幼いながらも彼の手先はとても器用でみるみるうちに原付バイクは原型を失っていった。
どこの誰かは存じませんが、原付の持ち主さん、あなたの愛車は現在バラバラです。
でもきっと不調なく直るはずなので大目に見て欲しい。
「やっぱここ壊れてたわ」
「直せるの?」
「直せないとでも?」
そう言って笑みを浮かべながら部品をいじる松田は時折私に解体、修理、組み立ての説明をしながらバラした原付を仕上げていく。
それにしても"原作通り"相変わらず器用だなぁ。なんて、内心で呟きながら私は自嘲した。
────原作通り────
あの日、────何年かはもう忘れたが、連休明けの5月7日に私は殉職した。
狙われた子供を咄嗟に庇ってナイフに刺されるも、火事場の馬鹿力でなんとか犯人の男を制圧しその後ろ手に手錠をかけた。
遅れて駆けつけた応援の警察官に犯人を託したところで遂に体から力が抜け、寝心地最悪の硬いアスファルトに仰向けで横たわりながら澄み切った青空を眺めて私は重い瞼を閉じた。
そして人生とは呆気ないな、なんていっちょ前に世を儚んで死んだはずなのだが、気が付けばもう第二の人生がスタートしていた。
いつの間にかほかほかの赤子だったのだ。
転生早くない?神様の少子化対策?
もっと間を空けて転生させてよ。というか刺された時の痛みまだ覚えてる…と鮮明な記憶に何度も大号泣し、両親を困らせてしまったのは今でも申し訳なく思っている。
オムツでもないおっぱいでもない。理由なくよく大号泣する赤子をよく育ててくれたものだ。両親には感謝しかない。
そうして大号泣事件を経て、赤子から三歳くらいまでは地方で暮らし両親と祖父母にはそりゃもうめちゃくちゃ可愛がられて過ごした。
その後は父の転勤があり、祖父母に惜しまれながらも家族三人で都会に引っ越してきた。
まあ都会と言っても都心からはかなり離れており、実家とそう差がなかったが。
一つ気になったのは引越し先である"東都"と言う名だが、そんな地名あっただろうか。いやない。
では一瞬に感じた転生までの間には実は何年もの時が過ぎていて、新しく出来た東京的な場所なのだろうか。
それにしてはどこかで聞いた事あるような…と疑問に思いつつ日々過ごしていた。
その疑問が解けたのは後に幼馴染となる二人の男の子との出会いがきっかけだった。
父の車の調子が悪く、仕事が休みの日に一緒に近所の車の整備工場へついて行った時のことだ。小学校に入学する前くらいだっただろうか。
その工場の社長さんが、自分の息子が君と同い年だから仲良くしてやってくれと連れてきた男の子は「おれ、はぎわら けんじ!よろしくな」と人懐っこく私に話しかけてくれた。
「この部品をここにつけるとスムーズにうごくんだよ」
「へえ〜すごいね」
はぎわら君はお話上手で、父の車の整備が終わるまで色んな話をして私を楽しませてくれた。
転生により精神年齢が余程上にも関わらず、はぎわら君のお話は本当に面白くて特に車やその構造などの話はとても興味深かった。
ただ、彼の名前を聞いた時に得体の知れないモヤモヤが生まれ、それが何なのか終始わからなかった。
「なまえちゃん!今日は会わせたいやつがいるんだ」
「?」
この日がきっかけで私とはぎわら君はよく遊ぶようになるのだが、ある日「おれの親友!」と頬に絆創膏を貼った、見るからにやんちゃそうな男の子を紹介してくれた。
名前は…
「…まつだ じんぺい」
「まつだ、じんぺい…?」
「なんだよ」
「なん、でもない」
言葉をつまらせながら何とか返事をしたが、男の子───まつだ君は訝しげに私をじーっと見つめる。
それもそのはず。この時私は酷く動揺していた。
バクバクと心臓が脈打ち、吹き出した冷や汗が背中を伝う。きっと今私の顔色は真っ青だろう。
まつだ じんぺい、はぎわら けんじ
────"松田 陣平"、"萩原 研二"
欠けていたピースが揃うように、私はそれらの記憶を思い出した。
なぜ萩原くんの名前を聞いて気付かなかったのか。そもそも、なぜ東都と聞いた時に思い出さなかったのか。
ここは私がいた世界とは違う世界。
憧れの人達がいた世界。
不意にぐっと肩を捕まれ、俯きがちだった顔を上げさせられる。
「おい!おまえ顔が青いぞ!ぐあい悪いのか?」
「ええっ?ほんとだ!なまえちゃん大丈夫か?」
「う、うん…大丈夫…ごめんね」
初対面で警戒していたのか、少し前まで素っ気ない態度を取っていたのに。私が目の前で顔色を悪くした途端、松田は慌てて身を案じてくれた。
「ほんとに大丈夫かよ」
「…うん。ありがとう、優しいね松田…くん」
「えーーおれは??」
「もちろん、萩原くんも」
深呼吸してうるさい胸の鼓動を諌め、笑顔でお礼を言えば松田は照れくさそうにそっぽを向き、萩原は「おう」と明るくはにかんだ。
この日この瞬間に今世の私の夢は定まった。
警察官。
再び目指すからこそ、もうあんな終わり方はしない。
本の中の世界とはいえ、国民を守る為に散っていった彼らは私の憧れだ。
彼らのように立派になりたいと日々訓練し、そして私も人々を守って死んだ。
今度は彼らを守り、私も生きる。
その為には前世よりももっと知識を増やし、心身共にもっともっと強くならねばならない。
前世の夢の延長だ。
今度こそ必ず彼らのような強い警察官になるぞ。
そう強く心に決めた。