入学式が終わり、1年生の教室の前では部活の勧誘合戦が行われていた。

「そこの!早くもジャージの元気なキミ!もう部活は決まって…」
「バレー部!!」

だだだ、と廊下を駆け抜ける足音が聞こえて振り向くと、ちょうど同じ程の身長で橙色の髪をした男子とぶつかってしまった。

「う、うわああ!あ、あのっ!ご、ごめんなさい!」
「ううん、平気だから」
「け、怪我とか、だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。…これからバレーの練習?」
「は、はいっ!」

あの、俺、中学のときは一回しか試合に出たことがなくて、でも、王様にリベンジしたくて!質問していないことを彼は一生懸命話してくれた。

「そうなんだ。そういえば、私も1年だから敬語はいらないよ」
「えっ?1年生?す、すっごい綺麗な人だから、てっきり先輩かと…!うわああ、いきなり綺麗とか言っちゃってすみません!」
「別にいいよ」
「あっ、あの!俺、日向翔陽!よ、よろしく!」
「高嶺巴です。これからよろしくね、日向くん」

よよよ、よろしくお願いしますぅぅぅ、という日向はまたも敬語になっていた。
しかし、高嶺の“これから”という言葉に若干の疑問を感じた日向は首を傾げる。

「実は私も男子バレー部のマネージャー志望で…」
「!!じゃあ一緒に第二体育館いこう!」
「え、あ、」

ガシッと掴まれたのは肩ではなくて、手首。そう認識したとき既に世界は横に流れていて、足は動いていた。
それから高嶺は気づいたら体育館入り口に着いていたが、あまりの移動の早さに身体がついていけず、足早に体育館に入っていった日向を置いて外で小休止していたのだ。
そのためそのあと起きた事件には直接関わることなく、以下のことはバレー部主将によって教えてもらった。

烏野へ入学した翔陽は早速バレー部に仮入部しに行ったが、そこで問題を起こしてしまい、3年生から門前払いを受けてしまった。
原因としては中学の初の公式戦に出場時に惨敗してしまった北川第一中学の影山跳雄に散々なことを言われリベンジを誓ったが、実はその影山とチームメイトとして再会する。
そして中学時代の試合を引きずってか、喧嘩を起こしてしまった2人。
「互いがチームメイトと自覚するまで部活には一切参加禁止」となってしまい、何とか挽回をするため3年生に試合を申し込んだのだ。
決戦は土曜日。
しかし翔陽はまだ基礎もまともにできないため、影山と共に特訓をすることになったらしい。

***

―――日向達との試合が決まったこと、こいつらに教えておいてくれないか?

2枚の紙が渡されると同時に、そう澤村に告げられたのが昨日、火曜日の放課後。
そして翌水曜日の昼休み。高嶺は頼まれた内容を頭で復唱しながら目的地へ向かう。
その途中もう一度渡された紙、入部届に目を落とした。
1ー4組と記され、その隣にはそれぞれ「山口忠」「月島蛍」とかかれていた。
山口の方は名前はおおよそ予想できるが、月島の方は男子にしては珍しい名前だ。

「っあ!!」

声がした方向に顔を上げると、そこにはそばかす顔の男子が高嶺を見て驚いた様子をみせていた。

「よかった…!名前もクラスも聞かなかったの後悔してたんだ」
「私のですか?」
「山口、急に走るなよ」
「ごめんツッキー!でもでもほら!さっき話した子!!自販機で100円拾ってくれた!」

彼の言う“100円拾った”とは、休み時間に高嶺が偶然自販機の近くを通りかかったときに足元に100円が転がってきたのでそれを拾い、駆け寄ってきた持ち主に渡しただけの話だ。
そしてそれが山口という少年だったという。
あの時、高嶺は担任に呼ばれていたので100円を渡した後すぐにその場をあとにしたので、それだけの接点だと思っていたが、まさかこんな偶然があるとは思わなかった。

「4組の誰かに用事?」
「あの、山口忠くんと…」
「えっ?!お、俺?」

どうやら彼が山口忠本人らしい。
手に持っている入部届けを見せると更に驚いた顔をする。

「っ君もしかして男バレのマネージャー!?」
「はい、よろしくお願いします」
「つっ、ツッキー…!!」
「うるさい山口」
「ごめんツッキー…!!!」

つっきー、山口と話をしている長身の男子を一目見て、高嶺は入部届にもう一度目を落とした。

「もしかして、月島…けいくん?」



ちなみに自販機傍で高嶺に会ったあとの山口

「ツッキーぃいいぃい!!!」
「……なんで飲みもの買いに行っただけでそんなテンション高いのお前」
「いま!自販機!凄い!女の子!可愛い!!」
「自動販売機は無機物だケド」

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