ハンター学園 2
今日はバイトがあるのにどうしてこんな日に限って、面倒ごとに絡まれてしまうのだろう。放課後に先生に掴まって資料運びに付き合わされ、バイトの時間に間に合わせるためには近道をするしかないと思った。だから普段は先ず通らない裏道を選んでしまったのである。それなのに、
「きみ、モデルさんかなんか?」
「すげぇ可愛いねー」
「今からオレらとどっか遊びに行こうよ」
まさかこんな典型的な不良に絡まれる羽目になるとは。ここまで走ってきて前後を挟まれ、壁へと背中を預ける形となってしまった。どうしよう、と悩んでいるソフィア。何に悩んでいるかというと、男たちへの恐怖からくるのではない。寧ろ蹴飛ばしてもいいのだけれど、きっとこういうタイプの人間は後で恨みだなんだと言いがかりをつけてきそうだから、どうやって上手に抜け出そうかということだ。
「ね、近くのカラオケとかさ―――がっ!?」
しかしそれは起きた。男の一人が突然呻き声をあげたと思えば、いつの間にかその身体は地面に倒れている。
「は?おい何――「どけ」
そして今度は黒く小さな影がはっきり見えた。何かが男に対し攻撃をしていた。動きが早すぎて何が起きたかはっきりと捉えることはできなかったが、それは第三者の声の主だと直ぐに分かった。
一般的な黒い学ランより丈が長く、髑髏がついたマスクをしている。背丈はあまり大きくないが、切れ長の目に、不機嫌そうに眉を寄せている。一目見て柄の悪さが伺えるその風貌。
「今日のワタシ気分最悪ね。お前ら丁度いいからサンドバクなれ」
「お前まさか“蜘蛛”のッ、!!?」
やや片言の言葉を話す彼は、そう言って宣言通り、既に戦意喪失に見える男たちを殴る蹴るの暴行を繰り返した。呻き声と、時折骨が折れた音が交じっていた。普通の女子生徒が見たら卒倒しそうな絵面でも、何故かソフィアの瞳は彼を捉えて離さない。
「おーい、フェイ。…って何だこりゃ」
そこへ金髪をオールバックにした大柄な男がやってきた。
「ストレスはさんしてた。でももういい、ささと壊れたよ」
「そりゃそうだろうな」
男たちは既に意識がない。まるでおもちゃが壊れてしまったかのように呟く彼。その圧倒的な暴力を持つその人を―――ソフィアは羨望の眼差しで見つめていた。
そして彼は、飽きたと呟いて、壁際にいたソフィアにも目もくれずその場を通り過ぎていった。その後ろを追うようにして先ほどの大柄の男が、一瞬だけソフィアに目をやると走っていく。
彼は助けるつもりなど毛頭なかっただろうけど、結果として助けられた形となったソフィア。あまりの出来事にお礼を言えなかったことを後になって思い出したのである。
***
またお礼を直接言えなかった。帰り道、ソフィアは小さく溜息をつく。
恐らく彼らは、噂の流星高校の“蜘蛛”と呼ばれる不良グループのひとたちだ。だとするとあの圧倒的なオーラと強さに納得がいく。
(…フェイタン、さん…)
大柄な男はフィンクスと呼ばれていた。昨日、今日と一緒に行動していた辺り、二人は友達なのだろう。もしかしたら彼らにそのような意味合いは存在しないかもしれないが。
フィンクスが言っていた、ソフィアが焦がれていた彼の名前を頭の中で何度も復唱する。いつかこの名前を口にできたら嬉しい、そんなことを思いながら。
「…ソフィア?」
後ろの方から名前を呼ばれた。男性にしてはやや高めで、しかし落ち着きのある声は聞き覚えがある。
「クラピカ」
中世的な顔立ちと、光り輝く金髪を持つ青少年。ソフィアと同じハンター学園の一つ上の先輩で、昔から親交のある友達の一人だ。
「珍しいな。君がこの辺りを歩いているなんて。いつもは別の帰り道だろう?」
「うん、今日はちょっとこっちの方に用があって」
「この近くは柄の悪い連中も多い。…一人で出歩くのは感心しないな」
「ごめんなさい。でも、今日だけだから」
「あぁ、そうしてくれると私も安心だ」
クラピカはハンター学園で風紀委員も務めており、真面目で正義感に溢れた性格をしている。だからハンター学園の生徒が、他の学校の生徒に絡まれると自ら制裁に行くこともあった。そんな彼だからこそ、友人のソフィアがこの危険地帯にいることもあまりよく思わないのだ。
しかしソフィアとしては、折角の彼との出会いの好機が減るのは避けたい。たとえ長年の友人に嘘をついてしまう形となっても。