所変わってここは駅前のドーナツ店。目の前には色鮮やかなドーナツが並び、15歳の女の子たちのテンションは最高潮。久々の甘味に仲のいい友達同士。興奮も加速するというものだ。

「生クリームのやつちょうだい!」
「ん〜新しいやつモチモチしててめっちゃ美味いわ!」
「麗日お餅好きだもんね。やっぱ似た食感がいいんだ」
「これもドーナツですの?四角くて…穴が空いていませんわ」
「百ちゃん、それはミートパイっていうのよ。お惣菜だから甘くはないの」

皆各々気に入ったドーナツを頬張りながらおしゃべりに花を咲かせている。


「おい、もっとそっち寄れよ!テーブル狭いんだよ(小声)」
「どうだ緑谷?女子のテーブル見えるか?(小声)」
「見えるけど…ほら、やっぱり盗み聞きなんて漢らしくないんじゃないかな?ねえ切島くん…」
「盗み聞きじゃねえ偵察だ。これも爆豪をから…応援する為に必要なことなんだよ」
「今なんて言いかけたクソ髪ブッ殺すぞ」

盛り上がる女子会と同時刻。美味しいドーナツに舌鼓を打つテーブルの2つ隣では、爆豪の恋を見守り隊が身を潜めていた。
ちなみに緑谷は部隊組織当時その場にいた為巻き込まれたのである。4人がけのテーブルに5人の男、内ガタイのいい男が3人もいるのだ。
少々手狭ではあるが、空きのテーブルを挟んだこの位置が女子のテーブルが見えて且つ話し声も聞き取れるベストポジションなのだから多少は我慢しよう。
女子達にはバレていないようだが、屈強な男たちが身を縮めて女子会の様子を伺う様は周りの客の注目の的である。店員からの訝しげな視線が痛い。

「つかなんでデクがいんだ!!オレの視界に入るんじゃねえ!!」
「ああもう爆豪静かにしろって!聞こえねえから!それに結局お前着いてきてんじゃん」
「本気で嫌なら帰ろうとくらいするよな…」
「あいつらまだ食ってるぜ、本題入れよ」
「…わードーナツ美味しそうだなー」

なかなか本題に入らない女子たちに上鳴は焦れた様子で呟きながら見張りを続ける。暑苦しい空間に無理やり押し込まれ、加えて目の前に大嫌いな幼馴染みがいるのだ。
爆豪のご機嫌は最悪だった。今回の作戦は高嶺の連絡相手『マコトさん』に関して探るためのものだ。
偵察もとい盗み聞きに爆豪は嫌がるかと思っていたが、彼女の名前を出すと驚く程あっさりと釣れたのだ。収拾がつかなくなるのを危ぶんだ瀬呂が緑谷を引っ張り込み現在に至る。
暴君の居るストレスからか死んだ魚のような目をして緑谷が現実逃避を始めてしまった。
しかし彼がいるにも関わらず爆豪が無理やり帰ろうとする素振りは見せないところから察するに、爆豪が高嶺に想いを寄せているという仮説はほぼ確定で間違いないだろう。
嫌いな緑谷と同じ空間にいることと、気になる彼女の事を詳しく知れる可能性を測り、即座に彼女の方へと傾いた爆豪の天秤。少年は本能に忠実であった。
しばらくすると女子会のテーブルから彼らの求めていた会話が聞こえ始めた。少年たちの表情が真剣味を帯びる。

「あ!なんか話してるっぽいぜ、静かに!」
「何つってる?なんつってる!?」
「………?幼馴染…年上で…自分にも他人にも厳しい…」
「性格は爆豪と似てんじゃん!チャンスあるかもだぜ爆豪!やったな!!」
「!!!」
「(うわあかっちゃん嬉しそう…)」

注意深く聞き耳をたて、情報を拾い上げていく。うっすらとライバルらしき男の姿が掴めてきただろうか。
残念ながらスマホの画面はこの位置からでは確認出来なかったが、かなりの世話焼きであることは女子の会話から推測できた。
切島の言葉を受けた爆豪は僅かに表情を輝かせた。微笑ましい限りである。

「幼馴染みってくらいだから断然あっちの方が一緒に過ごした時間は長い訳だ。
しかも俺らより年上で、頻繁に連絡し合ってるって話だから、これ相当頑張らなきゃお前高嶺の視界にすら入らないんじゃねーの?」
「似た性格の奴がライバルならチャンスはあるって!問題はアピールの仕方だけど…」
「あの…申し訳ないんだけど、それって幼馴染みの性格ってだけで、高嶺さんの好きなタイプとはまた違うんじゃないかな………」
「…!!!!!」
「ばっ…爆豪ォォォオオオ!!!」
「落ち込むな!しっかりしろ爆豪ォォォ!!!」
「緑谷お前容赦ないな!?」
「ごめんね、純粋に思ったんだ…それより静かにしなくちゃ高嶺さんたちに見つかっちゃうよ…」
「それなら少し前に出てったみたいだぜ、もう普通に話すか」

塞ぎ込んでしまった。緑谷の一言は、少年の心をボキリと折ってしまったらしい。店員からの視線が冷ややかになってきた。

「で、でもさ!切島の言う通りアピール次第でリードできるんじゃね?爆豪お前今高嶺とどういう関係なん?」
「……………ぇ」
「ん?なんだって?」
「まだ、ちゃんと喋ったこと、ねえ…」
「………………」
「………………………」
「………………………………………」
「爆豪ォォォオオオオオオ!!!!元気出せって!!大丈夫だ!!チャンスはまだあるさ!!!!」
「純情過ぎんだろ!!!他の女子へは女子と認識してるかどうかすら怪しい程の塩対応なのに!!!!!」
「好きな子には話しかけることすら出来ねえとか!!そんでお前高嶺のことちゃんと名前で呼んでねえしな!?!!!」
「………お客様」
「すみません!ごめんなさい!すぐ黙らせますので!!」

爆発的暴君の驚く程の純情さに隊員たちは漢泣きをする勢いだ。
入店時の勢いはどこへいったのか、ますます凹む爆豪を励ます派閥を尻目に、とうとう見かねてテーブルまでやって来た店員に謝り倒す緑谷であった。

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