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JM「アハハ、なーんて脅かしてゴメンよ。キミ、噂のジョングクくんだろ?」
JK「…知ってたのならどうして…」
JM「いやぁどういう子なのか知りたくて、ちょっと度胸試ししてみた」
JK「なにゆえ」
部屋に連れ込まれたときはこれから拷問でも始まるんか、と覚悟したほどだったが、実はグレイ髪の男――パク・ジミンはジョングクのことを既に周知していたため、結局直ぐに解放された。
JM「でも思ったより肝が据わった子なんだね。普通は逃げるなり、反抗するなり、色々反応を見せるものだよ?」
ジミンは目を細めながら笑っていた。彼の本性がこの数分だけでもう十分分かってきたジョングク。
JK「…それで、ハルさんなんですけど…」
JM「あぁ、ハルね。さっき部下に報告しておいてもらったから、そろそろ来ると思うよ」
彼女の名前を慣れた様子で呼ぶ姿から、ジミンもハルと何かしら関わりがあるようだ。
上等そうな背広を着た男たち、中心街から少し離れた高級洋館、ハルの派遣先、そして以前ジンから聞いた―――「この街の裏側は主にマフィアが管理している」ということ。
これらの状況を整理した結果、ジョングクが導き出した答えは。
JK「ここって…もしかして、マフィア…の拠点ですか?」
JM「うん、そうだよ。あ、お茶出してなかったね。僕の部屋は紅茶しかないんだけどさ」
ジミンがあっさりと認めたうえ、簡易キッチンでお湯を沸かそうとしている間、ジョングクはとんでもないところに来てしまったと冷や汗が伝うのが分かった。
おそらくハルが深夜に行っている仕事は、表向きな仕事ではないとジョングクは薄々察していた。ジンやユンギもそれを知っているだろうし、否、おそらく彼ら自身も何かしら裏の仕事をしているのだろう。
身近で彼らと関わっている自分もいつか、そういう場面に遭遇するかもしれない。そう覚悟はしていたが、いざその世界を覗いたところで足がすくんでしまいそうになった。
JM「僕は一応、此処で幹部補佐を任せられててね。キミの苦手なテヒョンの補佐役っていうか、ぶっちゃけお守り役。実はキミのこともテヒョンから聞いてた」
JK「テヒョンさんもですか!?」
JM「知らなかったの?」
JK「……ハルさんのストーカーかと」
JM「ストーカーって何それ面白すぎ。言い得て妙だし。うちのテヒョンはあれでも、今度隠居されるボスの次男で、此処じゃ上から三番目に偉いんだよ」
JK「三番目……俺、あの人にすごい生意気言っちゃったんですけど…」
JM「平気へーき。そんなこと気にされるの苦手だと思うし、今まで通り接してあげて」
まさかテヒョンがマフィアの幹部だったとは。ジョングクはそこでようやく、先日ユンギが言っていた話に合点が付いた。
目の前のジミンもそうだが、自分とそんなに歳が離れているようには見えない彼らが、若くしてその立場に付くということは相当賢いか、腕に実力があるのだろう。
JM「ていうかその書類、僕が預かろうか?」
JK「あ、そっか…俺書類持ってきたのか…」
本来はハルに渡すつもりで持ってきたが、そもそも彼女が此処の誰かに渡すであろう書類だ。幹部補佐だというジミンに渡しても何の問題もない。
そしてジミンに書類を渡したところで、ジョングクはふと疑問に思ったことを口にした。
JK「あの…ハルさんは、マフィアの仲間なんですか?」
JM「え?ハルが?いや別に僕たちのファミリーに属してるわけじゃないけど、時々こうやって【お仕事】をお願いするよしみって感じかな」
JK「そう、なんですか」
JM「仲間かどうかはなぁ……僕はそう思ってるけど、ハルは…多分、【僕たち】のことあんまり好きじゃないと思うから」
その時だけジミンの顔が僅かに曇りを見せたような気がした。深堀してはいけない話かもしれない。しかしそれを知りたいと思うのは、彼女を知る手掛かりに繋がると思ったからだろうか。
そうしてジョングクがジミンに再度質問を問いかけようとしたが、突然の来客が現れたのである。
TH「ね、これ着てみてよっ。絶対ハルに似合うと思って買ってきたんだから」
JM「おっと。案外早く来たね」
TH「あれ?ジョングクがジミンの部屋にいる」
扉を勢いよく開けたのは今しがた話題に上がっていたハルだった。後ろには相変わらず付き纏っているテヒョンもいたが、それよりもジョングクは気になることがあった。
彼女は扉を開けたまま、一度ジョングクの方に視線をやると、今度はジミンの方に顔を向けたが、その表情はいつもと様子が違っていたからだ。
JK「…ハルさん?」
JM「僕はただジョングクくんをもてなしてただけだよ、ハル」
するとハルはジョングクの方まで歩いていくと、ジョングクの前にいるジミンと真正面から向き合った。まるでジョングクを後ろに隠し、盾にでもなっているかのように。
JM「大丈夫。彼はジンさんと、ハルの大事な同僚でしょ?【僕たち】は絶対に手は出させないから。ね?テヒョン」
TH「は?あぁ、うん。……ていうか、この状況は?」
JK「俺、書類届けようと思って…」
ジョングクが説明しようとしたが、その前にハルがジョングクの腕を掴んでソファから立たせると、そのまま強引に連れて部屋を出ていこうとする。
TH「えぇもう帰えるの?」
JM「テヒョナ、ホソギヒョンに言われた仕事終わった?」
TH「……あとちょっと」
JK「あの、ハルさんっ?」
自分の腕を引くハルに戸惑ったジョングクが声をかけるも、彼女の足は止まろうとしない。そうして二人が部屋を出て行くとき、微笑を浮かべたジミンが最後に。
JM「ハル、ジョングクくん――またね」
ハルだけはそれを睨みつけていた。
***
洋館から出た二人はバスに乗って帰路につくことになった。ただし、席に着くまでハルはジョングクの腕を離さなかったし、なにかを急ぐように足を速めていた。
彼女から怒りと焦燥が感じられたジョングクは下手に声をかけるのも躊躇してしまい、暫く二人の間には沈黙が続いていた。感情の起伏が少ないハルの珍しい様子に、ジョングクはひたすら戸惑っていたのだ。
すると、先に口を開いたのは―――
『……ごめん』
JK「……え、」
初めは理解が追い付くのに時間がかかった。ジョングクはそれまで彼女の声を聴いたことがなかったし、口を開かないことが普通だったから。
少し低めな落ち着きのある声。それはたしかに自分の隣から聞こえてきた。
でもどうして謝罪を?なにか謝らせるようなことをしただろうか。
『……【こっち】に…引き込ませた。だから、……ごめんなさい』
ハルは前の方を向いたまま、隣に座るジョングクの顔を見ることはなかった。
しかし彼女の言う【こっち】とは何なのかは直ぐに察することができた。
先ほどのジミンやテヒョン、そしてハルもいる世界――普通に生きている人間が触れることもないような世界に、足を踏み入れてしまったのだ。
それを自分のせいだと謝るハルだったが、一方でジョングクはその謝罪は聞きたくないと、耳を塞ぎたくなってしまいたかった。
私たちは住む世界が違うと。それを彼女から言われてしまったようだから。