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ここ最近、メンバー皆で仕事へ向かう際の徒歩での移動中、末っ子二人はいつも一緒だ。一緒っていうのは、外に出た途端ジョングクがユリの手を引いて歩こうとするから。どうして二人がそういう風になっていったのか、大きなきっかけとしては空港で起きたあの誘拐未遂事件が関わっているんだと思う。
あれ以来、プライベートでも彼女を心配して先ず一人で出歩かせようとはしないし、仕事でも変わらずユリの隣を陣取ろうとする。事件の時、実際に助けていたのもジョングクだし、間近で見ていた人間だからこそ僕たちとは感じたものがまた違うのかもしれない。
それでも事件からまだ日が浅かった頃は、ジョングクがユリの手に触れようとすれば「握ってもいい?」とか事前に了承を得ていたけど、日が経つにつれて、さも当たり前のように無言でユリの手を取るようになっていった。僕を含め他のメンバーも、筋肉うさぎと言われるほど力に自信のあるジョングクがユリの傍にいてくれた方が安心できたから、勝手ではあるかもしれないけどそこはジョングク自身の好きにさせていた。
だけどその日は次の仕事への移動途中、ジョングクがいつもみたいにユリの傍にいこうとしたところ丁度スタッフに呼び止められてしまって、しかも前方にいたユリはそれに気付かずそのまま歩いて行ってしまい、珍しく二人一緒というわけにならず。僕たちもいつもジョングクに任せっきりだったから、直ぐ後ろを付いてくるユリが一人でいることを知りもしなかった。その人以外は。
「…ユンギさん?」
「なに?俺じゃまずかった?」
「そ、そんなことないです」
ユリの前を歩いていた僕がその声に振り返れば、そこにはいつの間にかSUGAヒョンがいて、いつもジョングクがそうしているように彼女の手を握っていたのだ。ヒョンの突然の行動に僕も半ば驚いてしまって凝視していると、訝しげに目を細められたから慌てて前に向き直る。
多分、僕以外のメンバーだったら、ヒョンとユリが仲良く手を繋いでいる姿を見てもどうとも思わなかっただろう。面倒見の良いヒョンの性格はよく分かっているし。
だけど僕だけは違った。いつだったか、ユリからあることを聞いていた僕だけは。
ユリがメンバー内で異性として魅力を感じるのはSUGAヒョンらしい。恋慕としての好き、とかの意味合いはなさそうだったけど、ジョングクはそれに結構ショックを受けていたあたり、二人の距離の近さは気になってしまうんだろうな。
それだけじゃない。あの時、ユリやジョングクと話し終えた後、ばったり出くわしたSUGAヒョン。ジョングクみたいに立ち聞きしていたわけじゃないと最初はそう思ったけど、今思えばヒョンの様子はやっぱりちょっと怪しかった気もする。
もし―――ヒョンがあの話を聞いているとして、今、ユリの手を握っているその心境って一体、
「…ヒョ、ヒョンっ」
「あんだよグガまで」
「いや、その…」
そこへようやく後ろから走ってきたジョングクが現れた。二人の姿に焦って飛んできたのか少し息が乱れている。
言い辛そうに言葉が濁っているジョングクの心はきっと、「そこは僕のだから」って叫んでいるに違いない。
「僕の役目なんで…」
「たまにはヒョンにも任せろって。ほら、お前ら行くぞ」
「あ、」
SUGAヒョンは結局、ユリの手を離さなかった。グッと引っ張られたユリは少しだけ前のめりになりながらもちゃんとジョングクには頭を下げ、SUGAヒョンに付いていく形で前を歩いていく。
そして廊下には、二人が一緒に歩いていくのを見つめるしかないジョングクと、三人の成り行きを黙って見ていた僕がその場にポツンと残っていた。
「…ジミニヒョン、なんで止めてくれなかったんですか。僕の気持ち知っているじゃないですか」
「僕に言わないでよ。気付いたときには遅かったんだから」
「どうしよう…取られた…」
「いや、そんな落ち込むなって。ヒョンはお前と違って下心はないよ、」
「僕だって下心なんてないですっ、変態扱いしないで下さい!」
「分かった分かった!ゴメンってば」
そんな必死そうだと逆に怪しいんだけどな。でも明らかに肩を落とすジョングクに流石の僕も罪悪感が募ってしまう。
「今度ジョングクが近くにいなかった時は僕が掴んでおくから。それでお前が来たら代われば問題ないでしょ?」
「ヒョン…!」
「にしてもジョングクがこんな必死になるなんて、なんか意外だね」
「…必死にもなりますよ。誰だって好きな子が自分以外の男の人と手を繋いでたら嫌じゃないですか」
「メンバー同士なのに?」
「駄目です。大体、アレは僕の役目なんですから」
「頑固だなぁ」
「最近ずっとそうしてきたし、他から入られる隙は作ってなかったつもりなんですけど……ハァ…」
深いため息をつくジョングク。この時、僕は例のSUGAヒョンの怪しい様子について話しておこうかと思ったけど、今はやっぱりやめておくことにした。ジョングクにとってあまり嬉しい話じゃないし、これ以上、不安要素を増やしても仕方なかったから。