「また仕事してる…」
アーシェは目の前の上官を見つめて、呆れ声を漏らした。
「仕事の書類押し付けておいて、よく言うな」
アーシェが作成した探索任務の報告書を捲りながら、ジークは冷たく返した。
「ミネルバに乗艦中は、24時間勤務だろ」
「休憩はあります」
顔を上げない彼に言葉を投げる。
「ほんとに、一度寝てください」
「さっき寝た」
「フェンリルの中での仮眠は睡眠時間にカウントしません」
彼は昨晩ロドニアの研究所の調査から続いて、一晩中シンとシンが連れて来た連合の兵士の見張り番だった。明け方になると訓練規定を済ませ、そのまま艦長とのミーティング。かと思えば、次は格納庫に姿を現して“フェンリル”の整備に勤しむ。
そして今は自室に篭ってデスクワークだ。
デスクトップには、プラントにある彼の貿易会社から送られてきたであろうデータが表示されている。
睡眠はおろか、食事すらちゃんと取れているのかも怪しい。
「身体が資本の職業ですよ」
「知ってるだろ?俺、人より頑丈に出来てるんだ」
「コーディネーターでも、体調崩す時はあります」
「秘書官みたいなこと言うのな。クロエと同じこと言いやがる」
「元秘書官ですから」
「イザークの苦労を察するな…」
「ジュール隊長は、手がかかる人ではありませんでしたから。こんなに言ったことはありません」
アーシェからしてみれば、むしろクロエの苦労の方を察して同情してしまう。
引き下がる様子のないアーシェに、ジークは顔を上げて大げさに肩をすくめてみせた。
「…分かった。分かったから、もう下がれ」
適当にあしらわれた気がしたアーシェは、不満げに頬を膨らませた。
ジークはその表情をじっと見つめてから、何か諦めたように頭を抱えた。
「ほんと…分かったから。お前が出ていったら、ちゃんとベッドで寝る」
再びため息をつくと、小さく吐き出した。
「今はお前の顔見るの、きつい…」
弱々しく吐き出されたその言葉に、アーシェは面食らったように彼を見つめた。



ジークの部屋を後にしたアーシェは、納得のいかない様子で通路を歩いていた。
顔を見てきついなんて、初めて言われた…
「…だいぶ悪口な気がする」
アーシェは不満げに漏らした。
それにしても…
先程のジークの顔を思い出す。
慌ただしい日が続いたなかで、昨日の研究所の一件。流石に疲労が限界にきているのではないか。
『きつい』
弱音ともとれる小さく掠れた声が、どうも気になった。
彼は普段から無理をし過ぎなのだ。隊長職以外にも抱える仕事が多すぎる。
何をそこまでひとりで背負おうとしているのか。
常に強くあろうとする“狼”の背中が背負う何かに思いを馳せて、アーシェはため息をついた。