テストの時間2
中間テスト。
全校生徒が本校舎で受ける決まり。つまり、E組だけアウェーでの戦いになる。
うちの学校は進学校のため、テストレベルは凶悪だ。攻略のとっかかりを掴めなければ…この問題に殺られる。
『ちゃんと教えたはずですよ。あれは正体不明のモンスターではありません』
するりと触手が武器を持つ手を掴む。モンスターのように見えていた問題は、少しずつ姿を変えていく。
落ち着いて、一カ所ずつ問題文を見極めてそれらを繋いでいく。
『ね、なんて事ない相手ですねぇ。さぁ、君の刃で料理してしまいましょう』
まるでこの間とは違う自分が解いているように、問題を解く手が止まらない。次の問題も、その次の問題も解る。
そうして問題が後半に差し掛かったところで、手が止まった。
(……なんで)
次の瞬間。彼らは見えない問題に殴り殺された。
***
そして数日後、返された五教科の答案用紙を机の上に広げ、私はその解答欄に視線を落とす。E組に漂う空気は重い。解けた問題のほとんどに丸印がついているが……その答案用紙の下半分は、白紙だ。テストの点数自体は以前と比べて上がったものの、50位以内にだなんて手を伸ばしたところで届かない。攻略も手掛かりも、そこにはなかった。
当然だ、習っていないのだから。
そう、テストの二日前に、全教科の出題範囲が大幅に変えられていたのだ。
なんでも、本校舎のクラスでは学園の理事長自らが教壇に立ち、変更部分を全て教え上げてしまったのだとか。直前の詰込みにも対応できるかを試すため、らしい。
椚ヶ丘学園の理事長……浅野學峯。創立十年でこの学校を全国指折りの優秀校にした敏腕経営者。圧倒的な合理主義者であり、もちろん、このE組の制度を作ったのも、浅野理事長だ。
きっとこのテスト範囲の急な変更は、理事長の手によるものなのだろう。エンドのE組が、本校舎の生徒に一矢報いてしまわぬように。
「……先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見すぎていたようです……君達に顔向けできません」
殺せんせーは私達に背を向けそう言った。すると赤羽君はナイフと答案用紙を持って立ち上がり、先生にナイフを投げつける。先生は反応が遅れるも、それをギリギリでかわした。
「いいの〜?顔向けできなかったら、俺が殺しに来んのも見えないよ」
「カルマ君!! 今先生は落ち込んで…」
怒る殺せんせーに赤羽は答案用紙を投げ渡す。範囲外の問題ばかりだったというのに、彼の点数は494点の学年4位というトップクラスのものだった。
自分の成績に合わせて殺せんせーが余計な範囲まで教えたからだ、と彼は言う。
「だけど、俺はE組を出る気無いよ。前のクラス戻るより、暗殺の方が全然楽しいし。あと高嶺さんも50位以内だけど、そっちはどーすんの?」
赤羽の手には高嶺百合の答案用紙五枚があった。いつの間にか持って行かれたのだろう。
「高嶺さんは本校舎に戻る?それとも残る?」
「…私は…」
全員の視線が私に注がれる。
50位以内であれば本校舎に戻ることは可能だ。けれど、今のE組はエンドのE組であると同時に、ターゲットを狙う暗殺者。
「私も…残る。殺せんせーを殺すまで、E組を出て行くつもりもないから」
「だってさ。先生は全員50位以内に入んなかったって言い訳つけて、ここからシッポ巻いて逃げちゃうの?」
赤羽はいつもの調子で殺せんせーを挑発する。その挑発に乗じて、クラス全員で殺せんせーを馬鹿にするように嘲笑した。
「にゅや───ッ!! 逃げるわけありません!! 期末テストであいつらに倍返しでリベンジです!!」
殺せんせーは顔を真っ赤にして怒鳴った。そんな先生を見て、皆は吹き出すかのように笑い出す。
E組を取り囲む壁にぶち当たった。その壁はぶ厚くて、到底簡単に壊すことは出来ないけど。
それでも心の中で胸を張った。
自分が、このE組であるという事に。