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「ジニー!」
リドルは、ソフィアの上で動きを止めた。そして、駆け寄ってきた足音も止まった。
「トム――トム・リドル?」
ハリーは、ジニーの前で足を止め、床に伏している半透明の少年を見て立ち尽くした。そして、彼の下にいるもう一つの人影に、ハリーは息を呑んだ。
「ソフィア!!」
ハリーの声に、ソフィアは閉じかけていた瞼を開き、ゆっくりと顔を動かしてハリーへ顔を向けた。彼女が「ハリー……」とようやく絞り出した声に、ハリーは胸を撫で下ろした。半透明なトムのように、血の気を失って手足を投げ出している姿に、既にこと切れた後なのでは無いかと肝を冷やしたのだ。
ソフィアの無事が分かると、ハリーは持っていた杖を脇に投げ捨て、ジニーの肩を掴んで揺さぶった。揺すられるままに力の抜けた頭がガクガクと動き、触れた身体が氷のように冷たくなっていることに驚いた。明らかに衰弱している体を腕に抱え、ソフィアに覆いかぶさったままのトムへ視線をやると、彼は尚も彼女の青白い頬を手の甲で慈しむように撫ぜている。その姿に、ハリーはここへ飛び込んできた時、彼がソフィアに唇を重ねようとしていたことを思い出し、目に力を込めてトムを睨んだ。
「その子は目を覚ましはしない」
トムは目端にハリーを捉え、物静かに呟いてソフィアから体を離し、立ち上がる。
「目を覚まさないって、どういうこと?」
ハリーは、ソフィアのローブにくるまれたジニーの体を抱きしめ、自分の体温を分け与えようとしていたが、彼女は冷たくなっていくばかりでハリーの体温を貪るように奪っていく。トムの言葉で、ジニーが死に向かっていると理解したハリーは、絶望した表情を浮かべ、唖然としながら問いかけた。
「ジニーはまさか――まさか――?」
「その子はまだ生きている。しかしかろうじてだ」
「それなら、ソフィアは――? 君は、さっきソフィアに――」
トムは、上半身を起こして座ったソフィアの頬に、自身の頬を寄せた。頬ずりをする姿に、ハリーは思わず掌に爪が食い込むほど握り拳を作って二人を見ていた。
「僕はこれから、彼女をもらうよ。ソフィアがおチビさんを助ける変わりにね」
「まだ触れられないのが残念だよ」とソフィアのこめかみに唇を落とした瞬間、ハリーは反射的に二人へ手を伸ばすが――ここからでは届かない。
一体どういうことだ、とハリーの頭は、混乱していた。地上では、ジニー・ウィーズリーとソフィア・エムリスが攫われたと大騒ぎになっている。遺書のような書き込みと共に消えた二人に、誰もがスリザリンの継承者はソフィアだったんだと騒ぎ立てていた。ロン以外の兄達は、皆、アイツがジニーを誑かしていたんだと談話室で怒り狂っていた。二人が連れ去られたと聞いた時、ソフィアは秘密の部屋の事件には関わっていなかったのに、何故ソフィアがいなくなったのか、何故彼女が秘密の部屋で横たわっているのか、ハリーにはまるで分からなかったのだ。
「ジニーだよ。君をここへ誘き寄せたのも、ソフィアをここへ連れ出したのも」
「ジニーが……? 君はゴーストなの? どうしてソフィアを連れてくる必要があったの?」
ハリーの問いかけに、リドルは「記憶だよ」とソフィアの腕から放り出された日記を指差す。それに一瞬目を留めたが、腕の中のジニーの息遣いがか細くなっていることに気が付いたハリーは、ジニーの膝裏に腕を通した。
「ソフィア、立てるかい? 早くここを出よう。バジリスクがいるんだ……。どこにいるかはわからないけど、今にも出てくるかもしれない。トムお願い、君も手伝って……」
汗だくになってやっとジニーの体の半分を床から持ち上げ、杖を拾おうとしたが、無かった。リドルに杖の在り処を聞こうとしたハリーが彼を見上げると、リドルはすらりとした長い指でハリーの杖をくるくる弄んでいる。