7
「ん」
目の前に出されたチケット。
それは斎藤さんからではなく、幼馴染からだった。
「次の土曜のライブチケット、もう一枚あるから友達でも誘えば?あ、でも田中のやつはなしね。俺アイツキライだし」
手に取ったチケット見て、カレンダーの方を見た。
土曜には既に予定の字が埋まっている。
「ごめん、今回は行けない。別のライブに行くから」
「……なんの?」
「この人達の」
そう言って見せたのは斎藤さんのバンドのCDだ。
そして、それを見た幼馴染の雰囲気はさらに悪くなった気がした。
これは昔喧嘩したときと一緒の空気だ。自分が中学でクラスの男の子に告白された時と。
あの時もそうだが、どうして彼が機嫌を悪くするのか分からない。
「それってこの間言ってた、聞きたいって曲のやつ?」
「うん」
「もしかしてさー、前に店にきた有名人ってのも?」
「うん、この真ん中の人」
斎藤さんを指差すと、ますます彼の目つきは悪くなった。
そろそろ面倒なことになりそうだと予感した。
「なに、チケット買う程お熱になってんの」
「ううん、貰ったの」
「だれに?」
「この人から」
「何で本人がお前にやるわけ」
「……優しい人だから?」
「いや可笑しいだろ、会ったのだって最近なんだろ。
なんでそんなやつがお前にやるわけ、人気ないからって呼び込み?」
「大人気だもん、本当はファンクラブ入ってないと手に入らないぐらいだから」
「はあ?益々わかんねーんだけど、お前色仕掛けでもしたわけ?」
「なにそれ、そんな言い方しなくてもいいじゃない。
斎藤さんは私が傘なくて困ってるときに、わざわざ傘の中に入れて家まで送ってくれたんだよ」
「ねぇオレ言ったよね、男に気ぃ許すなって。変なヤツもいるんだって」
「だから斎藤さんはそんな人じゃないもん。優しい人だよ、正人くんと違って大人で気遣いができて――「だから!オレだって…!!」
彼が怒鳴った。つい驚いてしまい、固まってしまう。
今まで喧嘩なら何度もしたけれど今回のようなことはない。
幼馴染は下を向いたままそれ以上は言わない。自分も何も言えず、お互い沈黙が続いた。
「…わり、今日は帰るわ」
やがて彼はそれだけ言って、部屋から出て行った。
テーブルには彼が持ってきたチケットが置かれたまま。
今までにない出来事にどうしたらいいか分からなかった。
***
「で、喧嘩したままだと?」
「うん…」
「いいじゃん放っておきなって。これを期にアイツはユリリンから離れるべきだね!」
「でも、なんか…今までと違ったから」
「まぁーアイツの気持ちも分からないわけじゃないんだけどさ、でも、やっぱ女子に怒鳴るって時点でありえなくない?こっちが気づいてくれるからって甘えてるからそうなるんだっての!ほんと自己中だよ!あのナルシスト野郎は!」
先日の喧嘩を田中に話すと、彼女は断固放置を支持してきた。
確かに今、幼馴染とは連絡すらとっていない。あれ以来、家にもこないためどうしようもなかった。
「それより、ライブ今日なんでしょ?」
「うん…どうしよう、緊張してきた」
「でもライブなら、あのナルシストのやつ行ったりしてたのに?」
「そうなんだけど……なんかそれとは違うから」
「まぁねー、ああいうアイドルのサービスたっぷりの踊りや歌と違って、この人達のはガチの歌手のひとだし。
それだけすごい歌聞けるってことだし、絶対楽しいって」
友人の言葉に百合も、そうだねと安堵を持つ。
そして貰ったというチケットを見つめて嬉しそうに微笑んでいる百合を見て、田中は彼女の心の僅かな変化に気づいた。
と、同時にあのアイドルのことを思うと苦笑するしかなかった。
- 13 -
*前次#
ページ:
ALICE+