十五

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 目を覚まし、ここはどこだと辺りを見回した途端、肩にピリッとした痛みが走った。
 何とかそれに耐えながら身体を起こすと、自分がいる場所は大きな部屋の端っこである。
 しかも、丁寧に肩には包帯が巻かれており、柔らかい布団の上に寝かされている。

 そしてトモエは理解した。水分身が消えてからの記憶がない。
 ということはつまり、そういうことだ。

 小さくため息を吐くと、不意にトモエの視界にあるものがとまる。
 自分が寝かされている布団に頭を乗せ、スースーと寝息をたてていた少女…サクラが、そこにいた。
 よくよく目をこらしてみると、彼女の頬に涙の跡がある。夜通し看病してくれていたようだ。

 申し訳ない気分になりつつも、トモエは手を伸ばしてサクラの頭をそっと撫でてみる。
 彼女の桃色の髪は前から綺麗だと思っていたトモエだが、実際に触ってみると予想以上にサラサラしていた驚いた。

 「ん…」
 
 すると、不意にサクラが身動ぎをする。
 その動きに僅かに驚いたトモエを他所に、サクラはゆっくりと目を開けて、小さく欠伸をした。
 そして、サクラはまだぼんやりとした目のまま、上半身を起こしていたトモエを見つめる。トモエもどうしていいのかわからず、その目を見つめ返した。

 10秒ほどの沈黙。
 サクラの眠そうだった瞳が、大きく見開かれた。

 「……トモエ!?」
 「おはようございます。サクラさん……あの、…っ!?」

 いきなり、サクラが勢い良くトモエに抱きついた。
 不意をつかれ、トモエはサクラの身体を受け止められず、布団に逆戻りだ。
 どうしたのかとトモエが焦る中、サクラはトモエにしがみつきながら言葉を紡ぐ。

 「良かった、目を覚ました…!!」
 「え、」

 その声は、震えていた。

 「もしかしたら、このまま死んじゃうんじゃないかと思った…!!
 もしそうなったら私…ッ!!」
 「…とりあえず落ち着きましょう、サクラさん」

 取りあえず背中を擦ってやりながらトモエがサクラの顔を覗きこむ。
 サクラは目に涙を浮かべており、これには流石のトモエもギョッとした。

 「どうして泣いているんです?」
 「当たり前でしょ!!半日も目を覚まさないんだもん…!!」
 「半日…」

 まさか自分がそれほど眠っていたとは、任務はどうなったのだろうか。
 それをサクラに聞いてみると、彼女は涙を拭きながらぽつりぽつりと説明を始めた。

 トモエが意識を失った後、再不斬目掛けて突如現れた霧隠れの追い忍が千本で刺し殺したらしい。
 しかし本当は殺しておらず、実は仮死状態にしただけとのこと。
 再不斬が復活するまでしばらく時間がかかるそうなので、それまでトモエ達に明日から修行が言い渡されるそうだ。
 ちなみに今いる場所はタズナの自宅らしい。

 「つまり、再不斬は死んでいない…ということですね」
 「そういうこと…それよりトモエ、肩の傷は大丈夫…?」

 申し訳なさそうな顔をしながら、サクラがトモエの肩に目を移す。トモエも同様に傷へと視線を落とした。

 「はい、まだ少し傷みますけど…明日の修行には出れると思います。平気ですよ」
 「…そう。ごめんね、トモエ」
 「どうしてです?サクラさんが謝る必要はないですよ?」

