十六

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 予想外の言葉に、サクラが動きを止めた。
 トモエは微笑んだままサクラの頭から手を離し、視線を斜め上に向ける。

 「サクラさんだけに限らず…他の女の子達が私をよく思っていないのは、知っていましたよ」
 
 そう言いながら、トモエは身体の力を抜いた。先程起こした身体を解していきながら、言葉を続ける。

 「私も…彼もあまり人付き合いが上手ではなかったですからね。幼馴染同士、丁度いい存在だったんですよ。
 まぁ…こうなることは目に見えていました」
 「っ…」
 「あぁ、別に怒っているわけじゃないですよ?寧ろ…そういって、ハッキリ言ってくれた方が嬉しいです」

 上半身を解し終え、近くにあった羽織を肩にかけた。
 それでも口を止めるつもりはないらしく、サクラは驚いた表情のまま、黙ってトモエの話を聞いている。
 彼女とこんなに長く言葉を交わすのは初めてだった。

 「私もね、サクラさんが嫌い…というよりは、苦手だったんです。
 妬まれているのは分かっていたし、時々目が合ったと思ったら逸らされることもよくありましたしね…」
 「…!」
 「でも、サクラさんを助けたことのに関しては…なにも後悔していませんよ」

 その言葉に、サクラは先程以上に目を見開いた。
 どうして、と呟くサクラの頭を、トモエは再びゆっくりと撫でる。

 「どうしてもなにも……今、サクラさんは私の仲間です。
 それはきっと、互いがいくら嫌いだったとしても、変わらないことだから」
 「トモエ…」
 「これ位の傷、どうということはないですよ?
 それにあの時、もしもサクラさんの前に立たなかったら…今頃、私は凄く後悔してると思います。だからあの時…あなたを助けることができて良かった。

――あなたは、私の大切な仲間ですからね」

 直後、じわぁ…とサクラの両目に涙が浮かんだ。
 それに驚いたトモエは珍しく慌てたように、サクラの頭から手を離し、彼女の顔を覗きこむ。

 「ごめんなさい…嫌、でしたか?」
 「ッ違うの!」

 思っていたよりも大きな声が、サクラの口から発せられた。
 そしてトモエの手を、サクラは力一杯握り締める。

 「う…嬉しくて、」
 「…!」
 「私、誤解してた…!トモエが、こんなに優しいなんて全然知らなくて、それで…」
 「サクラさん…?」
 「私の方こそ、ごめんなさい!!」

 そう言って、勢い良く頭を下げるサクラ。
 先程から驚きっぱなしのトモエだが、これに関しては一番驚いた。

 「…何して、」
 「本当にごめんなさい!!お願い、私の頭一発叩いて!」
 「はい…?」

 唐突な要求に、トモエが思わず目を見開いた。しかしサクラは本気らしく、そこからどく気はないらしい。

 「頭を上げてください、別に私は」
 「上げない!お願いよトモエ!そうしてくれないと私、どうお詫びしていいのか…」
 「詫びなんていりませんよ」
 「私が嫌なの!」

 頑なに頭を上げないサクラ。どうやら彼女は本気らしい。ついにトモエか観念したように息を吐いたのは、それから数分程経過した時だった。
 トモエはサクラの頭に手を伸ばし、そのままむんずっ、と彼女の頭を掴んで上に持ち上げる。「へ、」と言葉を漏らすサクラの額に、トモエは人差し指と中指を揃え、とんっと軽く突いた。

 「これ…友達になろうっていう印です」

 そう言って、トモエは軽く口端を上げる。サクラは一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、やがて照れ臭そうに頬を僅かに赤くし、釣られたように笑顔を見せた。

 「うん!」

 ようやく“友達”という関係になることが出来たトモエとサクラ。

 「再不斬の水分身と戦ってた時…私の見間違えじゃなければ、なんか不思議な技使ってなかった?」
 「技…?」
 「うん、白い短刀みたいなのが、いつの間にかトモエの手の中にあって…」
 「あぁ…あれは……父から教わった技なんです。
 雪箆家に伝わる秘術とかで…幼い頃に少しだけ教えてもらっただけで、まだ殆ど習得できていないんですけどね」

