#26

――無理矢理に寝かせた自分が悪かったのか
それとも、もともと寝起きが悪いのか。夢見が悪かったのか…
アーシェは、碧空を猛進する漆黒の友軍機を視界の端に捉えて考えた。
「んー…でも、むしろ“良かった”かな?」
曖昧にそう言って首を傾げる。
ギリシャ南部、クレタ沖。
こちらの進路を把握していたように待ち構えていたオーブ軍の迎撃に出たアーシェ達は、ミネルバに取り付こうとする敵機をなぎ払うのに必死だった。
ただ1機、アーシェの上官の搭乗機“フェンリル”だけは活き活きとしていた。
戦闘が始まる数時間前、レクリエーションルームで会った彼は上機嫌に見えた。彼はアーシェの顔を見るなり「おかげでよく眠れた」と爽やかな笑顔を見せた。
呆気に取られたアーシェはそのとき、前に副長のグレイが教えてくれた彼の性質を思い出した。
『あからさまに機嫌が良さそうなとき程、はらわたが煮えくり返っている時だ』
そんなタイミングでの出撃だ。
いま、オーブ軍のモビルスーツは彼の格好の憂さ晴らしの標的だった。
彼の機体“フェンリル”は立ちはだかる敵機を次々とコックピットから削いで、オーブ軍艦隊に向かっていった。
「まぁ、私のせいじゃないし」
アーシェは“フリッグ”を駆りながら、淡白な調子で呟いた。
ミネルバの甲板上で迎撃するルナマリアの“ザクウォーリア”の死角を狙って加速してきた“ムラサメ”を撃ち落とす。
敵であれば堪ったものじゃないが、友軍である自分達にとっては今の彼の“不機嫌”もこれ程頼りになるものはないだろう。
今日こそオーブ軍、そして毎度追ってくる地球軍のあの部隊とは決着を着けたい。こう何度も奇襲を受けていたら、目的地に辿り着くまでに疲弊してしまう。
アーシェが考えを巡らせていると、進行方向の九時と二時の方向からさらにモビルスーツの群れが迫ってきていた。
オーブ軍の“アストレイ”と“ムラサメ”、地球軍の“ウィンダム”。
前回のダーダネルスでの戦いと同様に、多勢で挟撃をしかけてきたのだ。
その数に、敵の「必ず討つ」という確固たる意志が見て取れた。それ程英雄と持て囃されるミネルバの存在が脅威ということだろう。
上空を庇った量産型モビルスーツの大群の中に、白いモビルスーツを見つけてアーシェは身構える。
「…アレウス」
太陽の光を浴びて輝く純白の姿は、この紺碧のエーゲ海によく映えていた。