Anti Hero


2


ああ、きっとこれは悪い夢。いや、ある意味良い夢なのかもしれないけれど、夢だと思わなければ説明が付かない。だって私は自宅のベットでふかふかの毛布にくるまりながら寝ていたはずなのだから。そう。だからこんな草原でなんか寝ていない。
――……はずだというのに。遠い空で眩しいほどに煌めいている三日月とか。頬を撫でる冷たい風とか。さわさわと音をたてる木々の葉とか。水辺特有の独特な匂いとか。夢だと思うには全てがあまりにも鮮明だった。

重い身体を起こして辺り一帯を見回した。広い高原と近くに見える砂地、背後には大きな湖があるこの土地は、間違いなくゲームで何度も見た風景。

「まさかの携帯獣かよ……」

とりあえず傍にあった見覚えのあるブラウンの大きなバックに手を伸ばす。周りに私以外の人はいないので私のバックで間違いないだろう。バッグの中身を探ると見つかったのは財布、分厚めの封筒が一つ、ポケモンを回復するためのアイテムが複数、きのみが複数、モンスターボールが五つだった。

ひとまず、この地で私の身分や立ち位置がどうなっているのか分かるものがあるといいな、という淡い希望を胸に財布を覗いたものの、案の定と言うべきか求める物は得られなかった。ガックシと肩を落としながら次に封筒を覗き込むと、中に入っていたのはまさかの現金。それも軽く見た感じ三桁万円はある。

「ひぇっ……」

思わず声が出てしまったのは仕方ないと思う。だって私は大学生。こんな金額は現実で見たことがない。まさかとは思うけど私が昔やっていたゲームデータとリンクしているのだろうか。

ひとまずこの大金は見なかったことにして、封筒は丁寧にバックの奥底にしまっておいた。そもそも本当に私のお金なのかどうかも怪しい。……考えるのはやめておこう。
とりあえず私はこの世界でどういった立ち位置なのか。そしてここは本当に現実なのだろうか。やっぱり信じられない出来事に、夢の可能性は捨てきれない。
そう。昔、というか小学校の頃に友達に誘われてやっていたポケモンゲームと似た世界。

「どうしよう……。眠ったら夢から覚めるとかあるかな」

芝生に寝転がって横にある六つのボールを見る。パシャっと湖で何かがはねる音がした。
私は身体を起こしてから一番端にあるボールのボタンを押してみた。
パカッと開いたボールからは想像以上の光が私の隣に集まって、想像以上に大きなポケモンが出てきたのだった。
幸いにも何もない森林の中だったからか、広々とした夜空のなかそのポケモンは神々しく宙を浮いていた。

「か、かっこいい…!!」

現実ではない可能性があるとはいえ、いざ実物のポケモンに会えるとなると勇気が今ひとつ出なかったが、こんなにも存在感があり立派な姿を見せられては、この世界は夢ではないのだろうと知らしめてくる。
しかしそれと同時に、ついさっきまで自分が生まれ育った世界を思うと、胸がじわじわざわめいて目頭が熱くなった。

ーーー帰りたい。

- 2 -

*前次#


ページ:



ALICE+