1
「ええっ!?怪盗キッドを見たぁ!?」
帝丹小学校の校庭に、少年の声が響き渡った。少年探偵団の一人、円谷光彦の声だ。幸いにも今はごく一般の生徒が登校するよりもずっと早い時間帯だった為、誰にも聞かれることはなかった。
「それ本当かよ!?歩美!!」
少年探偵団団長、小嶋元太もいつもより若干大きめの声で少女に詰め寄る。
「うん!!とってもカッコよかった!!」
問題となっている当の少女、吉田歩美は、二人よりも幾分落ち着いており、むしろ怪盗キッドに会えたことに感激している。しかも彼女、ただ目撃しただけではなく自分の家のベランダにいた怪盗キッドを発見し、ほんの少しだけだが話もしたという。目は爛々と輝き、その時の場面を思い出す彼女の顔は頬が緩みっぱなしだ。
「まさに、平成のアルセーヌ・ルパンですよねぇ!!」
普段は理知的な光彦も、今巷で人気のキッドの事となると興奮を抑えられないのか、小学生ならではの表情を見せる。
「…ふんっ」
ただ、キッドの話を聞いても興奮せず、むしろ不機嫌な表情になってきている少年が1人。
「で、平成のホームズさんはどうする気?」
その不機嫌な少年の横に立っていた、どう見ても小学生には見えない雰囲気を醸し出している少女。灰原哀は少年の方を向いて、面白そうに顔色を窺う。
「バーロォ。いつか捕まえてやるに…決まってんだろ!!」
ホームズと呼ばれ少年、『江戸川コナン』は歩美の話でそっちのけになっていたサッカーで使っていたサッカーボールを、校庭にあるゴールにめがけて思いっきり蹴り飛ばした。
その日の夜、小五郎か三日後に大阪へ行く事を伝えられた蘭は、大急ぎで支度を始めた。そんな忙しさで目の回っている蘭とは裏腹に、コナンはというと、パソコンから警視庁のHPへアクセスしていた。
警視庁は、怪盗キッドの予告状を公開する慣行があるようだ。元々そういった事はしなかったが、怪盗キッド本人がマスコミに対して予告状を出したのを皮切りに、警視庁のHPでも掲載することが最早習慣となったのだ。
黄昏の獅子から暁の乙女へ
秒針のない時計が12番目の文字を刻む時
光る天の楼閣から
メモリーズ・エッグをいただきに参上する
世紀末の魔術師
怪盗キッド
予告のメモリーズ・エッグとは、先月、鈴木財閥の蔵から発見された、ロマノフ王朝の秘宝、インペリアル・イースターエッグのこと。インペリアル・イースターエッグとは、皇帝が皇后への復活祭の贈り物として、宝石細工師・ファルベルジェに作らせた卵であり、1885年から1916年までの間に50個作られていた。従って、今回発見されたエッグは51個となる。
そして鈴木財閥では51個目のエッグを、8月23日から大阪城公園内にオープンする「鈴木近代美術館」で展示されることになったのだ。
***
8月22日。コナン達は、早朝にも関わらず新幹線で新大阪駅にやってきた。勿論、今回のキッドの犯行を阻止するためである。エスカレーターを降りると、改札を出たすぐの所で、今回小五郎に依頼した鈴木財閥の令嬢であり、蘭と百合の親友でもある鈴木園子が手を振っていた。
「らーん!!ゆりー!ここよ、ここー!!」
「あ、園子!!」
園子に連れられて、一行は車へと乗車した。園子が蘭たちを迎えに来るために乗ってきた車だ。無論運転手付きで。全員が乗ったのを確認すると、運転手はゆっくりと車を走らせた。
「ほお、リムジンか。流石鈴木財閥」
小五郎が感嘆の声をあげ、腕を組みながら車内を見渡す。ちなみに、座席は4人が2人2人で向かい合う形になっており、コナンと小五郎は、進行方向に向かっている方に座っており、蘭と園子と百合はそれに向かい合うように座っている。そのさらに前に、運転席と助手席がある。所謂スタンダードリムジンの形だ。
「だって今日は、特別なんですもの」
「特別?」
園子の言う「特別」の意味が分からず、小五郎は頭に疑問符を浮かべる。すると園子は両手を顔の前で組んで蘭の方を見た。
「だって憧れの怪盗キッド様に会うには、これくらいでないとねぇ〜」
「もう園子ったら・・・」
園子は嬉しそうに語るが、蘭は苦笑を見せた。小五郎は小五郎で、
「(憧れのキッド様だぁ…?)」
「(ハハハ…)」
と、半ば呆れかえっている。横のコナンも、ため息が零れるのみであったのだ。
「あ、そうそう。運転してくれているのは、パパの秘書の西野さんよ」
「よろしく」
園子が体を反転させて運転席の方を見た。4人もつられてそちらに視線を移す。運転席の西野真人という、少し気が弱そうだけれども気はよさそうな若い男性が、少しだけ目線をこちらにして軽く会釈をする。勿論運転中なので、すぐまた前方を見なおしたが。
「彼はず〜っと海外のあちこち旅して回って、英語・フランス語・ドイツ語がペラペラなんだよ!」
「へぇ〜凄い!」
園子は再びこちらに向き直し、軽く西野さんの紹介をしてくれた。顔に似合わず優秀な経歴を持つ彼に、蘭は驚きの声を発した。向かい側で聞いていたコナンも驚きの表情を隠せなかった。その後、キッドの目的のエッグがある美術館まで、車はひたすら走り続けた。