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生まれて初めて告白をされた。
おかげで昨夜はまったく眠れず、肌の調子はすこぶる悪い。

「…そもそも、あれって告白なのかな」

俺と付き合ってみる?
菅原の言葉を思い出してなまえは首を傾げる。あれは告白というよりも、提案のような感じだった。
菅原とはなまえが中学三年の時からの付き合いで、受験の時は時々勉強を教えてもらったり、兄と喧嘩したり言い合いになった時には仲裁してもらったり、愚痴を聞いてもらったりと色々世話を焼いてもらっていた。東峰を含めて、なまえにとっては第二の兄のような存在だ。
そんな菅原が一体全体どうして自分に付き合おうなどと言い出したのか、見当もつかずに首を捻るだけであっという間に時間が過ぎる。

「なまえ、このプリント、大地に渡してほしいんだけど」
「えっ」
「三者面談のなんだけどね。今日までなのに渡すの忘れちゃって」
「えぇーーー…」

問答無用で押し付けられたプリントをなまえは渋々受け取る。できれば今日は三年の教室には近づきたくなかった。
菅原に鉢合わせたらどんな顔をしていいのか分からなかったし、うろたえる自分を見て兄に何か勘付かれでもしたらそれこそややこしい。

「いってきまーす…」

いつもの通学路を歩く足取りは重たい。
帰宅部のなまえと、バレー部である兄とは家を出る時間が一時間以上も違う。自分の足元を見つめとぼとぼ歩きながら、昨日、こっそり並べて比べようとした菅原の足を思い出した。
そういえば、彼や東峰が初めて家に来た時、玄関に並べられた靴の大きさにひどく驚いたものだ。兄のそれも大きいのは大きいが、三足並ぶとなかなかの圧迫感で、その割に部屋から出てきた二人が予想に反して優しくて柔らかい雰囲気の持ち主であったので、すぐに慣れて色々と話すようになったのを覚えている。受験生の時に勉強を教えてもらって、そう、あの頃のなまえにとって、菅原はちょっとした憧れのお兄さんだったように思う。

「でもなぁ……」

菅原と付き合うってどんな感じだろうか。
そもそもまともに彼氏などできたことのないなまえには到底想像つかないことの方が多いようには思えたけれど、手を繋いで帰ったりキスをしたりするのだろうか。
自分が?菅原と?
自問自答してなまえは急に恥ずかしくなった。自分と菅原が手を繋いでいるところはギリギリ想像できたけれど、それ以上のことは想像すらできなかった。
なんとなくやましい気持ちになりながら、学校がもうすぐそこだったことに気づく。
後ろからランニングの掛け声が迫ってきたのでどきりとしたけれども、なまえを追い越した生徒たちはバレー部ではなくサッカー部のようだったので、ほっと息を吐いてからやはり重い足取りで校門をくぐった。










「すまんな、なまえ」
「もー、しっかりしてよ」

朝練終わりだと確実に菅原と出会ってしまうので、一限目が終わるのを待ってからなまえは三年の教室へ向かった。とは言っても菅原と澤村は同じクラスなので、会う確率が高いことに変わりはないのだが。
階段を上がってすぐのところにタイミングよく兄が現れたので、内心で胸をなでおろしながら呼び止めプリントを渡す。

「あれ、なまえちゃん」

しかし踵を返す前に、昨日何度も頭の中で繰り返し再生していた声が自分の名前を呼んだので、なまえは危うくひっくり返りそうになった。
澤村の後ろからひょっこり現れた菅原は、そんななまえを見ておかしそうに笑うと、「大地が忘れ物なんて珍しいな」なんていつも通りに話すので、一体何を言われるのかと身構えていたなまえは拍子抜けしてしまった。

「あ、じゃあわたし、戻るね」
「ありがとな」
「うん」

逃げるように階段を下りる。
踊り場まで来て振り返ると、階段の上には菅原だけがまだ立っていて、まるでなまえが自分の方を見るのが分かっていたかのように歯を見せて笑った。それからひらひらと手を振ってきたのでなまえの方もつられて手を振り返す。

「す、スガくん、」

なまえは何かを言わなければいけないような気がして口を開きかけたけれど、結局何を言えばいいのか分からずじまいで、菅原の真似のつもりでふにゃりと下手くそな笑みを向けた。菅原の手がぴたりと止まる。
しかしチャイムが鳴って慌てて階段を駆け下りて行ってしまったので、なまえがその時の菅原の顔や、動きを止めた手がくしゃりと彼の柔らかそうな髪を掻くその仕草を見ることはなかった。




やわらかなミモザ

ミモザの花言葉「秘密の恋」
161019

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