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よく行くレコード店に看板娘ができた。
というのはつまり、昔から足を向けるレコード店に最近とても美人な店員さんが入ったらしい。
一部のバンド仲間たちの間でも噂となり、自分も気になっていたのもあるが、今日は好きなバンドの新曲が発売されるので久々に訪れた。
店内は地下にある小さな規模のショップで、あまりメジャーではないが、そのレトロな雰囲気が割と好きでもある。
そして中に入って目当ての曲を探していると、近くにいた青年たちの話声が否が応でも耳に入って来た。
「なぁ、あの子だよな。あそこで品出ししてる子」
「うお美人ー」
それを聞いてしまい、つい視線をそちらへ向けてしまった。
すると確かにそこにいたのは万人が問いかけられれば全員が綺麗だと答えそうな子がいた。
横顔だけしか伺えなかったが、すっと通った鼻筋と雪のような白い肌が少し日本人離れしているように見えた。
「”タカミネさん”っていうんだってよ」
「大学生?」
「らしい。店長と知り合いで、一人暮らしの生活費稼いでるって」
「何でお前そこまで詳しいの?」
「だってオレこの間店長に聞いたから。美人とお近づきになるには先ずは情報収集が鉄則だろ?」
大学に通いつつ生活費を稼ぐためにバイトをしている。
それを聞いて彼女への印象がだいぶ頭の中で固まってきた。
そしてふと気づく。以前より店に客の入りが多い気がする。これも看板娘効果なのかと思い、店長も喜んでいることだろう。
噂を確かめたかったわけではないが、何となくもう一つの目的を果たせたような気がした。とりあえず第一の目的えである新曲を買っていこう。
CDを手に取りレジへと向かう、その途中で美人店員の後ろを通ることになるのだがそこで出来事があった。
「あ、」
店員のすぐ後ろでCDを見ていた(おそらく50代ほどの)女性が誤って棚にぶつかり何枚かのCDが落ちてしまった。
下段にあったものなので衝撃はさほどないが、女性は慌てた様子でCDを拾い上げる。
そこへ勿論店員である彼女も駆けつけ、落ち着いた様子で対応していた。
「すみません…っ」
「いえ、フィルムで保護されていますから大丈夫ですよ。こちらこそ申し訳ありません」
「つい集中しちゃって…、CDってこんなにあるのね、娘に影響されて初めてきたけど驚いたわ」
「今は色んなバンドがありますから」
「まぁ、じゃああなたもバンドを?」
「いえ、私は自分で演奏をしたことがないので……でも、音楽をしている人って素敵ですよね」
「本当ね。あ、あったわ、探していた曲」
「それはよかったです。こちらでお会計致しますね」
「どうもありがとう」
女性をレジまで案内していく店員。
二人の会話の様子が今も頭に残っている。
『音楽をしている人って素敵ですよね』
そう言っていた彼女の柔らかい笑顔が、なんだか目をひいた。
***
「百合ちゃん、お疲れ様。そろそろ上がっていいよ」
「はい、お先に失礼します」
夜21時、今日のバイトのシフトを終え店長に挨拶をして店を出る。
アパートに帰ったらシャワーを浴びて、ご飯を作って、洗濯ものを畳んで…と帰るまでの道のりの中でいつののサイクルを浮かべていた。
大学に入って2年目、アルバイトを始めて2か月目。
バイトと学生生活との両立にも段々慣れてきたこの頃だった。
ふとスマホの着信音が鳴り、画面に出た名前を見て躊躇いもなく通話に出る。
「もしもし」
『今日、何でアパートいねーの?』
「いきなりだね」
『うん?』
「なんでもない…、今日はバイトだったから」
『あぁ、そうか。そいやそうだったな』
「なにかあった?」
『いや、お前のアパートの近くで仕事終わったから寄ったんだけど、てか今も玄関前にいるんだけど』
「え、まだちょっとかかるよ?」
『いいよ、明日仕事ないし。待ってる』
それだけ言って一方的に切られた通話。
彼女、高嶺百合の幼馴染の彼は相変わらずこちらの事情を聞こうとしない。まぁそれだけ気を利かせなくていい相手ということなのだろうか。
電車に乗って駅から10分、百合の住むアパートにたどり着く。
そして2階にある右角部屋付近の壁に寄り掛かっている人物がいた。
服装はおしゃれそうな都会人といった雰囲気だが、マスクに帽子と眼鏡までしていてその顔は見えない。
「芸能人みたいな恰好だね」
「いや、マジもんの人だから」
「うん、知ってる」
「てか早く鍵あけて寒い」
「そっちが待ってたのに…」
「なに?」
「…なんでもない」
横暴な彼の対応には慣れている。
そして言われたままに鍵をあけ玄関に入った。
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