放課後、俺は母親の霊を探して町中を走った。母親の霊は朝に居た場所に居なくて、多分子供を探しに行ったんだと思う。橋の近くで母親の霊を見つけた頃には、もう日が傾いていて、俺は母親の霊に事情を説明しながら急いで学校へ向かった。

橋から学校までの距離が長くて、学校に着いた頃にはもう夕方になっていた。でもまだ部活が終わる時間ではない様で、学校の彼方此方から生徒の声がする。

教室に、藤咲はいるだろうか。それとも図書室か。
とりあえず俺は母親の霊を連れて教室へ向かった。夕陽の差す教室が並んでいる廊下を歩くが、誰にもすれ違わなかった。まるでこの場所、この階だけ何かに包囲されているように。

俺は静かに教室を覗いた。橙色の教室に一人、机に伏して寝ている奴がいる。藤咲だ。隣の席で、子供の霊が足をぶらぶらさせている。
母親の霊を手招きして教室に入れると、母親の霊はすぐさま子供の霊に駆け寄った。子供の霊も母親に気付いてハッと顔を上げると、そのまま飛びついて抱き付いた。

よかった…、やっと会えた。

母親は子供を抱きしめて、子供は母親の服をきつく握って、お互いに涙を流す。二人は何年会っていなかったんだろう。寂しい思いを沢山しただろうし、何度も諦めようとした筈だ。でも、その思いが今、ようやく報われた。
二人の母子は抱き合ったまま少しずつ光の粒を放っていく。その光が満ちたとき、二人は俺を見て「ありがとう」と言った。何度も、何度も。そして消えそうになった時、子供が伏して寝ている藤咲に向かって手を振った。藤咲はもちろん見ていない。子供はそれでもいいらしい。

そして…二人は成仏した。

光の粒が消えた時、藤咲がむくっと起き上がった。乱れた髪を手串で直して、腕時計を見る。それから、俺を振り返った。

「…何か言った?」
「いや…何も」
「いつから居た?」
「ついさっき」
「忘れ物?」
「あぁ」

俺は置き勉している机の中を適当に漁って、適当な教科書を掴んでカバンの中に入れた。藤咲は机から立って、窓を閉めている。
オレンジ色の光に照らされて、藤咲はグラウンドを見ている。グラウンドはかなり荒れていたけど、昼間あれだけ雨が降って風が強ければ当然だ。

「巴、おまたせー…」

小川が教室に入ってきた。そして俺を見て一瞬驚いた顔を見せる。

「お疲れ」
「…あ、うん」

藤咲はカバンを取って、教室を出て行った。小川も一緒だったが、小川は最後まで俺を見ているようだった。

 「巴、黒崎くんと喋ってたの?」
 「ううん、そう大した事話してないよ」

廊下から二人がそう話す声が聞こえた。

藤咲は、最後まで子供の霊の存在を知ることはなかった。もしかしたら、知る必要もないのかも知れない。今までのことも、これからも、ずっと。いつか知る時が来たら、俺は何かした方がいいだろうか。

…いや、俺は、何かできるだろうか。

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