ハンター学園 1
ソフィア=ペリオドール、ハンター学園において「高嶺の花」とも言われている美女。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。そんな完璧な彼女だが、実は少し変わった趣向があることを知る者はいない。
「なぁ、昨日この辺りであの流星高校の生徒が暴れたらしいぜ」
「あぁ知ってる。なんでも“蜘蛛”って呼ばれてる不良グループだろ?」
「ここからそう遠くないっていうらしいし。あんなヤベー奴らがうろついてるって最悪だよな」
クラスの男子たちの世間話が否が応でも耳に入ってくる。というより冒頭の会話からどうしても詳細が聞きたくなってしまい、思わず耳を傾けてしまっていたのだが。
彼らが話していた流星高校――蜘蛛。
それはこの辺りの高校ではある意味有名な高校だ。偏差値が高いというわけではなく、寧ろ反対に、生徒は全員不良という「天下の不良高校」とも言われるゴロツキどもの集まりなのだ。その中でも特に素行が悪く、喧嘩負けなしの“蜘蛛”と呼ばれる最恐最悪の不良グループが存在している。そんな彼らをこの近辺の生徒は恐れ、先ず関わらないのが暗黙のルールだ。
なのだが―――
放課後、某裏街の近くをソフィアは歩いていた。この辺りは今日クラスメイトの男子が話していた、例の不良グループが出たと言われている場所の近くである。普通の学生なら先ず近づくことはない。それがまさかハンター学園の優等生がうろついてるとは。
(…やっぱりもうこの辺りはもう…)
ひとしきり歩いてから小さく溜息をつく。そしてここにはもう用がないと分かったのか、今来た道を戻ることにした。そうして後ろを振り返って歩こうとしたとき。
「あ?……お前昨日の…」
「フィンクス、どうかした?」
ここは狭い路地裏だ。しかも夕方で日が暮れてきていることもあり影も差していた。だから反対側から人が歩いてきてもはっきりと顔が見えない。しかし、ソフィアは目の前に現れた複数の人物が誰なのか直ぐに分かった。そしてどうやらそれは相手も同じようで。
「いや確か昨日もここで……あぁそうだ、男共にからまれてた女だ」
「へぇー」
そう。実はソフィアは彼ら三人のうち、二人と面識があるのだ。
「そんで道塞いでてよー。フェイの機嫌も悪かったしな、すぐボコられてたぜ」
「え?あの子を?」
「いやちげーよ。男の方だよ」
「あぁだよね。だってあの子ピンピンしてるし」
昨日もここを歩いていたとき、前からやってきたガラの悪い不良たちに絡まれてしまっていたのだ。その時はただ帰りを急いでいて、近道として裏道を通っていただけだ。そしてソフィアはこう見えて護身術に長けており、この事態に別段困りはしなかったが、あまり大事にもしたくないし、何より下手に恨みを買う真似はしたくない。上手くこの場を抜けれないかと思案しているときに、その人がやってきたのだ。
「なぁフェイ、覚えてるだろ?」
「…知らないね。ワタシ、殺したやつには興味ないよ」
「いやそうじゃねーよ。こっち」
髪をオールバックにまとめた大柄な男がソフィアの方を指刺す。しかし問われた方は、さしてどうでもいいらしく、面倒くさそうに目線を逸らして通り過ぎようとする。
「どうでもいい」
それだけ呟いて去っていってしまった。ソフィアは何も言えず、ただその後ろ姿を見つめていた。
「ったくアイツは」
「それで?キミはどうしてこんなところを歩いているんだい?その制服はあのハンター学園だろ。優等生ぞろいの学校の学生さんが、わざわざこんな裏道歩かなくてもいいと思うけどな」
大柄な男の隣の斜め後ろにいる、笑顔を浮かべた好青年が問いかけてきた。確かに普通に考えて、ここは不良の通り道のようなもの。一般生徒は絡まれたくないため避けるところだ。
「…昨日は急いで帰らなきゃいけなくて、それでここの道が近道だったから…。でも絡まれたときに落とし物をしてしまったみたいで、今日はそれを拾いに…」
「なるほどね。でももう通らない方がいいよ。今日は俺らだったから良かったもんだけど、また昨日みたいに絡まれることもあるし。特にキミみたいな子はね」
「はい、そうします」
わざわざ心配してくれたらしい彼にソフィアは素直に従った。
「じゃあね」
「あ、…昨日は助けて頂いてありがとうございました」
「おう。つってもやったの俺じゃねーけどな。礼なら、さっきの小っこい方に言ってくれ」
「フィンクス、それフェイタンに聞かれたら殺されるよ?」
「本人の前で言うわけねぇだろ」
別れ際、ソフィアはオールバックの男に対し深々と頭を下げた。本当はもっと早く言うべきだったが、意外にも自分は動揺してしまったらしい。
“フェイ”と呼ばれた小柄な彼が自分の横を通り過ぎたとき、狐のような切れ長な瞳と一瞬だけ目が合った。その時から高鳴る鼓動がどうしても抑えられなかったからだ。
ソフィア=ペリオドール、ハンター学園において「高嶺の花」とも言われている美女。立てば芍薬座れば牡丹歩く姿は百合の花。そんな完璧な彼女だが、好きな異性のタイプは――目つきの悪い悪人である。