 素直に疑問をぶつけるトモエ。
 そんな彼女に、サクラは再び目を伏せた。

 「私のこと、庇ったから…怪我させちゃって…しかも、チャクラだって切れさせちゃうし…」
 「あぁ…気にしないでください。
 私の判断で勝手にやったことですから」

 そう言って、トモエは笑みを浮かべながらもサクラに淡々と告げた。
 相変わらず彼女は掴みにくく、この温度差には毎度驚かされる。

 「…うん」
 「あなたが責任を感じる必要ないですよ。
 この通り、私は実際生きているわけで…それだけで十分ですから」
 「……私ね、」

 すると、不意にサクラが話題を変える。
 トモエは首を傾げながらも、サクラの話に耳を傾けた。

 「ずっとトモエのこと、苦手だったの」




 「…はい?」

 いきなりのカミングアウトに、トモエは今度こそ動きを完全に停止させた。
 そんなトモエに、サクラは言葉を紡いでいく。

 「トモエって昔、サスケくんと仲良かったじゃない。最近はあんまりだけど、…でもサスケ君っていつもトモエを気にかけてるし」

 集団と戯れるのが嫌いなサスケが唯一隣にいることを許した人物、それがトモエ。
 一番最初の自己紹介で、その幼いながらにも圧倒的な美しさを持つ彼女に、見惚れた自分がいた。

 そして、サクラがサスケに夢中になりだした頃。
 サスケとトモエ、二人が並ぶ後ろ姿を見ていて、サクラは純粋に思った。

 サスケの隣に当然のように立てるトモエが、羨ましい。

 最初は、憧れだった。
 しかし時が過ぎていき、トモエの実力を知ったサクラはある事に気がつく。

 私は、どう足掻いたってトモエのようにはなれない、と。

 くノ一の中では常にトップ。総合順位はサスケといつも一、二を争っていた。
 筆記に関してはサクラとの差は僅かだったが、実技に関しては二位の子と圧倒的な差をつけた。
 そんな彼女と自分は全てが違うと、そう察した。

 少し前に、男子トップと女子トップが組み手をする、というものがあった。
 つまり、サスケとトモエが勝負をする。
天才と称される二人の勝負に誰もが期待した。
 勝負はサスケの勝ちだった。しかし、もしもトモエが最後に放った術がサスケに命中していれば、サスケが負けただろう。

 憧れは、いつしか嫉妬に変わった。
 何時だって柔らかい微笑みを浮かべ、大人っぽくて、上品で、そしてただでさえ整ったあの顔立ち。

 サクラにとってトモエはもう、遠い存在になってしまった。

 「だからね、班分けの時…サスケ君と一緒の班になれたのは嬉しかったけど、トモエと一緒って聞いて悲しかったんだ」
 「……」
 「あの後、イルカ先生に個別で聞いたんだけど…サスケ君とトモエは、常に一緒にいるべきだって、火影様が言ってたんだって。
 それを聞いて私、ますますトモエのことが嫌になった」

 同じ班になってからサスケ君を前より近くで見るようになって、一つ気がついたことがあるの。

 そう言って、サクラは微笑んだ。その笑みはとても儚くて、トモエは僅かに息を呑む。

 「サスケ君にとってトモエは…きっと、かけがえの無い存在なんだよ」
 「…!」

 今後こそ驚いたのか、トモエの灰色の双眼が大きく見開かれた。

 「幼馴染だから、とか…そんな理由じゃなくて、トモエっていう女の子が大切なの。
 ナルトもサスケ君もあなたのことを必要としてて…私だけ、置いていかてると思ってた」
 「サクラさん、」
 「なのにトモエは…私のことを…、」

 再不斬の水分身が、大型の剣をサクラに向かって振り下ろす。
 それを助けてくれたのは、サクラが苦手としていた人物、トモエだった。
 肩に傷を負いながらも、必死にたった一本のクナイで刃を受け止め、そしてサクラが見たことのないような忍術を使いこなすトモエ。
 後姿を呆然と見ていることしか出来なかったサクラの命を救ったのは、ずっとサクラが追い続け、妬み続けた人物であった。

 「私、ずっとトモエに嫉妬してたんだ よ…!?それなのに、どうして助けたり…!

 ――トモエが、死んじゃってたかもしれないのに…!!」

 すると、不意にトモエが腕を動かした。
 びくりとそれに反応するサクラだったが、トモエはその手をサクラの頭にぽん、と乗せる。
 不思議そうな顔をするサクラに、トモエは微笑んだ。

 「知っていましたよ」
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