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ハリーが礼を言って杖を受け取ろうとするが、リドルは口元をきゅっとあげて微笑むだけだった。徐々に実体化に向かっていく体を実感しながら、ハリーの杖先をソフィアに向けて振った。バネのように背中が床を弾いて飛び上がった体を、リドルが受け止めた。

 「痛ッ!」
 「何しているんだ! 今すぐソフィアを離して! ここを出なきゃいけないんだよ! もしもバジリスクが来たら……」

 ぐったりとしたジニーの重みで崩れそうになる膝を堪えて、ハリーは大声で怒鳴った。

 「呼ばれるまでは、来やしない。それから……言っただろう? 忘れているようだけど、彼女は僕のものだ、とね」

 リドルが、左腕で後ろからソフィアを抱きしめた。彼は触れられた喜びに、微笑みを広げるが、ソフィアは触れた肌の冷たさに肩を大きく揺らす。石のように無機質な肌に、体が震えた。

 怪訝な表情を浮かべたハリーが、ジニーをそっと横臥させて立ち上がる。そして、ソフィアを抱きしめているリドルと対峙した。必要ないだって? 杖が? ソフィアが? 必要か、必要じゃないか……そんなもので測れるものじゃない――彼女を失いたくない。だから連れて帰る。だからここまで助けに来たのだと、ハリーはソフィアを彼から取り戻そうと歩み寄って行く。

 「それに、僕はこのときをずっと待っていたんだ。ハリー・ポッター。君に会えるチャンスをね。君と話すのをね」
 「いいかげんにしてくれ。君には分かっていないようだ。今、僕達は『秘密の部屋』にいるんだよ。話ならあとでできる」
 「今、話すんだよ」
 「ハリー、逃げて! トムがやったの! 全部、トムがジニーに――」

 ソフィアが、前のめりになって二人の会話に叫ぶように割って入ろうとするが、抱きしめられていた腕が上に上がってきて口を塞がれた。

 「ソフィア!」
 「今は、僕とハリーが話をする番だ」

 「邪魔をするなら、いくら君でも許さないよ」とリドルが耳元に囁く。ソフィアが、掌の内側で下唇を噛むのが分かり、リドルは喉の奥でクツクツと笑う。そして、ハリーの杖をポケットにしまい込んだ。
 「ひとつずつ、教えてあげよう」

 ジニーは、何ヶ月も何ヶ月もリドルの日記に心配事や悩みを書き綴り続けた。誰なのかもわからない、目に見えない人物に秘密を洗いざらい打ち明けた。それを餌に力を得て、ジニーの体にリドル自身の魂を注いだ。その結果が、惨劇を生むことになるとも知らずに。

 ジニー・ウィーズリーが秘密の部屋を開け、学校の雄鶏を絞め殺し、壁に脅迫の文字を書きなぐった。スリザリンの蛇を四人のマグルやミセス・ノリスに仕掛けたのも彼女。最初は、全く自覚していなかった行動。しかし、日を追うごとに日記を疑い、信用しなくなったジニーが日記を捨てた。それをハリーが拾ったのだ。リドルが会いたいと思っていたハリーが。

 「それじゃ、どうして僕に会いたかったんだ?」
 「そうだな。ジニーがハリー、君のことをいろいろ聞かせてくれたからね。君のすばらしい経歴を」

 ソフィアは、口を塞がれたまま、後ろにいるリドルを振り返って見上げた。リドルの目が、ハリーの額の稲妻形の傷のあたりを、舐めるように見ている。貪るような表情が、より一層露わになった。

 リドルは、ハリーに自身の五十年前の記憶を見せたことを話し始めた。孤児で、貧しいが優秀なスリザリンの監督生で模範生のトム・リドルという少年が、五十年前、ハグリッドをスリザリンの継承者だと陥れ、ホグワーツを退学処分にさせた張本人であること。

 過去の問題が、今になって掘り起こされて、ハグリッドはアズカバンへ収容されている。しかし、たった一人ダンブルドアだけが、かつても今もハグリッドは無実だと訴えた。

 そして、ハグリッドを学校に置き、家畜番、森番として訓練するように当時の校長であるアーマン・ディペットに頼み込んだという。

 「他の先生方はみな僕がお気に入りだったが、ダンブルドアだけは違っていたようだ」
 「きっとダンブルドアは、君のことをとっくにお見通しだったんだ」
 「そうだな。ハグリッドが退学になってから、ダンブルドアは、たしかに僕をしつこく監視するようになった」

 だから、リドルは、在学中に再び秘密の部屋を開けるのを辞めた。自ら危険を顧みる愚かな行為だと分かっていたからだ。だが、それを無駄にするつもりは、毛頭ない。

 そのまま終わってしまうことこそが、長きに渡る探索の時間の無駄になるのだから。リドルは、機会が巡ってくるのを待った。その時が来るまで、日記に当時十六歳の自分を残しておけば、いつか誰かが足跡を追ってサラザール・スリザリンの崇高な仕事を成し遂げるだろうと目論んで……。

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