0.5
あぁ、私はなんという事をしてしまったんだろう…
私の目の前で徐々に冷たくなっていく一人の女性を眺め、考える。
誰にでも優しい彼女…
自分がどんなに苦しくても、友人を優先してくれる優しい彼女…
私のことなのにまるで自分のことのように喜び、悲しみ、怒ってくれる優しい彼女…
優しくて、優しくて、だけどその優しさの中にも厳しさはあって…
私はそんな彼女の事が大好きで、愛おしくて……それと同時に大嫌いでもあった。
最初は仲の良い友人で満足できた。
でも、次第にもっと彼女を知りたくて、もっと彼女に触れ合いたくて…
一時期は自分のこの感情に戸惑って、彼女から距離を置いたことがあった。
でも、胸の辺りがキリキリと悲鳴をあげるように苦しくて、耐えられなくなった。
そして気づいた、あぁ、私は彼女の事を心から愛しいと感じているんだと…
そう気づいた瞬間、今まで見えていた景色が色付いた。
彼女の隣にいるだけで前よりも幸せを感じられたし、彼女の笑顔を見ると自然と笑顔になれた。
でも、そんなのは最初だけだった
彼女は優しいから、色んな人に笑顔を向けるし、気遣い、心配する。
そんな姿を他の人に向けないで!私だけを見て{emj_ip_0792}
たかが、営業の外回りで愛想笑いしてただけなのに、胸の内でドス黒い何かがふつふつと湧いてくる。
「どうしたの?顔色が悪いけど…」
心配そうに顔を覗き込んでくる彼女に、大丈夫だと伝えると
「んー、それなら、私が疲れたからちょっと休憩に付き合ってもらえるかな?」
そう言って私の手を握ってゆっくりと歩き出した。
たったそれだけで先程までふつふつと湧いていたドス黒いものはナリを潜めて、景色は色鮮やかな花のように色づいた。
ある日私は、このドス黒いものは嫉妬だと気づいた。
嫉妬は醜い感情だと言われているのを知っていたからこそ、そんな私を彼女に見られたくなくてまた、距離を置いた。
距離を置いていても彼女の姿は視界に入る訳で、彼女が笑いかけ、周囲にいる男も女も全て憎くてたまらなかった。
その憎しみはいつの間にか彼女にも向いていた。
その時彼女は忙しくて、私の変化には気づいていなかったし、気づきようもなかったと思う。
自分から離れたのに、悲しくて、哀しくて、耐えられなくなって会いに行った。
最近 残業続きだから寝てるかな?と思って帰ろうとしたが、扉はすぐに開いた。
たった数日見なかっただけなのにこんなにも幸せな気持ちになるのはどうしてなんだろう……
私が相談があると話を切り出せば
「こんなに夜遅くに女の子が外で歩いてちゃ危ないでしょう?
連絡くれれば迎えにも行ったのに…ほら、外は寒かったでしょう?
早く入って体温めよう?」
残業続きで疲れているはずなのにそれを微塵も感じさせない彼女を、素直にすごいと思った。
リビングに通されて、暫くするとマグカップが運ばれてきた。
私の中身はココアで、優しい味に涙が零れた。
そんな私を見て何も言わずに頭を撫でてくれる彼女に余計涙が零れた。
落ち着いてきたのを見計らうと、柔らかいハンカチで目元を拭ってくれる…
どうしてこんなにも優しいんだろう…という思いと、私以外にも同じ事をするのだろうという思いでグチャグチャになった。
目の前にいる大好きで大嫌いな彼女に相談事を切り出した。
私の話を真剣に聞いてくれているのがわかるくらい、相槌をうち、時には質問をいれてきた。
自分の事だなんて気づかずに……
途中で、カップに彼女が普段飲まないコーヒーをチビチビと飲んでいるのを見つけて、少しの罪悪感とそれに勝る優越感が湧いた。
チャンスだと思った。私は大したことはできないけど、などと言ってキッチンに入ると紅茶を淹れた。
紅茶には味が変わらない程度の薬を入れて……
彼女は私の淹れた紅茶を美味しいと言って飲んでくれた。
話しも切りの良いところで終わって、彼女が送っていくよ。と立ち上がるより先に私は彼女を押し倒した。
下から戸惑う声と私のことを押し返そうと手を伸ばしていたが、そんなの知らない。
そろそろ薬が効き始める頃だ、どうせもう長くないのだから言ってしまおう
「葵ちゃん、
もしも、もしも私が……
あなたの事を殺してしまいたいくらいい大好きで愛おしいって言ったら、ずっと側にいてくれたのかな?」
なんて、なんて愚かで浅ましい…答えなんて分かってた。
彼女は特に差別的な考えは持っていないけど、きっと私なんかを選んでくれない。
臆病で弱い私の我儘、誰か知らない奴に取られてしまうくらいなら、私の手で壊したい…なんて……
冷たくなる彼女の隣で私も同じ薬をお酒と一緒に飲んで、ゆっくりと瞼を閉じる。
優しい優しい、葵ちゃん、もしもまた出逢えるのなら、その時は…………
その時は、幸せなあなたの笑顔を一番近くで眺めたいな……なんて
叶わない願いを呟いて私の意識は深い深い闇の中に堕ちた…
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