ザフトの猛撃によって、戦闘はほどなく終わった。
アーシェは沈黙する戦場をぼんやりと見回した。

――やっと終わった

そして、守れなかった。
遠く祖国があったはずの方角には、切り裂かれたプラントが緑の大地を曝け出したまま浮かんでいた。
その周囲をキラキラと雪のように舞う何か。プラントの表面を覆っていた自己修復ガラスと内部から吹き出した水蒸気、そして…
「だめよ、ワルキューレ」
ワルキューレ”のカメラがそれに向けてズームしようとするのを咄嗟に止めた。
見なくとも分かる。一瞬で宇宙空間に投げ出された同胞たちの変り果てた姿だろう。
老人も、子どもも…なんの罪もない民間人が、一瞬で殺された。
アーシェが初めて経験する圧倒的な敗北だった。

『お前が“フリッグ”と共にこの国を勝利に導くのだ』

激しい憤りと屈辱に襲われながら、アーシェは父の教えを思い出した。
父はナチュラルを忌み嫌い、必ず侮蔑的な呼称を使うものだった。
地球にへばりつくだけの無能、と。

『奴等は嫉妬深い。そして、残酷だ』

「嫉妬深くて、残酷…?」
途端、アーシェの胸のうちにこれまでとは違う感情が湧き上がってきた。
急激に全身から体温を奪っていく感情の名を考えながら、視線をゆっくりと動かした。
ふと、プラントとは反対側、月に向かって散り散りに撤退しようとする敵の後ろ姿を見つけた。
そのなんとも情けない姿に、氷のような嘲笑が口元を掠めた。
「なんだ、まだ終わってなかった」
すかさずレバーを引き、“ワルキューレ”のペダルを思い切り踏み込んだ。
《アーシェ?》
イザークがハッとしたように声をあげる。
《アーシェ!もういい、撤退だ!》
コロニーを破壊出来ればひとまず2射目はすぐには撃てない。戦意の無い敵を相手に消耗する必要はないのだ。背後から追うイザークは、必死に呼びかけた。
その声はアーシェの耳に届くことはなかった。

――壊さなきゃ

「プラントの敵は、全部…!」

戦意無い敵は撃たないなど、そんな生温い考えでは駄目だ。
小さなモビルアーマーひとつでも撤退を許したら、奴等はまた向かってくる。
命ある限り、何度だってコーディネーターに悍ましいまでの殺意を向けるだろう。
此処で全て再起不能にしなければいけない。
アーシェの想いに、気まぐれなパートナーは付き合ってはくれなかった。
遅い。思い通りのスピードで動いてくれない“ワルキューレ”に、アーシェは憎々しげに舌打ちをした。

壊さなきゃ。
プラントの敵は全部。
ナチュラルは…

――ころさなきゃ

いま自身を突き動かしている激情の名を、アーシェはまだ知らなかった。




アーシェと同時に、フィーネも連合の残存部隊を視認していた。
《フィーネ!》
アーシェとともに“ワルキューレ”を駆るフィーネにも、既に上官の声は届かない。
痛む身体に鞭打ってでもやらなければならないことがあった。
壊さなきゃ。
奴等はまた同じ事を繰り返す。
僅かな火種でも消しておかなければならない。
ロード・ジブリールの非情なやり方を、フィーネは誰より理解しているつもりだった。
自分なら防げたのではないか。ジブリールに付き従っていた間、どこかで今日の惨劇を予見できたのではないか。
この敗北は、あの男の思惑に気付けなかった自分のせいだ。
ジークの足を引っ張ってしまった。自責の念が激しく迫る。
フィーネにとってプラントは祖国ではない。コーディネーターの“誰か”が死ぬことは、さして重要ではなかった。
それでも、プラントを失うわけにはいかないのだ。ジークは、あの砂時計のなかでしか生きられないのだから。

――私が守らないといけないのに!

フィーネの焦りなどお構いなしに、パートナーは「弱ってる敵なんて追って愉しい?」と呑気に言い放った。
「馬鹿ね、今はそういう話じゃないのよ。愉しむのはまた今度にしなさい」
さらに反抗的な言葉が返ってきて、フィーネは顔を顰めた。
「ほんと、可愛くない子…!」




――ああ、もうッ!

アーシェとフィーネは、それぞれのコックピットの中で苛立ちを叫ぶ。
いつまでも大人しく言うことを聞いていると思ったら大間違いだ。
操縦者パイロット”は、この“私”だ。
全身にかかる負荷など構わずに、2人は“ワルキューレ”の全ての砲口を解放した。
女神のご機嫌取りはもうお終い…

「貴女が…」 「あんたが…」

――私に合わせなさい!ワルキューレ!