暗殺の時間

 僕等は、殺し屋。

 3年生の始め。月を破壊したという生物の暗殺を国から依頼された私たちE組生徒。最初はもちろん突発的な話で、誰一人やる気を見せなかった。
 しかし、暗殺した際の報酬額を聞き、全員目の色を変える。
 E組だけに知らされた地球の危機。E組だけに託された使命。エンドのE組と言われた私たちだからこその話だった。

 目標も何も無かった私たちに、暗殺を与えたモンスターは、3年E組の先生になった。 

 ***

 椚ヶ丘中学校3年E組は暗殺教室。

 ──そして、椚ヶ丘中学校の彼等以外は、名だたる名門校。

 極少数の生徒を激しく差別する事で、大半の生徒が緊張感と優越感を持ち頑張る。合理的な仕組みの学校だ。
 隔離校舎であるE組が暗殺教室であることを知っているのは、E組と防衛省、そして理事長だけ。

 「高嶺さん、聞いた?」
 「?」
 「この間咲いたチューリップ、殺せんせーが全部抜いちゃったんだって」
 「………」

 花壇に植えてみんなで育てていたチューリップが、殺せんせーというターゲットによって荒らされてしまったことを茅野から知った高嶺百合。
 彼女の反応に片岡さんや矢田さんはすっかり勘違いをして、殺せんせーに「やっぱり怒ってるよ!」「一番大事にしてたの高嶺さんなんだから!」と伝える。
 殺せんせーはひどい慌てようで「ごめんなさい高嶺さん!!ちゃんと球根は植え直しました!」と謝罪と言い訳を並べて突然私の目の前に姿を現した。

 「……植えても……花はすぐに咲かない」
 「高嶺辛辣!殺せんせーショックでちょっと縮んだぞー」

 杉野君の言葉にみんなは笑った。ちゃんと綺麗に咲いた瞬間を見れたのだから、別に怒ってはいない。何に使ったのか聞きたいところだが、百合は少し考えた後、ひらめいた。

  ***

 「あれ、烏間さん」
 「こんにちわ!!」
 「こんにちは」

 旧校舎に現れたスーツ姿の男の人は烏間。防衛省の人で、殺せんせーの監視で何度かこの校舎に訪れている。今日も殺せんせーの様子を見に来たのかと思ったが、どうやら烏間は明日から教師として私たちの暗殺を手伝ってくれるらしい。

 「…ところで奴はどこだ?」
 「それがさー殺せんせー、クラスの花壇を荒らしちゃったから、そのお詫びとして…ハンディキャップ暗殺大会を開催してるの」

 縄で拘束され、木に吊らされた殺せんせーにみんな攻撃するも、どれもぬるんとかわされてしまう。
 未だかつて無いサービス、身動きのとれない先生なんて滅多にないのだ。

 「どう渚?」
 「うん…完全にナメられてる」

 先生の顔は黄色と緑のしましまもよう。だれがどうみてもナメられてると分かる顔色だ。
 発案者の百合は銃を見つめて、それから殺せんせーを見上げ、当たらないとは思うがナイフを構えた。

 「君達が私を殺すなど夢のまた夢…あっ」

 彼女が投げたナイフは殺せんせーには当たらなかった。当たったのはその上、つるされた先生を支えていた一本の木の枝。
 ボトッと地面に落ちた殺せんせーにとどめを刺そうとみんなが一斉に襲いかかった。
 どうやらみんな一斉に撃っていたおかげで、百合のナイフがあたったことに気が付いていないみたいだ。どの道ああなってはいたんだろう。カッコつけるとボロが出るのだ、あの先生は。
 地面でバタバタとしている先生にチャンスだと群がるみんな。しかし縄をほどいて先生は校舎の屋根へと逃げてしまった。先生は呼吸を整え、一言。

 「明日出す宿題を2倍にします」
 「小せえ!!!」

 それを最後に、先生は遠くへ逃げてしまった。しかしみんなは「今まで一番惜しかった」ということに、もし殺したらと想像し、会話に花を咲かせる。

 「…殺せるかな。あんな先生」
 「殺すよ。殺す気じゃなきゃ、あの先生とは付き合えない」

 中学生が嬉々として暗殺のことを語っている。どう見ても異常な空間だ。
 けれど、みんなの顔が活き活きしているのは、標的が担任のこのE組だ。

 想像もしたことのない目標を与えられたみんなの目は輝かしい。E組という劣等感もあるというのに、だ。
 その異常な目標がみんなのやる気の源であるということに、複雑な反面少しだけ嬉しく感じた百合であった。

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