 凄いね、と言いながらサクラは羨望の眼差しを向ける。
 同学年の女の子とこんなに仲良くなるのは初めてに等しかったからか、トモエはそれだけでも嬉しそうに表情を和らげる。そんな時、不意にサクラが思い出したように、低いトーンで声を発する。

 「ねぇ、トモエ…」
 「?」
 「友達になってからでいきなりなんだけど、その…トモエは、サスケ君のことどう思ってるの…?」
 「………ふぅん」

 何かを察したらしいトモエが、少女らしからぬ妖艶な笑みを浮かべた。
 いつも柔らかい笑みを浮かべているだけだったが、こんな風に表情を変えることもあるのだと思うと同時に、サクラは顔を赤くしながらも、「ちょっと!はぐらかさないで!」と答えを促す。

 「サクラさんは彼のこと大好きですもんね」
 「い、いいから!どうなの!?」

 布団に乗りかかるように詰め寄るサクラ。
 そんなサクラにトモエは笑みを浮かべながら答えた。

 「どうも思っていないですよ。家同士の親交があっただけで…ただの幼馴染ですから」
 「……本当に?」
 「はい。こんなことで嘘をつく必要ないですから」

 サクラはトモエの返答を聞いて、ほっとしたように息を吐いた。

 「そっか…良かったぁ」
 「私が彼を好きだと思っていたんですか?」」
 「そりゃあ勿論よ!だってトモエ、アカデミーでずっとサスケ君と一緒にいた時あったじゃない!」
 「まぁ、確かにそんな時期もありましたね」
 「でも良かった…トモエには勝てる気がしなかったもん。
 あ!じゃあ、もしかしてトモエって他に好きな人いるの?そもそもトモエってどんな人がタイプなの?」

 トモエはまさか、自分がこんな話をするような時がくるとは思ってもみなかった。いわゆる女子トークというやつだ。

 「…さぁ、私はあまり」
 「私思うんだけど、トモエって年上の人が合いそうよね!大人っぽいから丁度よさそう!」
 「それは、遠巻きに私が老けてる、って言っていませんか?」
 「違う違う、大人の女ってこと」
 「……そういうサクラさんはどうなんです?ナルトくんのことはどう思っているんですか?」
 「ナルトは別よ!」
 「即答ですね」
 「そういうトモエは?ナルトのことどう思ってるの?」
 「そうですねぇ……弟みたいなものかもしれませんね」

 そう言って、笑い合う二人。そんな彼女たちを、扉の影から見守る三人の姿があった。


 「サ、サクラちゃあん…!俺は別って、どういう意味だってばよォ…!!それにトモエちゃんも弟って…!!」
 「うるさいぞウスラトンカチが!よく聞こえねぇじゃねーか!!」
 「ちょい、お二人さんどっちもうるさい。それよりさ、トモエは年上がいいらしいよ〜。
 オレとかどうなのかなー?結構タイプだったりとか――「「アンタは黙ってろ!!」」

 そう。ナルト、サスケ、カカシである。話は最初から聞いていたらしく、トモエが目を覚ましたので声をかけにきたが、なんだか入りずらい雰囲気だったので今に至る。
 カカシの容態はだいぶ回復しており、松葉杖があれば一人で歩ける程だ。

 「サスケばっかりズリーってばよ!俺ってばサスケより良い男なのに…」
 「フン…何言ってんだか」
 「っんだとォ!?」
 「はいうるさーい」

 取っ組み合いの喧嘩になりそうなナルトとサスケを掴み、引き離すカカシ。サスケはナルトを睨んでいた目を逸らすと、そのまま拗ねたように言葉を紡いだ。

 「…アイツはどうせ、俺のことどうとも思ってねーんだよ」

 その言葉に、ナルトだけでなくカカシもギョッとしたようにサスケを見た。
 サスケはハッとしたような表情をすると、「今のはなんでもない」と叫ぶように言い、その場を走って去っていく。

 「あ、ちょ、サスケェ!!どうしたんだってばよ!?」

 ナルトは心底驚いたような顔をして、サスケの後を追う。

 (まさかとは思っていたけど、あのサスケが…へぇー…)

 第七班のメンバーを思い浮かべながら、カカシは小さく苦笑いを溢した。

 「こりゃまた、班の中で四角関係が出来ちゃったよ…」
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