27
「50年前、僕は日記に『記憶』として封じられた」
「何のために…」
「……さぁ?」
リドルは目を鋭くし、嘲るようにソフィアに首を傾げて見せた。もうこれ以上ないくらいに冷えた背筋が串刺しにされた気分になる。生ぬるい汗が、こめかみから一筋の雫を落とした。リドルは笑みを崩さない。
「……ジニーは色々教えてくれたよ。まるで僕が悩みを解決してくれる精霊みたいに」
愉快げなソレは、自らに降りかかる災難を憐れむかのような素振りで踊るが如く歩いている。つらつらと語る思い出話は実に滑稽だったと言う風で。ソフィアは目線だけで彼を追う。全身が酷く疲れていた。何故なのか、それはわからない。
「ハリー・ポッターの英雄憚はそれは細かく、最大級の敬いが含まれていたさ」
ビクリとソフィアの肩を震わせた。視線が――恐ろしく鋭い。
別の人物のことを語っている、その筈なのに、瞳に射抜かれただけで咎人が自分であると錯覚する。ジニーは弱っていた。彼女に見向きもせず、リドルは真っ直ぐソフィアを見据えていた。
「だから」
ジリ、と一歩近付く。あるはずの無い距離ですら縮み、彼女の目の前の所で立ち止まる。視線が交差した。
一方は怯えと疑心、もう一方は――支配欲。リドルは優雅な仕草でソフィアの右手を取った。スルリと何の抵抗もなく奪われた手は彼のソレに包まれ力なく上げられている。
「君が必要なんだ」
ソフィアは動けなかった。たった今焦りと嫌悪が一気にせり上がってきた筈なのに、身じろぐこともなく、まるで金縛りにあったようだった。しきりに震える膝が、立っていることを拒んでいた。
目の前で崩折れたソフィアを、リドルは慈しむような目で見下ろした。そうだ。この絶望に満ちた人間の、恐怖に打ち震える顔が、何よりも好きだとリドルは喉の奥でクツクツと笑った。前屈みに上体を倒してきたリドルに、最後の抵抗だとソフィアは逃げるように上半身を後ろに倒した。それは、逃げ道を失う選択だということも知らずに。
リドルがソフィアの足を跨いで、彼女の白銀が散らばる上に手をついた。諦めた目をして日記を持っていた腕を投げ出し、近付いて来る暗い瞳を、受け入れようとしていた。
「君が欲しいんだよ――ソフィア」
欲しい。
だけど、触れられない。
苦し紛れの告白に混ざる吐息が、ソフィアの肌を擽る。嗚呼、吐息に触れられるようになってしまった。それなら、次に彼が実体化して触れられるようになる部位はどこだろう。ゆっくり上半身を倒してきたトムが、妖艶に瞼を伏せて顔を斜めに傾けた。
次にリドルが触れられるようになる場所は、きっと唇だ。彼が呼吸を繰り返す度に送られてくる風が、ソフィアの唇を撫でている。ソフィアが、諦めに薄らと目を閉じようとした時――。
「ジニー!」
革靴が床を力強く蹴飛ばしながら、希望が、光が、ここにやって来た。