今日は朝から沖矢さんが家にいなかった。広い家に一人ぼっちというのはなんだか物悲しいものだ。行き先は言っていなかったけれどきっと大学なんだろうなと思いながら掃除機をかける。毎日毎日この豪邸の全体を掃除するのは大変なので、曜日によって掃除するエリアを分けている。例えば今日は玄関周り、明日は書斎。
大体の掃除が終わるとお昼の時間だ。掃除機を片付けながらお腹すいたなぁと声が溢れる。今日は私一人でご飯かと思うと手の込んだ料理をするのも面倒で、冷凍してあったうどんを適当に茹でる。沖矢さんにはこんなところ見られたくないものだ。
茹でたうどんに薄めた麺汁をかけて料理と言えないような料理は終了。有希子さんから輸送で送られてきた最新型の携帯を片手に行儀悪くうどんを啜る。とは言っても携帯に連絡があるはずもなく、見るのはネットニュース程度。この端末には有希子さんと沖矢さんの連絡先しか入っていない。
相変わらず事件が多いなぁ、と思いながらネットニュースを適当に見ていく。誘拐、殺人、強盗、放火…。あまりにも色々起こりすぎていて「治安悪っ」と声が漏れる。
そうこうしているうちに昼食も終わり、さっと皿を洗って買い物の準備をする。そういえば……と沖矢さんのお酒が入っている棚を開けると、彼が好んで飲んでいるバーボンが残りわずかになっていた。やっぱり、もうすぐなくなるだろうと思っていたのだ。
ついでだし買ってくるか…と思いつつバーボンには色々種類があるんだと思い返して携帯を取り出す。まぁ、後から何か言われるよりはいいか、と沖矢さんに「バーボンがなくなりそうですが、買ってきて欲しい銘柄はありますか?」とメッセージを送る。近所にお買い物に行く程度だ、部屋着でいいだろうと玄関に向かうとすぐに返信があった。
『丁度帰るところなんです。一緒にいきましょう』
「え……?」
まさかそんな返答があるとは思わず踵を返す。こんな部屋着で外に出るわけにはいかない。早く着替えなければ、と意識は完全に切り替わった。
「バーボンって本当にいっぱいあるんですね…」
スーパーのお酒コーナーに並ぶ瓶をじーっと見つめていると、カートを運転してくださっている沖矢さんが「ええ」と微笑む。そこにはバーボン…だけではなくいろいろなお酒が並んでいた。チューハイや果実酒しか飲んでこなかった私には奥の深い世界だ。
沖矢さんからの連絡を受けた私は、それから少ししてから帰ってきた彼の車で近所のスーパーに来ていた。なくなっていた調味料の詰め替え用や、必要な食材をカートに入れ、車で来たことをいいことにお米も買おうとカートの下部に乗せる。一人できたら買えなかったから丁度いい。
それからお目当てのものを揃えてお酒コーナーにきたのだが、違いが一切分からず酒瓶と睨めっこをしていたところだ。悩む私をよそに沖矢さんが一本のお酒を手に取った。
「それにしますか?」
「いや……悩んでいまして…」
「どれとです?」
「これです」
沖矢さんはそう言って空いてる右手でもう一本手にする。パッケージは違うようだが、味を知らない私には違いがわからない…。私みたいな素人に口出しされるのも嫌だろうなぁ、と悩んでいる彼を待っていると、沖矢さんはこちらを向いて「どちらがいいですか?」なんて聞いてくる。え、今嫌だろうなって思ったばかりなのに。
「わ、私お酒の違いなんてわからないですよ」
「見た目の好みで決めてくれて大丈夫です。どちらも甘めの物なので、飲みやすいと思いますし」
「え、それって」
まさか、と思って目線だけで聞き返すと、彼は当然と言いたげに「はい」といった。勘弁してくれ。
「今日はこれで晩酌でもいかがですか?」
お酒ネタで私に意地悪を言ったのはあなたの方でしょう、と思いながら「…右ので」と答えると、彼はそれをカートに入れてさっさとレジに向かってしまった。
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