五人を乗せた車が、新大阪から新御堂筋、御堂筋を経由して中央大通、さらに大阪府警察本部の横を通り、天守閣こと大阪城へと到着した。
 公園内には、周りの伝統ある古い建物に少し不釣り合いな近代的な建物が建設されていた。鈴木近代美術館である。
 車が正面入り口前で停車すると、小五郎が右側のドアを開け外に出た。その後に園子が出て、反対側の扉からは、残りの三人が降車した。小五郎が当たりを見回すと、既に相当な数の警察官が張り巡らされていた。地上には警察のヘリまで飛んでいる。

 「凄い警戒ね…」
 「まさに蟻の這い出る隙もねえって感じだ…」

 蘭がポソッと声を漏らした。普通の人間なら、見たこともない光景だ。当たり前の反応だろう。小五郎も同様の反応を示した。それほどまでに、2人の目に焼き付いた光景だったのだ。

 「クスッ、当ったり前よ。相手はあの怪盗キッド様!!なんたって彼は…」
 「神出鬼没で変幻自在の怪盗紳士。固い警備もごっつい金庫もその奇術紛いの早業でぶち破り、おまけに顔どころか性格まで完璧に模写してしまう変装の名人ときとる。フッ、ホンマに・・・。面倒臭い奴を敵にまわしてしもたのぉ、工藤?」

 園子が得意げに今まで行ってきた犯行手口を語ろうとするも、ある青年によって遮られてしまう。
 その青年は、江戸川コナンの本当の正体を知っており、西の高校生探偵と呼称されている、

 「(は…服部!?)」
 「まったコイツか…」

 服部平次であった。彼はバイクで颯爽と現れた。それもそのはず、彼の住んでいる場所は大阪、つまり鈴木近代美術館は目と鼻の先にある。彼のバイクの後ろには、同学年くらいの女の子が乗っていた。服部平次の幼馴染の遠山和葉だ。
 小五郎も、平次の登場に嫌そうな表情を見せた。一応小五郎も探偵の端くれ、新一や平次の事は職業柄ライバルになるので、あまり快く思ってないようだ。

 「んもうっ、何で服部君いっつもコナン君の事工藤って呼ぶの?」
 「ハハッ、スマンスマン。いや、こいつの目の付け所が工藤によう似とるんでなぁ。ついそない呼んでしまうねん。」

 蘭は平次に呆れた様子で問いかける。が、平次は蘭の文句を適当に受け流した。当の本人であるコナンは、不満一杯、文句一杯の眼差しを平次に向けた。

 「ほ〜んま阿呆みたい。きょーも朝早うから工藤が来る工藤が来る言うて…。いっぺん病院で診てもろたほうがええんとちゃうの?」

 和葉が平次に若干喧嘩腰で食いつく。勿論平次も黙っておらず、それに反論してちょっとした痴話げんかが起こる。東京組は唖然と見ていたが、いつもの光景であることに違いはなかった。園子が蘭に尋ねた。

 「ねえ、彼が西の高校生探偵服部平次君?へ〜結構いい男じゃない。」
 「クスッ。駄目駄目、服部君には幼馴染の和葉ちゃんがいるんだから。あんな風に喧嘩してるけど、本当は凄く仲がいいんだよ」

 二人の会話を聞いていた百合が、視線を蘭から平次たちに移した。二人は言い争いをしている。
 といっても、平次が一方的に文句を言って、和葉は知らんぷりの一点張りの光景だが。喧嘩するほど仲がいい、とはこういう事を言っているのであろう。
そもそも本当にこの二人の仲が悪ければ、ここに和葉の姿はない。平次が連れてくるはずがないのだから。
 なんだかんだ言っても、本当はいいコンビだということが窺える。

 「見りゃ分かるわよ。新一くんと百合にそっくりだもの」
 「でしょ〜」
 「でも、百合は殆ど突っかからないからどっちかって言うと、ケンカってより、新一くんが尻に敷かれてる感じ」
 「あ、それはあるかも。百合は何言っても反応ないんだから、こっちが逆に怒りづらいのよ」
 「そんで何だかんだ言って、大抵最終的に新一くんが謝る立場になってるしね」
 「「ほんっとダメ男よねー…」」

