「」
**視点
つ、ついに今日から高校生活が始まってしまった。しまった、というと始まってほしくないように感じるかもしれないけど、誤解しないでほしい。ただ不安なだけです。自分がこれから通う高校はこの地域じゃそれなりの進学校、でも私はこの辺りに最近引っ越してきたばかりで完全なるアウェー状態。知っている子など誰もいないので、このとてつもない孤独感がひしひしと辛い。まず私は今日のうちに友達をつくることを目標に生きることとした。
「……あの、すいません」
「あ、は、はい……っっ!?」
教室に入って黒板に座席表が張られていたので、大人しく座っていたら頭上から声をかけられた。
まさか声をかけてもらえると思わなくて、思わずバッと勢いよく顔を上にあげたら目に飛び込んできたのは、とんでもなく可愛い女の子だった。
え、待って、目でか。初対面の人に対していきなり失礼な感想かもしれないけど、この子本当に可愛い。瞳も色素が薄いからお人形さんみたいだし、目も鼻も小さくて、こんなに理想的な形を持った子見たことない…!
私が思わず魅入ってしまっていると、その子が再び口を開いた。
「多分、私…ここの席なんですけど…」
「え!?うそ、!?」
びっくりしてもう一度黒板によーく目を凝らしてみる。すると、私の席は前から4番目。そして私が今座っている席は前から…3番目だった。
「ごごごご、ごめんなさい!」
「全然、ほんとに大丈夫ですから」
美少女が笑顔で返してくれた。私はなんてことを。高校生活になんとか慣れようと頑張る前に、人様に迷惑をかけてしまうとは。荷物を持って後ろの席に移動した。
でも、つまりはこの美少女は私の前の席になるのか。
「あの、私、間門静っていいます……よろしくね」
「あ、うん!えっと、私は溝口華(みぞぐちはな)!華でいいよ!こちらこそよろしくね!」
わぁ嬉しい。まさか入学初日からこんなに可愛い子とお知り合いになれるなんて。
「華ちゃんはどこ中出身?」
「あ、私、3月まで千葉にいたから、多分あんまり知らない学校なんだけど…」
「千葉から…!?ってことはディズニーランドが近かったとか…」
「うん、まぁまぁ、近かったよ」
「いいなぁ、遊び放題だ」
「いやいや!お金がかかるから、放題じゃないけど…あ、でも確かに交通費はかからないね」
静ちゃんとお話していたら、静ちゃんの前の席に着席した子が話に加わってきた。
その子の名前は細川優香ちゃん。静ちゃんと同じ中学出身の友達だそうで、ちょっとしたメイクと制服の着こなし感が印象的。大人しそうな静ちゃんとはまた違ったキャラクターだから、二人が仲良いことがちょっと意外だったけど、話してみると頼れるお姉さんといった感じでとても話しやすい良い子だった。
三人で楽しく話していると、先生が教室に入ってきて入学式入場のために列になって並ぶよう指示されたので一緒に廊下に並んだ。
列が進むのを待っている間、何だか男子たちがこちらを見てヒソヒソと喋っているような気がした。
彼らの視線は多分私の前にいる静ちゃんだというのが直ぐ分かった。少女漫画でしか見られないような光景だけど、これは間違いなく現実で、改めてとてもすごい子と友達になったなぁと思った。
うーん確かに、どこの角度から見ても完璧な美少女で、絶対テレビとかに出たら凄い反響が出そう。こんなに可愛かったら普通自分を可愛く見せるため、喋り方とか声に特徴が出そうなのに、常に自然体でいるというか鼻にかからない様子が女子の私からしても良いなぁと思った。
それから入学式を終え、担任の先生から説明を受けたら今日は帰宅となった。クラスの中では早速、女子たちがグループを作り始めていたり、早速部活動の見学に行く子もいたりしていた。
「ねぇねぇ、今日お昼どっか食べいかない?午後暇だったし」
「いいよー私で良かったら」
「静も行く?」
「うん、三人でいこうよ」
規則の厳しかった中学とは違い、高校は大分縛りが緩いというか、こうやって帰りにランチすることはちょっと夢見ていたかもしれない。
「なになに、三人でどっか行くの?」
「俺らも一緒に行ってもいいー?」
私はこの地域をまだよく知らないので、二人におすすめのお店でも紹介してもらおうかなと思っていたとき、近くで話を聞いていたと思われる二人の男子が私たちに声をかけてきた。うわ、チャラそうな人たちだなー。茶髪に腰パン、見事なまでに高校デビューだ。
