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クラスメイトが刺された――でも私はそれを聞いて、内心ざまあみろと思った。
私は二年前から防弾少年団を友達に教えてもらい、そのかっこよさに直ぐ惹かれ、なかでもジョングクの虜となった。歌とダンスは上手くて、背が高くて、顔がカッコよくて、面白くて、とにかく彼の全てが好き。去年は初めてライブにだって行けて、友達と今年もオタ活頑張ろうね、なんて新学期早々そんなことを話していたときだった。
【ねぇヤバいよ!グク熱愛だって!】
【は?誰と?】
友達からのラインでまさかの話を聞いた。ジョングクには今まで熱愛の噂はあっても、どれも明確ではなかったし、ARMYの私たちを愛してくれてるって信じていたから真に受けたことはなかった。だから今回もどうせデマだろうってそう思ってたのに。
「え……なんで、間宮さんが?」
Vliveでジョングクの携帯画面に映っていたのは、クラスメイトの女の子だった。
――間宮百合
彼女は学校のマドンナ、高嶺の花、アイドル、などなど色々な総称をつけられているが、どれも彼女を称賛しての呼び方だった。
精巧に作られた芸術品のように綺麗な顔をしているうえに、色素が薄いから絵から飛び出てきたみたいで、あまりの美しさに彼女と話すとき直視できないのだ。それにアジア人とは思えない手足の長さに、韓国のヨジャアイドルの子と引けを取らないスタイルの良さ。
容姿だけでなく彼女は文武両道で何でもできるから、私はどちらかというとそれが最初は苦手で、どうせ見下しているんだろうなとか思っていた。美しいものには棘があるというし。
ところが彼女は寧ろ、本当に良い子だった。大きな転機は、夏にプールで溺れかけた生徒を助けたことだ。あの時、間宮さんは水泳ではなく体操の種目を選んでいて、偶然プールサイドまで来ていただけで、それでも異変に気付いた間宮さんが先生よりも早く、服を着たまま一切の迷いなく水のなかに飛び込んでいたのだ。
それから溺れかけた女子生徒を横抱きして保健室まで連れて行くときは、自分の羽織っていたジャージを彼女に被せて皆に見られないよう配慮していた。他にも彼女に好感を持てる部分はあった。
彼女の話し方というか、雰囲気がとても柔らかいから話をしていて嫌な気持ちにならない。声に抑揚はないけどその方が落ち着きのあるようで、クラスの華美なパリピ軍団とは違う意味で人を惹きつける魅力があった。
それに色々な噂も聞いた。間宮さんは去年の秋ごろにうちの学校に編入してきたのだけど、それまでアメリカに住んでいてトップアーティストのダンス指導をしていたとか、世界中で色々な賞を取りまくって大金を稼いでいたとか、何か国語も話せるとか、恵まれない子供たちに支援しているとか、聞いた噂はどれも普通の中学生にはできないようなことばかりで、本人に真相を確かめても、笑って曖昧に誤魔化されるだけで誰も本当のことは知らない。
賢くて何でもできてしまうミステリアスな間宮さん。噂が本当なら、彼女は私たちとは違う次元を生きる人なんだろうって。まるでテレビに出ている芸能人を見ているかのような感覚だった。
でも、まさかそんなの、ないでしょ。
なんで貴方がジョングクと?
