不穏な影

あの日から変な視線が増えたように思う。

私の勘違いだったのならよかったのだが、そうでは無いようで…

最初に異変に気がついたのは晶ちゃんだった。


「なあ葵、最近なんか変わった事あるか?」

「え?特に無いけど… どうかしたの?」

晶ちゃんは眉間に皺を寄せ

「いや、無いなら良いんだ。

でも、何か変な事があったら私にすぐに言えよ」

真剣な表情で話す晶ちゃんに気圧されつつも頷けば、晶ちゃんは笑顔になって自分の席へ戻って行った…





しかし、その日の帰り道に事は起こった。

晶ちゃんと千尋くんの家は同じ方向で私1人が途中で別れる。

私たちは寄り道をせずにいつもの分かれ道で別れた。

そこまで人通りが多い訳でもなく、自己防衛のためにもなるべく人通りの多い道を選んで帰っていたのだが、今日は明らかに違う点があった。

家まであと少しの十字路のカーブミラーに黒を基調とした服と帽子、サングラスといったいかにも不審な人物が写っていたことだ。

一瞬息が詰まったが、私は静かに相手に悟られないように、でもいつ見つかるか分からないので、カーブミラーから視線を外さないように後退したが、走り出そうとした瞬間、その不審者の口の端がつり上がったのが見えて急いで来た道を戻り始めた。

道行く人は不思議そうに私の事を見ていたが、気にとめる事なく走り続けた。

途中で誰かに呼び止められたような気がしたが、その時の私は恐怖で気が動転していて足を止める事ができなかった。


私は走り続けて兄が住んでいるマンションの合鍵を使って部屋の中に逃げ込んだ。


怖い、怖い、怖い、部屋の隅で小さく丸まってひたすらこの恐怖が去るのを待った。


どれくらいの時間が経っただろうか……
ガチャリ…という音と共に複数の足音と話し声が聞こえた。


「ちげぇーって、おいコラ葵、いつもは部屋に来る時連絡すんのに今日はどうし……」

私は兄が視界に入った瞬間、思わず兄に飛びつき縋り付いた

「お兄ちゃん!お兄ちゃん!お兄ちゃんっ{emj_ip_0792}」

恐怖が蘇る、口の端がつり上がった男に対する恐怖が……

「おい、葵落ち着け!
何があったんだ{emj_ip_0793}」

私の肩をがっしりと掴んで揺さぶる兄を兄と共に部屋に入ってきた1人の男性が止めた

「陣平、そんなに揺さぶったら話せるもんも話せねーだろ!
ほら、ゆっくり呼吸して、そう、いい子だ……」

私はその男性の言う通りゆっくりと呼吸を整えた。

私の呼吸が落ち着いたのを見計らって、兄がコーヒーとホットミルクを机に置いたのを合図に定位置に着いた。

「それで、何があった?」

真剣な表情の兄に、話すべきなんだろうが、勘違いという事もあるかもしれないと考えると、なかなか話せず唸っていると、男性に頭をポンポンと撫でられて

「大丈夫、ゆっくり話してみ?」

と促されたからには話さない訳にはいかず、最近感じる変な視線の事や、今日見た不審人物の話を洗いざらい話した。


兄と男性は真剣な表情を崩さずにお互い頷くと、兄は私の頭をワシャワシャと撫でると

「とりあえず、葵をしばらく俺の部屋で面倒見る事を母さんたちに連絡入れてくる」

そう言ってケータイを持って部屋を出た。

部屋には私と男性だけが取り残される。

しばらくじっとしていると、男性の方から話を振ってきた

「怖い思いをした後だけど、とりあえず自己紹介でもすっか。
初めまして、俺の名前は萩原 研二。
君のお兄さんの陣平とはは同期で、警察学校に通ってる。
萩原さんでも、研二くんでも好きなように呼んでくれ」

「あ、えっと、松田 葵です。
それじゃあ、萩原さんと呼ばせてもらいますね。
改めて、萩原さん色々とありがとうございました、あと、兄がいつもお世話になってます?」

まさかの自己紹介で少し戸惑ったが、何とか返す事はできた。

萩原さんは1人うんうんと頷いて

「陣平から話は色々と聞いてたけど、陣平と違って礼儀正しいし、何より可愛いし、妹っていいなって思った。
それに、」

「それに?どうしたんですか?」

「あいつが女作らずにいる理由がなんとなくわかったしな!」

そう言ってカラカラ笑う萩原さんと、何で笑っているのかよく分からない私というなんとも不思議な空間が出来上がった


そこへ兄が帰ってくると、萩原さんを見て こいつどうしたんだ? と指すが、私も分からないため首を傾げた。


2人揃って首を傾げたのが可笑しかったのか、萩原さんは更に笑い出して、痺れを切らした兄が萩原さんの頭に鉄拳を入れた事によって、萩原さんの笑いは静まった。


その様子がおかしくて私はつい笑ってしまって、2人は

「やっと笑ったな 」

と言って私の頭をクシャクシャと撫でた



兄と萩原さんのお陰もあって、恐怖は少しずつ薄れていった。





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