「静ちゃんって高耀中学の子だよね、めっちゃ可愛い子いるって有名だったよ。ほんとに可愛いねー」
「あ、どうも……えっと、」
見た目チャラい男子Aが典型的なナンパを静ちゃんにしてきた。
でも静ちゃんの方はちょっと困っているような、きっとこういう男子が苦手なんだろうな。分かる、私もあんまり好きじゃない。こういう表面上しか見ていないような人は。
「あー、悪いけど今日は女子会だから、男子禁制。また今度ってことで」
「女子会ってなになに〜」
「はいはい。二人とも行こー」
優香ちゃんが上手にチャラ男くんたちをかわしてくれたお陰で無事教室を出ることができた。そして、とりあえず学校の近くにあるというファミレスに入って、ランチを注文。
待っている間に出てきた話題はやっぱりさっきのナンパについてだった。
「静ちゃん有名人さんなんだね、さっきの人中学まで知ってたよ、ヤバいね。あんまりこういうの言わない方がいいかもしれないけど…、なんか気を付けた方がいいような…。あの人たちすごいチャラかったし、こんだけ可愛いと…」
「大丈夫よー静、こう見えて合気道2段だから。自分で何とかできるよ」
「あ、あ、合気道…!?え、嘘!?こんなに華奢な子が!?」
「でしょ!めっちゃ意外かもしれないけど、強いから。まぁそこらへんの男たちなら軽く飛ばせるよ」
「すごい自分のことみたいに話すじゃないですか、優香ちゃんや」
こんなに可愛いうえに、実はめっちゃ強いとかギャップが強すぎる。まぁでもそれなら安心だ。
「それに、ねー、静」
「ん?」
「もう相手いるもんねー」
「……そうなんだ!?」
「え、いや、ちが…」
そっかー!彼氏いるんだ!一気に女子トークへと広がりそうな話にわくわくしてしまった。しかもこの子の彼氏って、一体どんな人なんだろう。二人でいたら顔面偏差値ヤバいとか。
「静ちゃんの彼氏どんな人ですか?私らと同じ学校?」
「彼氏じゃないよっ、」
「え、そうなの?」
「ウチらと同じ学校だよー、確か隣のクラスだったよね?」
「…どっちなの?!」
二人の意見が全く違うけど、これは一体どういうことだろう。
「まぁ、ぶっちゃけ言うとお互い好きだけど、なんかまだ付き合ってない的な。だから、彼氏になる予定?みたいな感じ!」
「なにその関係!可愛すぎる!」
静ちゃんは恥ずかしいのか、オレンジジュースのストローをクルクル回して俯いてしまった。少女漫画大好きな私からすれば、こういう関係は楽しくて仕様がない。静ちゃんには申し訳ないけど。
私と優香ちゃんが話に盛り上がっていれば、ファミレスに入ってきた数人の男子生徒たちで、制服が同じ学校のため恐らく同じ一年生なんだと思う。このファミレスは学校から比較的近いから、皆考えることは一緒だ。
「あ、静!静!」
「?」
入ってきた男子たちを見て、優香ちゃんが静ちゃんの腕をつついた。あれ、この反応はもしかして…。
静ちゃんが優香ちゃんに言われた方向を見て、あ、と呟いた。
そうして男子たちが私たちの横を通り過ぎるときに、一人の男子がこちらを二度見して、小さく手を挙げた。何も言わなかったけど、静ちゃんもぎこちなさそうにヒラヒラと小さく手を振っていたので、もうこれは確信できた。彼がさっき優香ちゃんが言っていた、静ちゃんと両想いだけどまだ恋人同士じゃない、という人だと。
数秒見た感じだと、予想通り格好いい感じの、一言でいうと雰囲気イケメンな人だ。
「今の人が例の?」
「そう、静の幼馴染なんだよ」
「えーもう設定が好きすぎて」
美男美女の幼馴染同士のカップルって、最高か。
「こんな可愛い子に好かれるっていいなぁ。でも、まだ彼氏じゃないって不安じゃないのかな。だって今日だってさ、既に静ちゃん学校のマドンナ状態だったじゃん。やっぱり一応そういうのハッキリさせた方が…」
「多分、あれでしょ?昔からの付き合いだから、恥ずかしいんでしょ。今更どう付き合ったらいいか分かんないって感じの。だからあっちもなかなか告んないし」
「あーなるほど、それはあるかもね」
「シャイだかなんだか知んないけど、こっちからしたら、はっきりしないあたりがちょっとねぇ」
この二人のぎこちない感じに終止符がつかれるのはいつになるのか、私はこれからの高校生活に一つ楽しみを見つけることができたかもしれない。