今までの熱愛なんて、メディアが勝手につけたネタばかりで信憑性なんて殆どなかった。でもこれは違う。ジョングクが自分の口で言っているうえに、実際に彼の携帯にはハッキリと間宮さんが映っていたのだから。
海外を渡っていた彼女だからこそ、何処かでジョングクに出会ったことがあるんだろう。
以前間宮さんに興味本位で聞いたことがある。
『間宮さんって海外行ったことあるんでしょ?』
『うん』
『もしかして外人の彼氏つくったことあるとか?』
『あはは、そんなことはないよ』
『えー。でも似合うのに!いつかハリウッドスターみたいにカッコいい人とデキてそう!』
『ありがとう。そういう若槻さんは、海外の男性が好きなのかな』
『うん!けどアメリカじゃなくて、あたし韓国に今ハマってるんだ。あ!行ったことある?』
『実はないんだ。近いからいつか訪れてみたいよね』
『そしたら一緒に行こうよ〜っ』
私は、普通とは違う間宮さんには、同じく普通とは違う何か凄い人が似合うだろうなって勝手に思っていた。でも、
―――ジョングクの愛を独り占めしないでよ。
その瞬間からどす黒いものが自分のなかで生まれていったのが分かる。
【間宮さん刺されたって…ヤバすぎない?】
【前から過激なファンとかが押し寄せてきてたもんな】
【本人はあんま気にしてない感じだったけど、普通怖くない?急に世界中が敵になったようなものじゃん】
【さっき来る途中、インタビュー迫られたに。俺テレビ出るかもしれん】
【そういえばあれ、何だっけ、間宮さんの幼馴染でよく一緒にいた…】
【児嶋だろ。あいつもあれ以来学校来てないよ】
同級生が事件のことを話しているなか、私は清々した気持ちでいた。
彼女が悪いのだ。ジョングクの愛を一人占めようしとした彼女が悪い。一般人のくせして、有名人の彼と特別な仲になろうなんて。
【ねぇ、うちのお父さんが言ってたんだけど……間宮さん、学校に迷惑がいかないよう警備会社に極秘で連絡してたんだって。もしうちらに万が一のことがあったら大変だからって。会社の人がお父さんの知り合いだから教えてくれたみたい。】
【あーそれ聞いた。通学路とか見回ってくれてたんでしょ。しかもそれ海外でツテのあったプロのSPの人たちだったらしいよ】
【まぁこんな田舎の警察よりは頼りがいあるしな】
【ネットで騒がれてる間宮さんが小学生のトラウマにならないようにしたってやつ…あれもきっと本当だよ。だって意識不明になるぐらいの傷なのに、普通何メートルも歩くか?】
【私、横断歩道に残ってた血痕見ちゃったんだけどさ…、あれだけで十分怖かった。血液がダメって人の気持ちちょっと分かる。倒れてた駐車場はもっと酷かったみたいだし……もしそれを間近で見てたら、普通じゃいられなかったと思う】
【守ってくれたんだよね。百合ちゃん、本当良い子だから…っ】
【…なんで百合ちゃんが刺されなきゃいけないわけ…】
――――直ぐに通行規制かけろ! はい! 止血できるものないか!
「なにあれ」
「なんかヤバくない?」
私はあの日、通学途中だった。学校まであと僅かというところで、体育館前あたりに同じ制服を着る生徒たちが数名群がっているのが見えた。
怒声に近い声が聞こえてくるのは体育館裏近くの駐車場。私たちが立っている体育館前からは何が起きているのか物陰に隠れて見えなかったけど、明らかに異様な空気が伝わってきていた。
それから直ぐ学校の方から先生が駆けつけてきたことで、私たちは学校のなかに入るよう促され、気になりながらも横断歩道を渡った時だった。
「うわっ!」
「ちょっと何……これっ、血じゃない!?」
一人の男子生徒が地面を見て驚いていた。そう、私たちは駐車場方面ばかりに目が行っていたから気づかなかったけど、よく見れば横断歩道から駐車場に続く方まで点々と血痕が落ちていたのだ。
私はそれ見た瞬間、サッと血の気が引いていくのが分かった。
「うっ……」
「キミ、大丈夫か…っ?」
私は血液が駄目だった。昔、外遊びで大けがをして何針か打ったことがあるせいで、血液がトラウマとなっていたのだ。大人になればいずれ直るとか言われてたけど、未だに見るのは駄目だ。
噂では、間宮さんが倒れていた現場は酷い血だまりだったそうだ。急所は外されていたけど、出血が酷かったらしく、間宮さんが倒れて意識を失ったのも出血多量が原因らしい。
そんな現場を横断歩道で目の当たりにしていたら―――
私は彼女が刺されたことを聞いて、ざまあみろと思ったんだ。
でも間宮さんの優しさが、そんな自分を酷く惨めにする。