カルマの時間1
「八方向からナイフを正しく振れるように!!どんな体勢でもバランスを崩さない!!」
体育の時間。この時間の先生は殺せんせーではなく烏間だ。何せ殺せんせーは身体能力が違いすぎるせいで、まともな体育なんて出来やしない。なので体育は烏間がナイフや銃の使い方なのを教えてくれることになった。
「でも烏間先生、こんな訓練意味あんスか?しかも当の暗殺対象がいる前でさ」
「勉強も暗殺も同じ事だ、基礎は身につけるほど役に立つ」
烏間先生は磯貝と前原の名前を呼ぶと、「俺にナイフを当ててみろ」と言った。
対先生ナイフなら人に当てても問題ないけれど、2人がかりで大丈夫なのだろうか。しかし、そんな心配は無用だった。
烏間は2人の腕を掴み、いとも簡単にその体を地面に叩きつける。烏間に掠ることさえ出来なければ、マッハ20のターゲットを殺す事なんて不可能だ。
「見ろ!今の攻防の間に奴は、砂場に大阪城を造った上に着替えて茶まで立てている」
「「「腹立つわぁ〜…」」」
クラス全員が烏間先生に当てられる位になれば、暗殺の成功率は格段にアップすること間違いなしだろう。でも今までの人生を普通に過ごし、エンドのE組に落ちた自分たちが、そこまで成長できるのだろうか。
いや、出来るのか、なんて考えるより、出来るまで頑張らなければならない。
「ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々。体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
「烏間先生、ちょっと怖いけどカッコいいよねー」
「ねー!ナイフ当てたらよしよししてくれんのかな〜」
「どーだろー。高嶺さんはさ、烏間先生みたいな人ってタイプ?」
女子数人でそんな会話をしていると、百合の視界の端に赤色の髪が映った。
百合は足を止めてそちらに視線を向ける。
「カルマ君…帰って来たんだ」
渚の言葉に、彼女は息をのむ。そこには以前見たときと変わらぬ姿で赤羽君が笑顔で立っていた。
「よー渚君久しぶり。それに高嶺さんも」
「……。久しぶり…赤羽君」
「わ、あれが例の殺せんせー?すっげ本トにタコみたいだ」
赤羽は彼らの横を通り過ぎて、一直線に殺せんせーの元へ向かう。殺せんせーは初日から遅刻してきた赤羽に顔に×印を浮かべた。
「下の名前で気安く呼んでよ、とりあえずよろしく先生!!」
「こちらこそ。楽しい1年にして行きましょう」
2人が握手した瞬間、殺せんせーの触手がドロォと溶けた。それは、対先生弾が当たった瞬間とよく似ていた。先生がそれに驚いた次の瞬間、赤羽の袖口から対先生ナイフが飛び出す。
先生は赤羽から距離をとり、破壊された自分の腕を見つめた。みんなも誰かが殺せんせーにダメージを与える瞬間を見るのは初めてで、呆然としていた。
「…へー本トに速いし本トに効くんだ、このナイフ。細かく切って貼っつけてみたんだけど」
赤羽の手を見れば、そこにはナイフと同じ色をした細かいものが張り付けられていた。
「けどさぁ先生、こんな単純な「手」に引っかかるとか…しかもそんなとこまで飛び退くなんてビビり過ぎじゃね?」
先生は冷や汗を流しながら破壊されたその腕を再生させる。そんな殺せんせーに、彼はゆっくり歩み寄っていった。
「殺せないから「殺せんせー」って聞いてたんだけど」
「!」
「あッれェ。せんせーひょっとしてチョロイひと?」
下からのぞき込み嘲笑し、彼は先生を挑発した。
殺せんせーの顔が怒りに染まっていく。おちょくられてるんだから、その反応は当然だ。それにしても、まさか今日彼が戻ってくるなんて…。
「ねぇ、私E組来てから日が浅いから知らないんだけど、彼どんなひとなの?」
「…うん。1年2年同じクラスだったんだけど」
暴力沙汰で停学くらった。E組は成績不良以外にもそういう生徒が落とされるから。
「…あんなあっさり先生に傷つけちゃうなんてね」
「うん…僕らは全然だったのに」
きっと、この場での彼は優等生だ。
凶器や騙し討ちの「基礎」なら、きっと彼が頭一つ抜けている。