いつも通り、家族が学校まで送ってくれたその日。学校には来客用の駐車場はあるが、朝の登校時は生徒たちが駐車場付近をたくさん歩いているから、学校から道を一つ挟んだ公共体育館の駐車場に下ろしてもらっている。
 そこから横断歩道を渡れば直ぐ校舎内に入れるので、安全だとそう確信していた。

 ただその日は、横断歩道から直ぐのところでランドセルを背負った子供が一人立っているのが目に入ってしまった。
 近くに小学校もあるから、この通りは学生の通学路になっているため、ランドセルを背負った子供もよく見かける。けれどその男の子は何かを手に持って、じっとその場に立っていたのだ。誰かを待っているのかと思ったが、普段ここをこのように待っている子はいなかった筈。私は思わず声をかけた。

 「…キミ、ここで誰か待ってるの?」
 「うん。さっきおトイレ行くから、ここでコレもって待っててておにいちゃんが。大事なものなんだってー」
 「その人はキミのお兄さん?」
 「ううん。知らない人」

 それを聞いて若干奇妙なものを感じた。どうして見ず知らずの人間が子供に大事な連絡手段である携帯を預けるのだろう。トイレに行くとしても、これぐらいの携帯ならポケットにでも入れれば済む話だ。

 「その人、どんな格好してたの?」
 「仮面ライダーみたいにヘルメットしてたよ!真っ黒いけど」
 「…お兄さんはさっきトイレに行ったのかな?」
 「うーん…忘れちゃった。ずっと待ってるけど出てこないの」

 それから私はここでこの子を一人にするより、携帯を預かって持ち主を探すか、警察に届けるかどちらかにしようと考えた。

 「代わりに私がそれをお兄さんに届けるよ。キミは学校行かないと、遅刻しちゃうよ」
 「えーおねえちゃんできるのー?」
 「頑張ってみる。そのお兄ちゃんはここの体育館のトイレに行ったのかな?」
 「ううん。あっち!」

 あっち、と男の子が指さす先は何故か道路の先の方だった。その男性は一体どこに行こうとしたのだろうか。ますます謎は深まるばかりだ。

 「じゃあね!」
 「あ、待って待って。ちゃんと右左見て、車がこないか確認しないと。私と一緒に渡ろうか」

 男の子と手を繋いで横断歩道を渡る。こういう子は小さいうちにできるだけ交通ルールを定着させないと、まだ何が危険なのか判断着かない年齢だから。

 そうして二人で横断歩道を渡り切ろうとしたときだ。左後方から一台の黒いバイクが走ってくるのが音で分かった。でも、私たちはもう歩道に足を踏む入れるところで、私はそう慌てる必要もないかとそのまま足を進めていた―――



 「え……」

 バイクが後ろを通ったと同時に感じた違和感。しかしそれは一瞬で、次に襲ってきたのは火傷したときのような熱い痛み。

 刺された―――そう瞬時に悟った。

 脇腹近くが痛む、手を当てればズキリとした痛みと血液独特の温みを感じた。

 「じゃあね、おねーちゃん」
 「…っ、キミ…これからは知らない人に声をかけられても……、付いて行ったり、しちゃ駄目だからね」
 「はーい」
 「っ、それ…から…」
 「おねーちゃん?」

 子供に気付かれないよう平静を保って、傷口を見られないよう真正面から向き直った。

 「学校に着くまで…車やバイクにも、今日は…近づかない、ように…」
 「うん!いいよ!」

 それから子供を見送って、私は直ぐに携帯を取り出した。

 【はい。こちら119番、消防署です。火事ですか、救急ですか】
 「救急を、」

 私は連絡を取りながら歩き続けた。今は幸いにも私以外に人は歩いていないが、時間帯からしてもうすぐ登校してくる学生たちも出てくる。私はいつも他の学生と時間が被らないよう少し早めに登校しているから、被ることはそんなになかった。
 できるだけ学生たちにトラウマを残したくない、誰かが刺されて倒れている場所なんて見せてはいけないと思った。だから体育館後ろの駐車場に移動して、せめてそこで救援がくるまで待とうと考えたのだ。

 「……ぐっ…、」

 体育館後ろまで来たところで、つい安堵してしまったのか力が抜けた。移動している間にどれほど時間が経ったのか知らないけれど、遠くから緊急車両のサイレンが聞こえてきて、私の記憶はそこで絶えた。

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