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 「うーん、なんでだろ?」
 「いや、そりゃお前が悪いってー」

 とある日の夕方、テヒョンとジミンは二人してリビングのソファでくつろぎながら、テレビで先日録画した音楽番組を見ていた。そして、ある女性アイドルグループが出てきたところで、ジミンがテヒョンに尋ねたことがきっかけだった。
 このアイドルグループの一人と先月、テヒョンは交際していたらしく、申し込んできたのは向こうの女性からで、断ることを知らないテヒョンが了承したことから始まったとのこと。
 しかしテヒョンは断ることを知らないだけで、その女性が好きだからというわけではなかった。付き合っていればそのうち自分も好きになるかな、という軽い考えを持っていたようだ。そんな軽い考えだったからか、いざ交際をしてみたものの、ひと月もしないうちにテヒョンは振られてしまったのだ。そのテヒョンの方は、またかと思うだけで、女性を追うこともせず後腐れもなく関係は終わったらしいが。
 今までもこういうことは多々あり、女性の方から申し込んできても、女性の方から振ってくるというのがお決まりだった。
 そのことをテヒョンがジミンに不思議に思いながら訪ねた、というのが冒頭に至る。

 「なんで?」
 「だってテヒョナ、今回の子も好きなろうと努力してなかったもん」
 「そんなことないよ、頑張って良いとこ探そうとしてたよ!……でも、」

 テヒョンが言うにはこうだ。相手のお家に泊まったとき、

 ブランドものばかりで金遣いが荒くて、
 匂いが強めの香水を使っていて、
 眠りそうなときは毛布をかけてくれなくて、
 朝ココアを入れてくれなくて、
 練習よりデートを優先しようとしてて、

 「そしたら…なんか寧ろ冷めた」
 「おい」

 細かすぎるといえばそうかもしれない。しかしテヒョンは昔から理想のタイプに、家庭的で包容力のある女性と答えていたぐらいだ。譲れないものがあるようで。

 「朝ココア入れてくれないとか、それぐらい自分でいれろよー」
 「でもユリは入れてくれる。しかも優しく起こしてくれるし」
 「んー…だとしてもさ、香水とかは女性は付けがちじゃん」
 「ユリは使ってないよ。いつも優しい柔軟剤の匂いがする、石鹸みたいな」
 「……毛布も?」
 「うん。俺がソファで眠ってたら、いつの間にかユリがかけてくれてた」
 「………」
 「お金だって、ユリはちゃんと節約するときはするし、それ以外は寄付してるんだって。でもこっそりやってるんだよ、匿名で。だからそういう謙虚さとか、」

 「きみはユリと比べすぎじゃないかな!?」

 ユリは、ユリなら、と先ほどから彼女の名前ばかり出てくるテヒョン。流石のジミン氏も頭を抱えてしまった。しかも最後の“練習よりデートを”は、どう見てもユリと比べたため挙げられたに違いない。自主練を欠かさない努力家のユリをいつも近くで見てきたテヒョンだからこそ、その女性の行動に疑問を思ってしまったのだろう。

 しかし、同年代の恋する女性たちなら、汗臭くなる練習よりキラキラしたようなデートを選びたくなるだろうし、
 自分で稼いだお金をご褒美として使いたくなるだろうし、
 お洒落として香水を使いたくなるだろうし。
 
 テヒョンの言う“家庭的で包容力のある女性”には、
 まだ人生経験の浅い、しかも女性アイドルという着飾ることが仕事の彼女たちには難しいのかもしれない。
 
 「テヒョナは理想高すぎ。そんなんじゃ、またすぐフラれるよ?」
 「…ユリはちゃんとできるのに、なんで他の子はダメなんだろ」
 「あの子はなんていうか、ちょっと特殊だよね。子供の頃から大人ばかりの世界で仕事してたから、意識の高さとか、相手への気配りとか、元々の性格もあるだろうけど…身につけざるを得なかったんじゃないかな。
 それに今は“女の子として”着飾ることより、仕事で頭がいっぱいって感じもする。」

 身近にそういう子がいるからこそ、比べてしまうのも仕方ないことかもしれない。メンバーとして親友として、ジミンは何か良いアドバイスはないかと思考を巡らせる。
 すると、ずっと不満がちだったテヒョンが突然何かを思いついたようで、部屋中に響き渡るような声で言った。

