成宮家4


「どうしたの?ご飯、進んでないけど」
「……いや、別に」
「しっかり食べなきゃ身体はできてかねーからな」
「……てかさ、」
「ん?はい、パパあーん」
「あーん」

「目の前でそんなことされたら普通に食べ辛いわ!」

夕食時、成宮家に長男の声が響き渡った。

***

成宮家の母、百合は5人の子供を産み育てているとは思えないほど若々しい女性だ。
昔のアルバムを見ても、大学の頃から変わらない肌の艶などは一体どうなっているのだろう。
近所でも「美人妻」と有名で、ゴミ出しの時なんかは百合目当てに来る男どもが多くなったとか。

そんな彼女は包容力があり落ち着いていて、五人兄弟全員が絶対に言うことを聞くほどの影響力を持っている。
だが、母親であり、妻でもある百合は旦那の前では女の顔になるのである。

「パパ、ご飯おいしい?」
「百合の料理はいっつも上手いに決まってんじゃんか」
「もうパパったらぁ」
「ほんとのことだよ〜」

加えて愛妻家で有名な父親も、このデレデレぶりだ。
ご飯ひとつでここまでラブラブになれるのもある意味凄いだろう。
しかし、これは成宮家では当たり前のようになってきている。
元々ラブラブだった二人は鳴のプロ野球引退をきっかけに家で殆ど一緒になることが増え、さらに拍車がかかった。

「母さん、あのさ、」
「?」
「今日はお弁当ありがと。でも…今度から俺が忘れてても届けてもらわなくていいから」
「……ママのお弁当、嫌なの…?」
「おい!百合を泣かすのだけは許さんぞ!」
「いやそうじゃなくて!」

母親がしょんぼりしてしまい、父親がガタンと立ち上がり長男を指さした。
慌てて訂正する長男は今日起きたことのあらましを説明することに。



――やば、弁当わすれた。
昼の時間が近づいたころ、ふと思い出した。
今日は遅刻ギリギリだったため急いで家を出たから、何か忘れていると思っていたが、まさか弁当とは。仕方ない、購買で何か買うか。
そうして席から立ち上がろうとしたとき、教室の扉から友人に名前を呼ばれた。

「なんかすげー美女が校門でお前のこと呼んでたぜ!?」
「……美女?」

もしかすると、ある予想が頭を過った。
何やら教室が騒がしくなっている。皆窓から身を乗り出すようにして、校門の方へと注目しているのだ。
まさかと思い自分も窓から視線を向けると、校門には一人の黒髪美女――もとい母さんがいた。

「なぁなぁ!あの人、お前の彼女!?年上?!」
「ああだから違うっての!」

楽しそうに聞いてくる友人を振り払い、教室を出て母親の元へと全速力で走った。

「母さん!」
「あら良かった。職員室まで行こうかと思ってたけど、出てきてくれて助かったわ。
はいお弁当、忘れていったでしょう?しっかり食べて午後の授業頑張ってね」

いつものように優しい笑みを浮かべる母親に何も言い返せない。
素直に弁当を受け取ると、騒がしい教室へと変えるしかなかったのであった。



「…んでそのあと、彼女だとかなんか騒がれて訂正するのにめっちゃ労力使ったから…」
「そんな……私、そんなに若く見てもらえたの?嬉しいわぁ」
「いや、そうじゃなくて…」

艶のある白肌に嬉しそうに手を添える母。
すると今度は隣に立っていた父親がプルプルと震え、目をカッと見開いた。

「百合はオレの嫁なんだよ!お前の友人とやらに言っておけ!百合には超かっこいい旦那がいるんだってな!
百合もだ!綺麗なんだからナンパでもされたらどーすんの!?外出るときはオレに声かけてから!」
「はい、あなた」

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