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「ピーナツバター&ジェリーサンドイッチ、略してPB&Jって言うんですけど、アメリカの子供たちはお弁当によく持参するんですよ」
「サンドイッチがお弁当ってオシャレか。さすがアメリカ」
スーパーで夕ご飯の材料をかごに入れ、ついでに兄さんたちが欲しがっていたお菓子を買っていこうと二人でお菓子コーナーを見ていたとき、ふと昔の思い出がよみがえってきた。
「友達が持ってきたのを分けてもらったんですけど、そうしたら自分でも食べたくなっちゃって、おやつに一人で作ったことがあって。でも、家政婦さんがおやつにするにはカロリーが高いって、結局ちょっとしか食べられなかったんですよ」
「ユリでもそういうことあったんだね。俺なんか、おやつ爆食いして親にしょっちゅう怒られたよ、ご飯食べられなくなるだろって」
懐かしそうに話すジョングクさん。でも自分が知る限り、今もよく何かしら食べている光景をよく見るから昔と変わらないんだなって、聞いていてちょっと面白かった。
今日はよく昔の思い出が出てくる。
今まで話したくなかったわけじゃない。ただ昔から自分のことを人に話すことがどうしても苦手だった。
仕事のことで喋るのは問題ないけど、プライベートな会話となると自分はまだまだ経験不足だ。子供の頃、気付いたときには周りには大人ばかりだったから、話が合う年代の子もいなかったし、そういう社交性は培われなかったかもしれない。
自分の話なんて聞いて何か得になるような気もしないし、つまらないって思われたらどうしようとか、相手の顔色を伺ってしまうばかりで。
でも不思議だった。
ジョングクさんだと、自然に話せている自分がいる。
同い年だからかな。
「今度作ってよ」
「?」
「そのサンドイッチ。ユリがそんなに言うなら、俺も気になってきちゃった」
「え、でも、ああいうのは輸入食材とかじゃないと…」
「それなら向こうの方にあったよ、行こ」
足早にジョングクさんがカートを引っ張って行くから、結局自分もついていくしかない。なんていうか、ジョングクさんて行動力がある人だな。思い立ったらすぐ行動しているという感じだ。
完璧主義で有名な人だけど、その分努力家で、人一倍自分に厳しいイメージがある。ダンスでも、歌でも、筋トレでも、自分に足りないと思った分は直ぐに実行に移し、特訓している姿をよく見る。
有言実行、それが彼の長所でもあるんだろう。
ジョングクさんの後を追って歩いていくと、スーパー内はそれなりに人が多く、大きなお店であっても通りを歩けば人を上手に避けていかなければならない。
そうして途中、男性の横を通り抜けるときだった。
グッと前方から手を掴まれ、体制が前のめりになりながら顔を上にあげた。別段驚かなかったのは、手を掴んできた相手の袖が見えたから。ジョングクさんが着ていた黒色の服。
そうして案の定、目線の先にいたのはジョングクさんだった。形の整った眉が少し寄っていて、何処か焦っているように見えたのは気のせいだろうか。
「ごめん、ちょっと心配になったから」
「いえ…す、すいません、こちらこそ」
「人多いし、こうやって握ってていい?その方が安心する」
「あ、はい、全然、大丈夫、です」
それからジョングクさんは片手でカートを引きながら、もう一つの手で自分の手を握っててくれた。帰りも片方は重い荷物を持って下さって、もう片方は自分の方を。
彼がこうしてくれるのは、いつかの事件のせいだろう。あの時のトラウマは今でも残っているけれど、プライベートの時間でも、こうやって気にかけてくれるジョングクさんは本当に優しい人だ。兄さんたちに愛される理由がよく分かる。
―――あ、
帰り際、ふと思った。
どうして自分の昔話を彼には話せていたのか。
『うん。ユリは何食べたい?』
『自分は……ジョングクさんが食べたいものでいいです』
『俺じゃなくて、ユリの。ね、何がいい?』
『今度作ってよ』
『?』
『そのサンドイッチ。ユリがそんなに言うなら、俺も気になってきちゃった』
『その代わり、他にも教えて。
俺が知らない、ユリの好きなもの。そしたら俺もこっそり買ってくるから』
今日の何気ない会話のとき、以前テテオッパがカップケーキを買ってきてくれたとき、ジョングクさんが言っていた言葉が頭を過っていった。
―――自分のことを知ろうとしてくれていた。
おこがましいかもしれないけど、まるで、自分を知ろうと、理解しようとしてくれている気がして。
だから安心したのかもしれない。
このひとなら話しても大丈夫って、ちゃんと聞いてくれるって、そう思ったから自然と話せていたのだろう。
ジョングクさんは優しくて、不思議な人だ。
自分なんかを気にかけてくれて、自分なんかの話を聞いてくれて、自分なんかを知ろうとしてくれて、
―――本当に不思議なひとだ。