これは僕が刑事となった初日のこと。
 人事異動の引継ぎを終え、お世話になる捜査一課に足を踏み入れた時、その異様な空気を肌で感じた憶えがある。
 しかしそれもその筈だ。何故なら、先日近隣の中学校の近くで殺人未遂事件が起きたのだから。今朝もテレビはそのニュースで一色だった。

 【この事件ってそもそも、この方が発言してしまったことが問題ですよね。世界的アイドルが、“自分はこの人が好きなんです”なんて。ファンからしたらそりゃあショックでしょうよ】
 【女子中学生が登校途中に刃物で刺されたというショッキングな事件。警察の調べでは、被害者は後ろから何者かに刺されたということで…】
 【目撃者が誰もいないことから未だ捜査は難航しています。ただ現場近くにいた人の話では、現場には履歴のない未使用の携帯が落ちていたという証言もあり、事件の手がかりになるのではないかと、】
 【…さんが所属する事務所が、事件について未だ何の返答もないことから国内外では批判も出ているそうです。ただ彼らは今日本ツアーの最中でもあり、ツアー中止の可能性の声も…】

 連日報道される内容はどれも同じものばかり。一人の少女が刺されて意識不明の重体だというのに、大人たちは知ったかぶりの顔をしてカメラの前に立っている。反吐が出る光景だった。


 「着任早々申し訳ないが、早速そこにいる桐山とペアを組んで捜査にあたってほしい」

 刑事となって初の捜査。身が引き締まる思いだ。
 僕とペアを組んだ先輩の桐山さんはまだ年若く、下手したら僕と同じか年下と思われる容貌で、課長からは太鼓判を押されている優秀な刑事でもあった。
しかし僕は気だるげに椅子に座っている姿から、正直あまり良い印象が持てなかった。…最初のうちは。

 そんな桐山さんに捜査ファイルを見せてもらい、資料を見せて貰うと、被害者のYさんがどれだけ怖い思いをしていたのか僕は憤りさえ感じた。

 「これって…。」
 「ネット上に挙げられていた犯行予告だよ」
 「“Y(本名)を一週間以内に殺す お前は相応しくない”……こんなあからさまなものが…」
 「こんなものはいくらでもSNSにあげられているけどね。
おかげで私たち(警察)はマスコミの格好の餌食だ。まぁそりゃあ、ストーカー被害も未だに防ぎきれていないケースが殆どだからねぇ。
 とにかく我々は、被害者を狙った犯人がネット内にいないか探せとのお達し通り、殺害を仄めかす奴らを一つづつ調べていくよ」
 「はい!」
 「まぁ僕としては……それとは別に、ひとつ引っかかることがあるんだけどね」
 「え?」

 桐山さん曰く、ネット上で犯行予告を示す奴らに誰かが手助けをしている節があるとのことだった。

 「被害者Yさんの個人情報の流出、これが異様に早かったのは知ってるだろう?確かにY さんは海外で功績を残している方だ。ただの一般人ではない分、調べれば何かしら見つけられるだろう。けど、Yの個人情報を詳しく載せたサイトの一つに不可解なことがあった。…これだよ」

 見せてくれたサイトはネット上では既にこちらが削除したものだが、調査のためにコンピューターを使って調べている最中だ。それは数ある流出サイトと大きな差はなく、事細かに彼女のことが書かれていただけで特色はないように見えたが。

 「これが一体、」
「例のライブ配信では、Jが問題発言をした時間帯が向こう時間で21:14」
 「21:14………えっ、このサイト…」
 「これがネットに挙げられたのは、向こう時間で21:10」

 ライブ配信は14分にされているのに、どうしてこのサイトはそれより前にネットに挙げられていたのか。しかも隣国の言葉ではあるが、ここにはきちんと“さきほどJが発言していた……”と書かれていることから、ライブ配信でJさんが発言されたことを前提として書かれているのだ。
 時間帯が前後しているなんてどう考えてもおかしい。

 「たかが4分差、でも…Jが発言することを分かっているものが既にいたと考えられるんだよ」
 「それって…、Jさんのストーカーが事前に調べているうちに知ってしまったから、とかですかね」
 「まぁそれならまだマシかもね」
 「…桐山さんは違うんですか?」

 まだマシ、ということは桐山さんのなかではもっと悪いケースが浮かんでいるのだろうか。

 「Jは配信で何て言っていたか憶えているかい?」
 「えっと…“好きな子ならいる”と…あとは、」
 「彼はこうも言っていた。“ずっと待ち受けにしている”………、Jがいつから待ち受けにしているか知らないが、もし長い間そうしていたとしたら…、これだけのサイトを瞬時に出すほどの執着したやつだ。
 Jの携帯画面が今何を示しているかぐらい、しぶとく調べていれば割り出せるとは思わないかい?それなのにこのタイミングで、配信と重ねるように情報を出してきた。」
 「あの、つまり?」

 頭の回転が鈍い私は、桐山さんが考えていることが見いだせなかった。
 すると、そんな私に桐山さんが重い口を開いて―― 

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