LDH学園の「高嶺の花」と称される美女、高嶺百合は登校前に必ず寄るところがある。

「剛典、起きて」
「うーん…」

幼馴染の岩田剛典の家だ。
親同士が仲が良かったのと、家が近所だったことから赤ん坊以来の付き合い。
そして何故百合が毎朝その幼馴染の家を訪ねるかというと、

「…やべ、制服どこやったけ」
「ここに脱いだままだよ」

彼がかなりのガサツ男であり面倒くさがりだからだ。
脱いだ服はそのままだし、使ったものは中々片づけない。
そのため昔から百合が彼のサポート役になっていた。

特に今、岩田の両親は海外出張のため一人暮らしの彼の生活はとてもじゃないが不安要素が多い。
彼の母から直々に面倒をみてもらえないか、と頭を下げられては百合も断れなかった。
今日も時間ぎりぎりに起きる彼に制服を渡し、着替え始めようとするところで部屋を出る。

台所で先に焼いておいたトーストと目玉焼きにソーセージ、サラダを盛り合わせて朝食を作り上げた。
普段からあまり買い置きをしない岩田の冷蔵庫の中身では手の込んだ料理は作れないので、いつも朝食は決まったパターンだ。
それを文句も言わず食べているのは、彼の性格からだろうか。
制服に着替え終わった岩田がもぐもぐとトーストを頬張る姿を見て、百合はふとそんなことを考えていた。

「そいや、今日いつもより早くない?」
「だって今日は剛典、日直でしょう」
「あ、そっか。忘れてたわ」

ということは百合は岩田が日直に遅れないよう、わざわざ時間を早めてきてくれたらしい。
昔からの仲の幼馴染ならではの推測だ。



学校に着くと、岩田は早速職員室へ日誌を受け取りに向かう。
同じクラスの百合もそれに付いていき、岩田が出てくるのを廊下で待っていた。

「お、高峰、おはよう。今日は早いな」
「おはようございます、三代先生」

廊下の壁に寄りかかっていると、ちょうど通りかかった先生に声をかけられる。
体育教師で生徒の生活指導も担っている三代先生だ。

「今日は剛典が日直で、一緒にきたので」
「あーそういうことね。ほんっと高峰はえらいなー」

ぽんぽん、と頭に優しく手を置かれた。
そこまで偉いだろうか、と疑問に思いつつも、褒められて嫌なわけではないので大人しくされるがままになっておく。
するとそこでようやく岩田が職員室から出てきた。

「失礼しましたー。……って、三代先生なにしてんすか?」
「お前ね、そこは先に挨拶だろうが」
「おはようございます」
「よろしい。それから、あんま高嶺に手焼かすなって前から言ってるだろ?
いい加減自分のことは自分でできるようになれ」
「え、なんでいきなり説教なんすか。そういうのは部活のときだけにしてくださいよー」
「ふはは、生活指導の先生ですから」

この学園は普通の学校とは違い、少し変わった部活が盛んだ。
将来のエンターテイナーを育成する方針が強いため、歌やダンス、演技など、さまざまな技術を伸ばす部活がある。
歌とダンスを平行して行うEXILE部は特に有名で、部に入るにはオーディションが開かれるほどの人気だ。
その栄えあるEXILE部の一員の岩田、ダンスを磨くため日々部活動に勤しんでいる。
そしてその岩田たちダンス部員を指導するのが三代先生であった。
百合はEXILE部には所属していないが、幼馴染の岩田が部活が終わるのを部室で待たせてもらっていることが多い。
そのため自然と部員とも顔見知りになり、顧問である先生にも顔と名前を覚えられているのだ。

「百合、いこ」
「うん」

日誌を手に教室へ向かう岩田に続く百合。
その途中、岩田が百合へ質問をしてきた。

「三代先生と何話してたの?」
「剛典が日直で今日は早くきましたって」
「それだけ?」
「それだけ」
「ふーん…」
「なに?」
「べつにー」

どこか腑に落ちないような様子の幼馴染に百合は疑問を募らせるしかなかった。

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