 「分かった!ユリがいるからじゃん!!」
 「ん?」
 「ユリがあんなに完璧な子だから、他の子がダメに見えちゃうんだ!ってことは、もう俺はユリと結婚するしかないよね!?」
 「ゴメンナニイッテルカワカンナイ」
 
 四次元だとか、5歳児だとか、色々言われているが、これは付きあいの長いジミンでも流石に理解できない発言だった。
 そんな時、運悪くというか、タイミングよくというか、今話題に上がっていた人物が宿舎に帰ってきてしまった。

 「あ!ちょうどいいところに!」
 
 今しがたランニングから戻ったらしく、スポーツウェアにキャップを被ったユリがリビングを通りがかったのだ。そしてユリの後から続いて顔を出したのはジョングク。二人一緒に外に走りに行っていたらしい。女の子が一人で外を走るのは危ないからと、ここ最近ずっとジョングクはユリと一緒にランニングしている。

 「なにかあったんですか?」
 「あージョングガー…実はさ、」
 「ユリ!俺、ユリ以外の子と付き合えなくなっちゃったみたい!責任取って、お嫁さんになって!」
 「は!?」
 「あちゃー…」
 
 興奮したテヒョンの言葉にジョングクは目を見開き、ジミンは頭を抱えた。
 一方のユリはキッチンの方でスポーツドリンクを手に取り、顔色一つ変えずリビング内を通ろうとしていて、こちらに視線を送るテヒョンの方を不思議そうに見つめると、

 「…はぁ…、良いんじゃないですか?」
 
 なんとも投げやりな言葉を言い残し、そのままシャワー室へと向かっていってしまった。
 残された三人の間に静寂が流れる。
 そして、一番に声を発したのはジョングクだった。

 「……なんで!?」
 「良かった〜、これで解決したね、ジミン!」
 「いや、解決どころかややこしいことになってるって気付いてテヒョナ」
 「ジミヒョン、何がどうしてこんなことになってるんですか?」
 「話せば長いんだけど、んー、テヒョナが理想の女の子はユリしかいない的なことを言い出して…」
 「なんですかソレ。意味分かんないんですけど」
 「まぁいつもの暴走だから、ほっとけば自然に流れてく話だって」
 「でもユリが…」
 「きっとユリも意味分かんな過ぎて、まともに相手してないよ」
 「子供は何人にしようかな〜」
 「……とりあえずあの人、目覚ましに一発殴った方がいいですよね」
 「それ永遠の眠りの間違いでしょ」

 ***

 「あ、あのさ、ユリ」
 「?」

 今から就寝につくらしいパジャマ姿のユリを廊下で見かけて呼び止めてしまった。昼間のテヒョニヒョンのこともあって、どうしても確認しておきたかったことがある。

 「今日、テヒョニヒョンが言っていたことだけど…」
 「……あ。あのことですか」

 初めなんの話か思いつかなかったらしく、ユリはワンテンポ遅れて反応してきた。彼女にとってアレはそんなに大事な話じゃなかったみたいだ。

 「あんなのいつものことだから、そんな気にしないでいいってジミニヒョンが、」
 「あの、自分、あのとき話の内容分かってなくて」
 「そりゃそうだよね。突然言われたら…――」
 
 「自分、イヤホンつけて走ってたじゃないですか。実は、いつもの癖で切るの忘れてて…宿舎に戻ってからも音楽つけっぱなしだったんですよ。
 テテオッパのことだから、そんなに大事な内容じゃないかなって…それとなく返事しちゃったんですけど……あの、ジョングクさん?」

 座り込んでしまった俺を心配してか、同じ目線に合わせてしゃがんでくれたユリ。

 「すみません…え、結構不味かったですかね?」
 「いや、大丈夫。ヒョンのことは気にしないで。ほんと下らないこと言ってただけだから」
 「そうですか?」
 「うん。呼び止めてごめん。おやすみ」
 「はい……おやすみなさい」

 ユリはまだ納得いってないようだったけど、俺的にはもう良かった。結局、ヒョンが勝手に盛り上がっていただけで、当のユリには何も聞こえていなかったのだから。
 俺が小さく手を振れば、彼女はぎこちない感じで頭を下げて自室に帰っていく。その姿が見えなくなってから、

 
 「……あー……マジで良かった…」

 俺は自分でも無意識に独り言を発していたらしい。

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