テストの時間1
「さて、始めましょうか」
……何を……?
それは、五月も半ばのとある日のこと。何故か分身している殺せんせーが開口一番に言い放った言葉に、E組の生徒たちは思わずぽかんと呆けたように彼を眺めていた。
白い鉢巻きをその頭に巻いてクラスの人数分の分身を作り出した殺せんせーによると、数日後に迫った中間テストのために、高速強化テスト勉強を行うとのこと。つまりは、先生の分身と、一人ずつマンツーマンでみっちり苦手科目の復習。ちなみに苦手科目が複数ある場合、NARUTOになるらしい。今回は寺坂がその対象のようだった。
国語6人。数学9人。社会3人。理科4人。英語4人。NARUTO1人。
クラス全員の分身なんて、ついこの間までは3人ぐらいが限界だったっていうのに。
「うわっ!?」
問題の解説をしていた先生の顔が突然ぐにゃんと曲がった。どうやら赤羽が殺せんせーの顔にナイフを刺そうとしたみたいで、全部の分身が同じように曲がっている。
どんどんパワーアップしている殺せんせー。それは1年後に地球を滅ぼす準備なのだろうか。殺し屋には、厄介な暗殺対象だが…、
「このように、やり方次第で計算が楽になります。次の問題で実際にやってみましょう」
「…はい」
テストを控えた生徒には、心強い先生だ。
***
「さらに頑張って増えてみました。さぁ授業開始です」
次の日。殺せんせーは1人の机を囲んでしまうほどに分身を増やしていた。
鐘が鳴る頃には、殺せんせーは息を切らし顔を真っ赤にして教卓に寄りかかっていた。
生徒たちの点数が上がれば、尊敬の眼差しを受け、それを聞きつけた近所の巨乳女子大生が寄ってきてくれるという妄想を丁寧に伝えてきた。煩悩の塊みたいな人だな。
「…いや、勉強の方はそれなりでいいよな」
「…うん。なんたって暗殺すれば賞金百億だし」
「俺達エンドのE組だぜ殺せんせー」
「テストなんかより…暗殺の方がよほど身近なチャンスなんだよ」
皆のその言葉に殺せんせーは立ち上がった。そしてその顔に大きく×マークが浮かび上がる。
「今の君達には、暗殺者の資格がありません」
そういうと殺せんせーは、烏間先生とビッチ先生を呼んで校庭に来るようにと伝えるとそのまま教室を出て行ってしまった。
様子のおかしい殺せんせーに、皆は不思議に思いながらも烏間先生とビッチ先生を呼んで校庭へと向かった。
校庭で殺せんせーはサッカーゴールやらなにやらを一通り片付けたあと、くるっと振り返り触手でビッチ先生を指差し「仕事をするとき、用意するプランは一つか」と問いかけた。
「…いいえ。本命のプランなんて思った通り行く事の方が少ないわ。不足の事態に備えて…予備のプランをより綿密に作っておくのが暗殺の基本よ」
そう答えたビッチ先生の次に今度は烏間先生を指差し、「ナイフ術で重要なのは第一撃だけか」と尋ねる。殺せんせーの問いかけに、烏間先生はそのあとの第二撃、第三撃も重要だと答えた。
「先生方の仰るように、自信を持てる次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる」
対して自分達は、「暗殺があるからそれでいいや」と勉強の目標を低くしていた。それは劣等感の原因から目を背けているだけ。
もし先生が教室をでていったら?
もし他の暗殺者が先生を殺してしまったら?
暗殺という拠り所を失ってしまえば、私達には何も残らない。
「そんな危うい君達に…先生からの警告です」
第二の刃を持たざる者は、暗殺者を名乗る資格なし!!
くるくると回転していた殺せんせーは徐々にスピードをあげ、校庭に竜巻が巻き起こった。数秒後には竜巻は止んで、雑草の多かった校庭が綺麗な平地に変化していた。
そして殺せんせーは、もし自分達が第二の刃を示さなければ、校舎を平らにして教室を出て行くという。
「第二の刃…いつまでに?」
「決まってます。明日です、明日の中間テスト。クラス全員50位以内を取りなさい」
「「!!?」」
殺せんせーの出したその条件は非常に厳しいものであった。成績が悪くE組に落ちた人が大半な上、この学校にはA組という成績トップクラスの人たちがいる。その人達よりも点を取らなければ、50位以内なんて不可能なのに。
「君達の第二の刃は先生が既に育てています。本校舎の教師達に劣るほど…先生はトロい教え方をしていません」
自信を持ってその刃を振るえ。
仕事を成功させ、恥じることなく笑顔で胸を張れ。
「自分達が暗殺者であり…E組であることに!!」
暗殺対象からのその言葉を胸に、彼らはナイフという武器を手に、戦場へと向かった。