 新一と百合の話になっていた筈が、何故か新一の悪口へと発展していった蘭たち。
 二人のビジョンには、百合と新一が一緒にいた頃、よく二人で言い争っていた姿を思い出した。といっても、不思議系美少女はいつも飄々としていて、反対に新一の方が突っかかっていたことが殆どであった。
 それもそのケンカの発展の理由は、百合が他の男と話していたことや、百合が自分と帰ろうとしないことや、百合が百合が…と。全てがダメ男と呼ばれた新一のヤキモチからだ。傍からすれば、只の束縛男にも見えてくる。

 園子達には今ここに新一という男はいないと思っているからこそ、このように思いっきり悪口を言えるのだが
実はその"本人"が額に怒りマークをつけて聞いていたとは、知らなかっただろう。

 ▽▲▽

 「おお!これは毛利さん!」

 小五郎達が会長室に案内されると、中にいた鈴木史朗――鈴木財閥会長で園子の父が快く出迎えてくれた。

 「遠い所を良くお出でくださいました!」
 「や、どうも」
 「蘭さんと百合さん、そしてコナン君も、良く来てくれたね!それで、そちらのお2人は?」

 会長の質問に園子が前に立って二人を紹介する。

 「服部平次君と遠山和葉さんよ。パパ、平次君は西の高校生探偵って呼ばれてて関西じゃ有名だってさ!」
 「それはそれは…頼りにしてますよ!」
 「おう、まかしといておっちゃん!」

 相変わらずの調子のいい返事をした平次。

 「お前なー!鈴木会長に向かって"おっちゃん"て…」
 「まあまあ、毛利さん」

 平次に怒鳴る小五郎を制止して、会長は奥のソファーに座っていた人達を紹介してくれた。
 ロシア大使館一等書記官のセルゲイ・オフチンニコフ、美術商の乾将一、ロマノフ王朝研究家の浦思青蘭、フリー映像作家の寒川竜。
 セルゲイと乾のエッグの取り合い、そしてそれを囃し立てるような寒川の行動。話を聞く限り、彼らもまた、エッグを狙っているのだ。

 その後、この四人には帰ってもらいエッグを見せてもらえる事になった。しかし四人が帰る際、エッグを持ってきた西野を見て寒川が何やら驚いていた様子をコナンは不思議そうに見ていた。

 ソファに促された小五郎たちの前に、エッグが箱から出された。実際に目にしたそれは、思っていたよりも地味で、そこらの骨董屋に並んでいそうなものだった。
しかし、蓋を開けると中には黄金で出来たニコライ皇帝一家の模型があり、さらに、側面の鍵穴に鍵を差し込んで回すと、エッグの中央にいたニコライ一家が上に出てきたのだ。
 上がり終わると、今度は本を持ってる皇帝の手が動いてページをめくる。

 「へー…おもろいやん、これ!」
 「ファベルジェの古い資料にこのエッグのデザイン画が残っていてね。これによって本物のエッグと認められたんだよ」

 近くにあった資料を取り出し、会長は皆にそのデザイン画を見せた。

 「メモリーズ・エッグっていうのは…ロシア語を英語にした題名なんですか?」
 「ああ、そうだよ。ロシア語では――воспоминание。日本語に直すと"思い出"…」

 そして、今度はコナンが子供らしく疑問を投げかけた。

 「ねえ、何で本をめくってるのが思い出なの?」
 「バーカ!皇帝が子供たちを集めて本を読んで聞かせるのが、思い出なんだよ!」
 「エッグの裏で光ってるのは宝石ですか?」
 「これはただのガラスなんだ」
 「え?」

 皇帝から皇后への贈り物だというのに、意外にも使われているのは平凡なガラス。
 会長によれば、エッグの51個目を作る頃はロシアも財政難であったため、その影響ではないかという。しかしコナンの言うとおり、装飾品にしては価値がなさ過ぎる。
 
 「気になるといえば……」

 服部の言葉で、話はキッドの予告状のことになった。光る天の楼閣について、服部と和葉が議論しているところに入ってきたのは、中森と茶木だった。
 それから話は時刻のことに移り、小五郎の推理で、午前三時が予告の時間だということになった。それまで大阪を案内してくれるという平次と和葉の誘いに乗り、蘭たちは美術館を後にし、難波布袋神社に向かった。しかしコナンは、その刑事の予告場所のよみが腑に落ちないようだった。

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