体育がある2時間目の授業の前、百合は友人である如月詩音と更衣室へ着替えに向かった。

「そういえば今日も岩田君と一緒だったね」
「うん」
「コートから見えてたよー、二人が歩いてくるとこ」

テニス部である詩音は朝練で見た光景をそのまま話し出した。

「そしたらさ後輩たちがキャッキャッ騒いでんの。
普段二人とも結構遅めに登校してるじゃん、ウチらそのころには片づけ始めてるから、皆まともに見たのは久しぶりらしくてさ。
“やっぱお似合い〜”とか、“美男美女”ってめっちゃ黄色い声上がってたよー」

面白そうに話している詩音に対し、百合はやや呆れながら応える。

「前にも言ったけど、私、剛典とは…」
「付き合ってないんでしょー。大丈夫、後輩たちにもちゃんと言ってるから」

ただやっぱ二人を前にすると勝手に妄想始めちゃうみたいだよ、と詩音がまた笑いながら言うので百合はもう何も言わないことにした。



今日の体育はバスケの授業。
男女に別れての練習と最後に練習試合を行った。
百合は詩音と同じチームで、自分たちの試合がくるまで隅っこで体育座りをして見ていた。
するとやがて観戦していた女子たちが男子コートの方を注目し出した。

「きゃ〜!岩田君、がんばれー!」
「わっ、ボール取った!」

キャッキャッと黄色い声を上げる彼女たちにデジャブを感じる。

「おーさすが人気だねー」
「ドリブルしてるだけなのにね」

頬を染めて熱をあげる彼女たちとは反対に百合と詩音は平常通りだった。
クールでミステリアスな百合と、飄々としていてそもそも男に興味のない詩音。

「あれ、私達そろそろじゃない?」

詩音が指さす試合用タイマーには残り時間20秒と表示されていた。
次は百合たちのチームの番なので、体育館中央に移動しようと立ち上がったときだ。

「危ないっ!」

誰かの叫び声で気づいた。
男子コートで大きくバウンドしたボールが百合の方へ飛んできていたのだ。
はっと気づいたときには百合は痛みを覚悟して、目をつむった。

しかし予想と違って百合の身体に痛みは全くこなかった。
不思議に思った百合が顔を上げるとそこには体育教師である三代先生の後姿があった。
その三代先生の手には先ほど百合の方へ飛んできていたボールが。
どうやら先生が、百合に当たる前に止めてくれたようだ。
その後三代先生はボールを男子コートへ投げ、試合は再開された。

「先生、ぐっじょぶ」
「ありがとうございます」
「高嶺に怪我無くてよかったよ、次からは周りに気をつけろなー」

朝と同様、三代先生は笑顔で百合の頭に優しく手を置く。
そして直ぐに男子チームの審判に戻っていったのであった。



「なんかさー三代先生ってさ、」
「?」
「…なんでもないやー、お昼いこ」

体育の授業を終えて再び更衣室で着替えていると、詩音が呟いていた。
彼女が最終的に何を言いたかったのか百合は敢えて追及せず、二人で教室へと戻った。

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