部活見学
放課後、私は早々に帰宅する気満々だった。部活動に向かうクラスメイトがたくさんいるなか、鞄に課題を入れたりして帰宅準備をしていた。そんな私に声をかけてきたのは、やっぱり宮原楓さんだった。
「静ちゃん、部活って何か入る?」
「いや、今は考えてないけど…」
「じゃあ一緒に卓球やらない?静ちゃんなら絶対すぐ強い戦力になるよ!」
彼女の所属している女子卓球部。それは前世の私も所属していた部活だった。祖母の趣味が卓球だったことから幼少期はそれになんとなく付き合って、中学では運動部に入るようにという母の指示に従うために、まぁそれなりにやったことのある卓球でいいか、という浅はかな考えで入ったものだった。入ってすぐに後悔をしたけれど。
「あぁ…、でも急に入ったら皆さん戸惑うだろうし…」
「大丈夫だよ。夏で三年生の先輩が引退しちゃってさ、二年生はいないから、一年の私たちしか部員いないから気軽にやれるよ」
それも知っている。先輩がいない分、確かに上下関係を気にしなくて楽かもしれないが、私は顧問の教師が苦手なのだ。今、思い返しても腹が煮えくり返りそうになる。とにかく卓球部には二度と入りたくない。
しかしそんな私の気持ちを知らない楓さんはキラキラした眼差しで見つめてくるので、ばっさり断りを入れるのも申し訳なく返事に困っていると、今度は「見学に来ないか」と言ってきた。
「先生もできるだけ部員は欲しいって言ってたから、絶対歓迎してくれるよ」
「でも今日いきなり呼んだらまずくない?」
「大丈夫だよ、昨日帰りに近々見学者連れてきますって言ってあるから」
どんどん話を進める楓さんに言葉を挟んだのは、楓さんの斜め後ろに立っていた背の高い女子生徒だ。同じクラスメイトの飯川春奈さん。彼女も女子卓球部に所属している子で、前世の私はダブルスを組んだこともあった。
「……じゃあ、見学だけなら」
「やった!とりあえず制服で行って、」
「ジャージに着替えてもらった方がいいんじゃないの」
「いや見学だし、制服でも大丈夫でしょ。うちらもそうだったじゃん」
楓さんの熱意に押され、結局、部活見学に向かうことになってしまった。まぁ一度見て断りを入れれば、向こうも納得してくれるだろう。しつこく勧誘されるより、こういうのは早めに済ませた方が良いのだ。
そうして彼女たちについて行き、辿り着いたのは体育館の二階にある練習場。今世の私がここに来るのは初めてなのだが、如何せん前世の記憶が蘇り、懐かしみを感じてしまう。
「先生、昨日言ってた見学にくるかもって子の間門さんです」
「おぉ、本当に来てくれたのか。転校生の子だろ?来てくれてありがとね」
「あ、はい。こちらこそ突然お邪魔してすいません」
顧問の教師と顔を合わせると、教師は如何にも余所行きの笑顔を見せてきた。どうせ良い印象を持たせて、できるだけこの部活動が良いように見せるためだろう。入部すれば豹変するというのに、前世の私が騙された簡単な手口だ。
「宮原は顔見知りなのか?帰国子女だって聞いてるけど」
「小学校でクラスが一緒だったんです。五年生のときだっけ?アメリカに行ったのは」
「そうだね、四年生が終わったところで行ったから」
「え!?静ちゃんだ!!」
後ろから聞こえてきた第三者の声。その声に振り返ると、やはり見知った顔が。くるくるとした天然パーマが特徴の彼女は元クラスメイトの篠原由美さん。確か今は隣のクラスだったと記憶している。今日のお昼休みにも顔を見せてくれた子だ。
「何々、うちの部に入ってくれるの!?」
「いや見学に来ただけで」
「はいろーよ〜、静ちゃん入ったら最強だわ」
「経験者なの?」
いつの間にか他の部員の子たちも集まってきていた。私が小学校で一緒だったのは楓さんと篠原さんだけだから、あとの子たちはまだ顔見知りじゃない。私のことを興味津々で見ている。
「経験者じゃないけど、この子はヤバいんだよ。何でもできるスーパー小学生だったもんね」
「なんだそのあだ名…」
「だって運動系の大会は全部総なめだったじゃん」
「絶対卓球も練習したら凄いだろうし、他の運動部に取られる前に確保したかったんだよ」
おいおい。話がどんどん飛躍していないか。私は部活に入る気はないのだが。すると、楽しそうにお喋りに花を咲かせる生徒たちに顧問が「お前ら、時間見て動けよ」と釘を刺したことで、ようやく部活動に戻っていった。