海に行くって言うことはそう言うことだよなあ……。と思いながら私は適当に手にしたシンプルなワンピースを広げる。
「それにするか?」
背後から顔を覗かせた諸伏さんに苦笑しながら手にしていたワンピースをハンガーラックに戻す。「やめるのか…」なんて、そんな落ち込んだ声で言わなくてもいいだろうに。
休日に私と諸伏さんが来ていたのは洋服屋さんだった。先日海に行く約束をしたため「外出用の服がいるよなあ」とわざとらしく言われた時は肝が冷えたものだ。ああ、このための約束だったのかと。そのまま彼に引きずられ、気付いたら大手チェーンの服屋さんについていた。女性の服はよくわからないから、好きなものを選んでくれ…なんて言われたが、わからないと言うなら私も同じだ。全くわからない。
しかし、選ばないとまた落ち込んだ顔をされるんだろうな…と思うと気は進まないが買わないわけにもいかない。あの顔は精神的にくるものがある。あんな顔をさせたいわけではないし。
店内を適当に歩きながら何着か洋服を手にする。すぐ隣の通路では、私と同じくらいの女の子たちが楽しそうに買い物をしていた。ついついその集団を目で追ってしまう。学校内に友達と呼べる人はいたが、放課後や休日ああやって遊んだことは一度もない。少しだけ、羨ましいような気がした。
「あの子たちが持ってる服が気になるんだな?」
「あーいえ、違うんです」
私の視線を不思議に思ったのか、諸伏さんが聞いてくる。残念ながら服なんてちっとも頭の中に入ってなかった。
「違うのか?」
「はい、友達とお出かけっていいなぁって」
「え?今俺と出かけてるじゃないか」
「諸伏さんは……なんというか…保護者みたいな感じじゃないですか」
「えー?」
そうかー?と彼は唇を尖らせる。性別も年齢も違うからか、友達という感じにはどうもならない。はたから見ても私たちが友人に見える人は少ないんじゃないだろうか。兄妹とか、あるいは……。
「ねぇねぇ、あっちの人かっこよくない?」
その時、先ほど私が見ていた隣の通路から声が聞こえた。思わず顔をあげると女の子たちの視線は案の定諸伏さんに向いたものだ。確かに、諸伏さんはかっこいい。というか降谷さんが近くにいるせいで私の感覚が狂っているだけで、相当おモテになるだろう。降谷さん目的で近付いて、彼の内面に惚れてしまう人とか多そうだなぁとは前々から思っていたのだ。
「確かにかっこいいけど、彼女いるっぽいよ?」
「あ、まじだ」
わかるわかる、かっこいいよね…と第三者目線で頷いていたのに、そんな言葉が聞こえてきて思わず諸伏さんの方を見てしまう。誰かが彼の周りにいるわけでもなく、それはおそらく私に向いた言葉だ。
かかの、彼女!?
私が!?諸伏さんの!?
そんなわけないです!と主張したいが、ここで彼女たちに詰め寄ったらただの変質者なのでグッと堪える。というか……私たちってずっとそんなふうに見えていたのだろうか。考えだすと止まらない。それに私的には家主と居候の感覚でいたものだから少々照れ臭い。いやでもそれもそうか、世間から見たら家主と居候なんて特殊な状況より、同棲してるカップルくらいの方が簡単に説明できる……。
でもそれって、諸伏さんからしたらとっても迷惑なのでは…。流石に私を家にあげてる時点で彼女はいないと思うが、例えば彼に好きな人ができたら私は……。
「大丈夫か?」
どうすれば……なんて悩んでいると、諸伏さんがひょこっと覗き込んでくる。この人、いつも距離近いな…。
「だ、大丈夫です。ちょっと考え事を…」
「やっぱり買い物は迷惑だったかな」
「いえ!こういうの初めてなので慣れていないだけですよ」
「じゃあ、少しずつ慣れていこうな」
諸伏さんは何も知らない顔で笑う。本当に優しくて…少し心配になってしまう。きっと事故にあったのが私でなくても彼は平気で助けて、手を差し伸べていたのだろう。それがたまたま私だっただけで、彼にとっては特別でもなんでもないんだ。
「はい、少しずつ慣れていけたらいいなって思います」
不器用に笑顔を作って、再度ハンガーラックにかかる洋服を見る。これも彼の時間を奪っていることだから、早く何か適当に見繕わないと。
結局、数分後に諸伏さんが「似合うと思う!」と意気揚々と持ってきた服に決めて、その日はあっさりと帰路についた。
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