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ライブはとにかくすごかった。その一言に尽きる。
今までアイドルである幼馴染のライブに行ったことはあるが、それとは全く違う。
演奏している人たちも音楽を楽しみつつ、客たちも彼等の曲を心から楽しんでいて、何よりCDで聞いたときと同じ演奏力を生で聞けたことが本当に素晴らしかった。
ライブ会場の外に出ると、会場の熱気とは打って変わって冷たい空気が頬を伝う。
帰りのバスの時刻を確認しているとき、きゃあっと、小さな歓声が聞こえた。
その方に目を向けると、ユニゾンスクエアガーデンのメンバーが三人出てくる所だった。三人は談笑していて、警備員が出待ちのファンをうるさそうに避けている。
「はい、避けてください!あんまりしつこいと警察呼びますよ!」
直接サインや握手を迫ったり、お菓子を渡していたファンも居たが三人とも断っていた。
それでも本人たちを目の前にして冷静にいられるほど彼女たちの熱気は冷めていない。
すごいなぁ、と感心して見ていると不意に斎藤さんと目が合った。
思わず頭を下げると彼は小さく手を振ってくれて、百合もそれに応えて胸元で小さく手を振る。
直接挨拶はできなかったけれど、それでも十分嬉しかった。
そして帰ろうとしたとき、携帯の着信音を知らせるバイブが鳴った。
画面には例の幼馴染の名前が。
「もしもし」
『…オレだけど、この間は…ゴメン』
「…いいよ、大丈夫」
『けど、オレも悪いけど…お前にもちょっとは非があるんだからな。それは分かっとけよ』
「……うん、分かった。ごめんね」
『あと、また家行くから。飯食わせろ』
「…ふふ、謝ってるのか命令してるのか分からないね」
『うるさい、…じゃあまたな』
「うん」
喧嘩しても相変わらず変わらない彼に思わず笑ってしまった。
ライブの後だったからか、お互い素直に言葉を口にできた気がした。
今度、幼馴染が来た時は久ぶりに彼の好物を作ってあげようと思ったのであった。
***
「百合ちゃん、ライブどうだったー?」
「とても凄かったですよ、私ああいったバンドのライブは初めてで…ちょっと緊張してたんですけど、楽しかったです」
「おおーそれは良かったね。
そういえばチケットって、斎藤くんから貰ったんだっけ?」
「はい」
「ふーん……いやぁ、彼もなかなかやるねぇ」
「はい、ライブの斎藤さん凄かったです、やっぱりプロの方って違いますね」
「あ、いや、うん、そうだね」
そういう意味ではなかったんだけどな、と心の中で苦笑いをこぼした店長だった。
「今日もくるかねー彼は」
「斎藤さんですか?」
「うん、最近よく来るしね」
「…前からよく来る人なんじゃないんですか?」
「まぁ来てはくれてたけどねー、百合ちゃんが来てからは……いや、何でもないよ」
「?」
「百合ー」
彼女の名前を呼ぶ声。
聞き慣れたその声の主は、彼女の幼馴染である正人だった。
彼がこの店を訪れたのは恐らく初めてだ。
「いらっしゃい、どうしたの?」
「んだよ、オレが来ちゃおかしいって?」
「ううん、別に」
「…百合ちゃん、このお兄さんってもしかして…」
「どうも。STARSの正人です、店長さん初めまして」
「えええ、あの有名グループのアイドルさんが百合ちゃんの知り合い?」
「幼馴染なんすよ」
「いやーすごいねぇ、百合ちゃんどうして言ってくれなかったのさー」
「…聞かれなかったので」
「そりゃ聞かねーだろ普通」
少々天然が入っている百合に二人とも笑うしかなかった。
「じゃあ今日はもしかして百合ちゃんに会いに?」
「いや、普通に近くでロケあったんで、寄っただけっす」
3人で話していると店の奥の電話が鳴ったので、店長が、ごめんねと手を合わせ奥へと入っていった。
他に客もいないので、一先ず百合は幼馴染と話を続ける。
「それで、本当は何かあるの?」
「だから寄っただけだって。別になんもないから」
「…正人君がわざわざ訪れるって、変だもん」
「お前、最近なんか口悪くなってない?」
そうかなと百合は自分の言葉を振り返ってみるが特に変わったつもりはない。
考えているとき、店の中にまたお客が入ってきたのでそちらへ顔を向けると、百合の表情が柔らかくなった。
その彼女の変化に気づいた幼馴染は、彼女の心を動かす人物へと目を向ける。
そしてそこにいたのは想像した通りの人物で、彼の中で何かが沸き上がってきた。
「斎藤さん」
「こんにちは」
「この間は有難う御座いました」
「ううん、こちらこそ」
百合がカウンターからわざわざ彼の元へ駆け寄っていく姿をただただ見つめるしかない。
彼女の楽しそうな笑顔と、その彼女の笑顔が向けられている人物は自分ではない現実を見るしかないのだ。
「……彼って、」
「あ、私の幼馴染で…アイドルの、」
「初めまして。STARSの正人です」
「あのアイドルグループですよね?僕、曲聞いたことあります」
「どうもっす。…んじゃ、百合オレ帰るわ」
「うん、もういいの?」
「あぁ。……用も済んだし」
そう呟いて彼は店を出て行った。
彼の言う用が何だったのか、それは本人にしか分からないだろう。
「すごいね、テレビに出てる人と幼馴染だったんだ」
「斎藤さんだってテレビ出てるじゃないですか」
「いや、俺らはあんまりだから。ライブばっかしてるからね」
ライブがしたくてやってるもんだし、と笑う斎藤さんに百合もつられて笑う。
「あの、今度いつ来られますか?」
「え?あ、そうだね…14日かな」
「分かりました、あの何か好きなものありますか?嫌いな食べ物でもいいんですけど…」
「…えっとー、そんなに特別何が嫌いとかはないけど…」
突然の質問に戸惑ってしまうが、彼女は至って真剣に聞いてくる。
そしてふむふむと頷いて何かを考え込んでむ姿を見て、意外にも彼女は天然なのだろうかと思った。
顔立ちが大人っぽく綺麗なので、そんなギャップのあるところがまた面白かった。
「あ、斎藤くん来たねー」
「どうも」
「今度のライブは僕も誘ってくれると嬉しいんだけどなぁ」
「あはは、店長は結構コネで他のバンドのも買ってるんじゃないですか」
「え、誰から聞いたのー、あんまバレてないと思ったんだけど」
他の客がいないとき、この店で談笑する時間は以前より増えていた。
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